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創業123年、松竹に見る、老舗企業の組織変革の現場。前編

作成者: m-saito|2019.03.01
松竹と言えば、歌舞伎はもちろん映画をはじめとしたエンタテインメント領域で、誰しもにとって馴染みのある老舗企業だ。伝統と誇りを大切にするだけではなく、変化を求めて動き出したのは2016年のこと。以来、広報・経営企画・人事を中心として、部門を超えた協力体制で「2020年ビジョン」実現に向けて歩みを進めている。「2020年ビジョン」に込められた思いとは何か、そしてどのようにして社員へ浸透させていったのか。広報・経営企画・人事、各部門の推進者に話を聞いた。

会社概要
(松竹グループ)
1895年創業。映像事業、演劇事業、不動産・その他事業の3つを主体とする総合エンタテインメント企業グループ。タレント・俳優養成及びマネジメントの松竹芸能株式会社をはじめとして、18のグループ会社を擁する。

プロフィール
・松竹株式会社 
  経営企画部 広報室 室長 村上 具子氏
  経営企画部 経営企画室 室長 岡田 敦子氏
  人事部 人事戦略課長 兼 労政スタッフ 黒﨑 淳史氏

・株式会社フォワード(現:バイウィル)
  シニアマネージャー 齋藤 雅英 

 セクショナリズムでは大きな変化は起こせない。「総合エンタメ企業」への挑戦

齋藤雅英(以下、齋藤):言葉だけではなく実際に、部門を超えた強い協力体制で、新ビジョンの浸透を進めている事例として、松竹さんにお話をおうかがいしたいと思いました。老舗企業でもある御社の新ビジョンは、「総合エンタメ企業」。決定の背景から教えてください。

経営企画部 広報室 室長 村上 具子氏

村上具子氏(以下、村上氏):前提として、松竹は、映像や演劇・不動産をはじめ展開している事業が様々なため、事業部毎の交流が少なかったんです。ただ、全社で掲げた目標(数字)を達成していくためには、今まで通りのことをやっていたのでは難しいことは明らかでした。そして、今までとは違った大きなつながりや動きを意識して欲しいという経営の想いが発端になっています。そして、映画や歌舞伎だけではなく、すべてを包括する言葉をと考え、2020年ビジョンとして「総合エンタメ企業」という呼び方になりました。

岡田敦子氏(以下、岡田氏):2020年のその先も、ゴーイングコンサーンではないですが「事業を継続していくためにどうするか」ということがベースにあります。ビジョンから中期経営計画を作成したのですが、本来は2017年からスタートすべきタイミングのところ、2018年スタートとなりました。つまり、1年中計がなかった状態だったんですね。そこまでしてもビジョンを達成していくプランを立てたかったということなので、非常に想いが込められたものだと捉えています。

齋藤20166月のタイミングで、全社員の前で2020年ビジョンを発表するカンファレンス(場)を設けられたと思いますが、何をどのように伝えようと考えていたのでしょうか。

村上氏:広報の立場としてお話しします。というのも、経営企画は、全体のバランスを見て経営陣が考えていることをどう形にしていくかが役割ですが、広報はできあがったものをどう届けるかなんです。決定したことであってもストレートに社内外に公表したら、何を伝えたいのか分からないということにもなりかねません。受け手の状況を想像して理解して、その上で伝える方法を考える。個人的な意見かもしれませんが、これは、映画や演劇の仕事とも同じだと思います。お客様にどう届けるのかを意識して作品をつくる。会社全体を大きな作品として捉えると、それをどう届けるのかを考えて実行することが役割だと捉えています。中身はもちろん大事ですが、届け方を特に意識しています。

中計リリース1年間の後ろ倒しという決断。覚悟を持って策定した新・中期経営計画

齋藤:カンファレンスと同時期の2016年6月に、中期経営計画の策定がはじまったとお聞きしていますが、リリースは2018年です中計が1年間ないという状態になってもこだわった、新中計策定の背景を聞かせてください。

経営企画部 経営企画室 室長 岡田 敦子氏

岡田氏:当初は、2017年から新しい中計をリリースする予定で進めていました。しかし、トップと会話をする中で、「2020年は特別な年であり、2020年以降を含めて考えると非常に重要な中計になる」とはっきりと伝えられました。そこから、当初考えていたプランは白紙に戻して、最初から考え直すことになりました。トップが考えたことを落とすだけのやり方は違うし、現場で考えたことをそのまま採用するというのも違う。「双方の思いをぶつけた上で生まれるプランにしたい」という意図でした。それはどうやったらできるのか。社員を巻き込んでいくことが必要だと考えましたが、自分たちだけではできないとも思い、広報に相談しました。「どうやったら自分ごとのように中計を捉えられるのか」を考えることがはじまりでした。


齋藤:どんなスケジュールで進んでいったのでしょうか。

岡田氏:2016年7月に、2020年に向けて何が大事なのかという、全役員が集まっての討議会を実施しました。そしてその結果を取りまとめて、グループ会社の社長や執行役員・部長に伝え、またさらにディスカッションしてもらうという場を設けました。そしてその後、その内容を全社員に共有していきました。パブリックコメントという呼称なのですが、アンケート形式で社員の声を聞かせてもらいました。

役員の本気が、社員に届いた瞬間。各推進担当の、情熱

齋藤:会社の重要な決定事項に対して、自分たちが意見を伝える場があるという経験は、松竹さんの歴史から言っても珍しいのではと思いますが、社員の皆さんの反応はいかがでしたか。

村上氏:そうですね、パブリックコメントという点では、自分たちの声を直接会社に伝えられるということで、非常に歓迎されました。普段は意見を伝えるとしても上司が相手になりますから、直接会社に言えるんだという感覚があったようです。

岡田氏:以前は、中計の存在を知らなかった社員も多かったと思います。ですが、パブリックコメントはもちろん目標とのリンクや様々な仕掛けをしているので、誰も知らなかった状態から、知っている人が増えた状態にはなった。小さな一歩ですが、良いことだったと思います。

村上氏:ありましたね。広報としては「経営陣だけで中計をつくっている」という受けとめられ方になったら絶対にダメだと思っていました。その中で、管理本部の役員が「中計を伝える役割を担う」と言ってくれたんです。しかも自分でパワーポイントを使ってポスターまで作ってきて。演劇分野のご経験が長い方なのですが、管理本部に赴任して、自ら「やろう」と言ってくれたことのインパクトは、非常に大きかったと思います。

齋藤:全社員へのアンケート実施という手法を通じて、役員陣が本気になったということでしょうか。

村上氏:そうだと思います。さらに、役員自身の本気が社員にも伝わったからこそ、アンケートの回収率が92%にも上ったのではと推測しています。

写真右:人事部 人事戦略課長 兼 労政スタッフ 黒﨑 淳史氏
写真左:株式会社フォワード(現:バイウィル) 齋藤 雅英 
               

齋藤:先ほど岡田さんから「目標とのリンクや様々な仕掛け」というお話が出ましたが、人事の役割についてもおうかがいできればと思います。「総合エンタメ企業」を目指す上で、人事部が大切にしていることは何でしょうか。

黒﨑淳史氏(以下、黒﨑氏): 2018年の2月に人事制度の見直しがあったのですが、その際社員に向けて、カンファレンスという名称で30数回の説明会を行いました。人事としては、「組織のパフォーマンスを最大化するために」という想いを掲げて取り組みましたが、それこそが、「総合エンタメ企業」になっていくために必要なことだったと思います。つまり、「総合エンタメ企業」を目指す上では社員一人ひとりがパフォーマンスを最大化していくことが大切で、人事制度の見直しや各施策の取り組みは、社員のパフォーマンス最大化を支えるベースになるものとして、中期経営計画とも連動していると考えています。


対談後編:創業123年、松竹に見る、老舗企業の組織変革の現場。後編

 

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