ブログ | 株式会社バイウィル

【総研ブログ】COP30 “Belém Political Package”の採択からみるブルーエコノミーの推進

作成者: N.MURAKAMI|2025.11.26

史上初めてブラジル・アマゾン河口の都市ベレンで開催された国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)が閉幕。195の締約国は、多国間主義が人々に恩恵をもたらす気候対策を加速できることを証明する「ベレン・ポリティカル・パッケージ」を承認し、気候変動への取組みにおいて、緊急性を団結へ、団結を行動へと変える人類の決意を示した。コンセンサスにより承認された29の決定事項には、加速するアクションおよび人々の生活とより密接に結びついた気候レジームへの共同誓約を新たにする、化石燃料からの公平かつ公正な移行・適応資金・貿易・ジェンダー・技術などのテーマに関する合意が含まれている。

そのパッケージに含まれる「グローバル・ムチラォン1 決定(Global Mutirão Decision)」には分野を横断した幅広い内容が盛り込まれているが、森林破壊や生物多様性の損失と気候変動への統合的対応を会議の中心に据えた議長国ブラジルの姿勢に倣い、筆者はとりわけ海洋・沿岸の生態系回復に係る協議やアクションプランに焦点を当ててCOP30を概観し、ブルーエコノミーの重要性について解説する。

 

ブルーエコノミーが希求されている背景

ブルーエコノミーとは、海洋資源を持続可能な形で活用しながら、経済成長や雇用創出、環境保全の両立を目指す経済モデルのことである。世界銀行は「海洋生態系の健全性を保ちつつ、経済成長や生活水準の向上、雇用創出のために海洋資源を持続的に利用すること」と定義しており、2012年の「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」でブルーエコノミーの推進が初めて提唱されて以降、海の価値を最大限に引き出しながら同時にその環境基盤を守るという視点が大切にされてきた。

ではなぜ近年ブルーエコノミーに注目が集まっているかというと、とりわけ急速な人口増加と、気候変動の影響などによる自然災害が深刻な被害をもたらす開発途上国・島嶼地域において、陸域で生産できる食料には限界があるからである。海洋資源と水産業・食料供給・栄養・雇用創出・地域産業を改善または強化するための大きな可能性を秘めているブルーエコノミーを推進することで多くの人々が救われるとともに、持続可能な海洋の利活用そのものが地域の経済的価値を生み出す観点から、官民資金が動員されている。

 

COP30を特徴づけるテーマの1つ:「海洋」

そうした世界的な潮流のなか議長国のブラジルは、海洋対策を気候交渉の中核に組み込むことを目指してきた。地球のもう一つの大きな肺である「森林」と並んで、地球表面の約71%を覆う海洋が気候変動対策において果たす重要な役割を認識しなければ、気候変動を緩和することはできないからである。COP30における海洋重視は科学的根拠に裏打ちされ緊急性を帯びているものの、真の課題は、気候変動の緩和策・適応策を実施フェーズに移すための制度・資金調達メカニズム・説明責任構造(accountability structures)を構築できるかにあった。資金調達に関しては「ブルー・パッケージ」2 が推奨され、加盟国・団体の誓約および官民資金の動員に基づいた取組状況ならびに海洋・沿岸域における現場発の優良事例を垣間見るため「オーシャン・パビリオン」にも注目が集まった。

 

会期中に表明されたこと(ブルー領域)

17か国が「ブルーNDCチャレンジ」3に参加し、「海洋気候ソリューション」を国家計画に統合することを誓約した。5つの海洋ブレークスルーは、リオ条約目標の海洋保護・海洋再生可能エネルギー・水産食品・海運・観光と整合する「ソリューションを加速するための共同計画」を進める。また、ワン・オーシャン・パートナーシップ(One Ocean Partnership)を通じて、パートナーは2030年までに200億米ドルを動員し、再生可能な海洋景観の構築と、気候レジリエンスと繁栄に海洋の公平性を組み込む2,000万のブルー・ジョブを創出することを約束した。これらの取組みは、森林から沿岸・海洋景観に至る自然の保護と回復が、気候変動対策と持続可能な開発目標の両立に不可欠であることを示している。

 

「実施のCOP」- 新たな時代の幕開け

議長国ブラジルは、ベレンでの勢いを今後の重要な節目へとつなげる決意を改めて表明した。その実現のため、全トラックにおける成果の確実な達成への継続的な注力、交渉結果と現実世界での実施とのより強固な連携、そして「グローバル・ムチラォン」の包括的な精神に基づく協力の深化に取り組む。

化石燃料からの完全な脱却(フェーズアウト、ロードマップ化)に関して最終合意文書では明記が見送られたものの、気候変動がもたらす災害分野(適応策)への資金拡大を求める内容が含まれており、2035年までに適応資金を少なくとも現在の3倍にするという目標が掲げられた。

さて、残すところあと1か月で終わる2025年は「Ocean Super Year」とされ、BBNJ協定(国連公海等生物多様性協定)や国際プラスチック条約、漁業補助金協定の発効、深海底鉱物資源の開発規則の策定など、海洋保全に関する国際ルールの整備が進んだ年であった。本稿で言及した視点およびCOP30で表明されたことも踏まえ、海洋再生可能エネルギー(洋上風力発電、波力発電、潮力発電など海の力を利用したクリーンエネルギー)・ブルーカーボン・海洋バイオテクノロジー・海洋鉱物資源開発といった新興のブルーエコノミー産業が企業や地方自治体等によって主体的に実践され、次世代に豊かな海を継承する取組みが国内外で拡大されていくことを願ってやまない。

 


<注釈>
1: ブラジル先住民族の伝統に根ざす言葉 “Mutirão” は、「共通の課題・目標に向けた大規模な共同作業や助け合い」を意味する。

2: 海洋保護、エネルギー転換、海洋資源の持続可能な利用を目的としている。もう1つの焦点は、マングローブの再生やサンゴ礁の保護など海洋ベースの解決策を拡大できる資金調達メカニズムの拡充にある。30以上の国際的イニシァティブがこのパッケージ策定に参加し、ブラジル環境・気候変動省が調整に参画した。

3: 本年初めにフランスのニースで開催された第3回国連海洋会議(UNOC3)で提唱され、海洋に基づく気候ソリューションをNDCおよびその実施計画に組み込むよう呼びかけられた。

 

<引用または参考記事>
World Bank Group: “What is the Blue Economy?”
https://www.worldbank.org/en/news/infographic/2017/06/06/blue-economy

United Nations: “COP30 BRASIL AMAZONIA BELEM 2025”
https://cop30.br/en/news-about-cop30/cop30-approves-belem-package1