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【総研ブログ】総論賛成、各論反対の罠~COP30閉幕に寄せて

作成者: S.ENDO|2025.11.27

会期を1日延ばして、20251122日にUNFCCC-COP30(以下、「COP30」)が閉幕しました。

スムーズにスタートした今回のCOP30でしたが、最終的な合意内容は、事前に予想されていたものと比較すると物足りなさを感じます。総論賛成、各論反対というありがちな罠に陥ってしまった今回のCOP30について、S.ENDOが概説します。

以下、本文中のCOPは全てUNFCCC-COPを意味します。

 

最大の争点「化石燃料からの脱却に向けた工程表」合意ならず

産油国や一部の開発途上国の反対多数により、化石燃料からの脱却に向けた具体的な工程表については合意に達しなかっただけでなく、工程表作成自体についての合意文書への記載が見送られました。COP28で初めて「化石燃料からの脱却」が盛り込まれましたが、結果的に化石燃料からの脱却について世界全体の機運が後退したことを示しています。

気候変動への適応に対する資金の3倍増については合意

一方で、COP29で従来から3倍の年3000USドルへ増やすことが合意文書に盛り込まれた気候資金ですが、COP30では気候変動への適応に対する資金、つまり防災などの目的に拠出する資金を3倍にすることが明確となりました。

これは、全体の資金が3倍になっても結局、先進国がビジネスとして投資する再エネなどに資金が使われてしまい、開発途上国が求める防災などに資金が回らないことに対する懸念を払拭するものです。

資金の使い道がより具体的になったため、こちらは一歩前進したと言えます。

期待された規模には至らなかったTFFF

Tropical Forests Forever Facility(熱帯林保全資金)については、当初期待された250USドルの規模には達せず、約66USドルの規模でスタートすることが決まりました。53カ国が署名・支持を表明しましたが、実際に資金拠出を決定したのは、ノルウェー(30USドル)、ドイツ(10億ユーロ)、ブラジル(10USドル)、インドネシア(10USドル)、フランス(最大5億ユーロ)の5カ国に留まっています。

議長国のブラジルは、「始めることが重要」として、制度を発足させることを優先し、その実績を基に追加の資金を各国に求めることとしました。なお、制度として、資金の管理は世界銀行が行うことが決まっており、信頼性に関しては担保された形になっています。 

露呈した国際会議での合意形成の困難さ~総論賛成、各論反対のジレンマ

スムーズにスタートしたCOP30でしたが、改めて国際会議での合意形成の難しさが露呈しました。地球温暖化とそれに伴う気候変動対策として温室効果ガス削減が必要なこと、そして、それには化石燃料からの脱却が不可欠であることは誰もが理解しているはずです。

一方で、実際に化石燃料からの脱却を明確にすることやNDC(国が定める貢献)の公表などは、自国の経済状況などから消極的になっています。総論賛成、各論反対の典型的な例です。

このようなジレンマを打破するために、議長国ブラジルは各国との個別協議を行ったようですが、今度はそれがオープンな議論を妨げた、として批判の的にもなりました。

また、先進国の間ですら、脱炭素をビジネス化できている企業が属する国とそうではない国の間で、スタンスが異なります。日本の場合は、原子力発電所の再稼働が進まない中で、化石燃料脱却となると、エネルギー不足が懸念され、化石燃料からの脱却宣言については慎重でした。

一方で、COP30初日に、日本はブラジルやイタリアと共同で、2035年までにバイオ燃料や水素などを含む持続可能燃料の需要を4倍以上に拡大させるとした「ベレン持続可能燃料4倍宣言」を提案し、23カ国・地域の支持を得ました。

各国の利害が交差する中で、どう合意形成すべきか。すぐに答えは出ませんが、一つには政治的な決断が大きく力を持ちます。そして、その政治的決断を促すのは国民一人一人と言えます。また、官だけでなく民間の動きもより大きな意味を持ってきます。脱炭素の動きが利益を生み、資金循環が促されれば、自律的に脱炭素が進んでいきます。バイウィルが目指す世界観はそんな世界です。