こんにちは。内定者インターン生の大河内です。
前々回の石原のコラムでは、
①機能するブランドコンセプトを策定する
②作ったコンセプトを機能させるための施策
の二点についてお話致しました。
今回は上記の②に関連して、作ったブランドコンセプトや企業理念を日常の業務に反映させるための「行動指針」についてお伝えしたいと思います。
全2回の連載で、前編となる今回は「行動指針の役割について」。
続く後編は「行動指針策定のコツ」という内容で、皆様に有益な情報をお送りできればと思います。
さて、行動指針と聞いてピンと来ない方もいらっしゃるかとは思いますが、
いきなり結論から申しますと。。。
行動指針やスタイルとは、「ブランドコンセプトや企業理念といった抽象的な概念を、各社員の具体的な末端業務まで浸透・反映させるための道しるべ」です。
これだけではまだ分かりにくいと思いますので、
いくつか具体例を挙げつつ、行動指針の役割と全体像をお伝えできればと思います。
①リッツカールトンホテルの例
リッツカールトンホテルは、その客室の豪華さなどに加えて接客の質の高さでも有名なホテルです。「ある顧客が体調不良でハワイ旅行をキャンセルしてリッツカールトンに泊まりに来たと分かると、スタッフ個人の判断で南国風の部屋を用意した」というような、サービスに関する様々な逸話は皆様も一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
ここでリッツカールトンの企業理念を見てみると、「従業員満足とお客様満足の向上こそ利益をもたらす」となっております。確かに、先程の逸話は「お客様満足の向上」の象徴的な例かもしれません。しかし、自分がいちスタッフだとして、この企業理念を理解しただけで、先述の逸話のような行動が出来るでしょうか?私であれば難しいように感じます。
この疑問を解決するのが行動指針です。
リッツカールトンには『サービス・バリューズ』と言われる行動指針(以下一部抜粋)が存在します。
・私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲得します。
・私は、お客様の願望やニーズには、言葉にされるものも、されないものも、常におこたえします。
・私には、ユニークな、思い出に残る、パーソナルな経験をお客様にもたらすため、エンパワーメントが与えられています。
このような行動指針があればどうでしょうか。
必ずしも先述のような対応が出来るとは限りませんが、少なくとも顧客のニーズを汲み取り、個別の対応によってそれを満たそうという心構えはできると思います。
「お客様満足」という抽象的な概念について、「サービス・バリューズ」という行動指針がその具体的な在り方や方向性を規定し、従業員一人ひとりの行動を促進しているのです。
行動指針がどのようなものかおよそご理解頂けたところで、次はBtoBの事例を一つ。
②KOMATSUの例
株式会社コマツは産業機械や建設・鉱山機械、プレハブハウスなどの対法人向け商品で有名な企業で、上記のカテゴリで様々な商材を扱っております。海外進出にも積極的であり、1960年の設立以来、不安定な市況を幾度と迎えながらも安定した成長を見せている企業でもあります。
そんなコマツの経営理念を見てみると、「品質と信頼性を追求し、企業価値を最大化する」となっております。リッツカールトンの例同様、これだけでは各社員は自分の行動がコマツの経営理念に則っているのかどうか判断が付かない場面が多く出てくることは想像に難くありません。
そこで各社員の行動の判断軸となるのが、以下に抜粋する『コマツウェイ』と呼ばれる行動指針です。
「現場主義」
方針、戦略、改善計画などの基となる情報が現場にあります。現場の事実を重視、顕在化させ、情報を「見える化」することが重要です
「源流管理」
”製品の企画から市場での稼働、不具合発生に至るプロセス”を明確にし、発生する不具合を常により源流で改善して、不具合の再発防止を図ります
「方針展開」
トップマネジメントの経営方針を受けて、すべてのレベルの社員が自らの役割を認識したうえで、何をなすべきかを自主的に決定し実行に移します
このコマツウェイは、年50回を超える共有のためのプレゼンテーションや、コマツウェイ推進室の設置などといった徹底した共有・浸透施策によって、コマツの社員である限り、事業部や国境、階層を越えて共有・浸透されているようです。
このような徹底したコマツウェイの共通意識化・共通言語化が、長らく成長を続けるコマツの競争優位性の源泉の一要因であるように思われてなりません。
さて、リッツカールトンホテルとコマツの二つの具体例を通じて、冒頭で申しあげました、『「行動指針」が「ブランドコンセプトや企業理念といった抽象的かつ上位な概念を、各社員の具体的な末端業務まで浸透・反映させるための道しるべ」である』という言葉の意味を少しでもご理解頂けたなら幸いです。
では反対に行動指針がない場合、ブランディング上でどのような事態が起きうるのかを考え、行動指針の必要性を再度検証してみましょう。
今回はスターバックスコーヒーを例にとってみます。
ご存知スタバは、どことなくフレンドリーでありながら近すぎない、絶妙な距離感の接客をどの店舗・どのスタッフでも統一的に行っています。
そんなスタバのコンセプトは次のようなものです。
「私たちは一人ひとりのお客様の日常に心豊かで活力をもたらす瞬間を創り出します」
これだけを見ると、あるスタッフは現状のスタバのような接客スタンスを思い浮かべることが出来るかもしれませんが、また別のスタッフは高級ホテルやマンションのコンシェルジュのような堅くへりくだった接客スタンスを思い浮かべるかもしれません。そのまた別のスタッフはとにかくおいしいコーヒーを淹れることに執心し、接客にはあまり気を遣わないかもしれません。
どのスタッフも決して手を抜いているわけではなく、それぞれが”お客様のために”行動していたとしても、これでは店舗・スタッフによって顧客への対応にばらつきが生じ、スタバブランドの価値を最大限発揮できているとは言い難い状況と言えます。
上記はやや極端な例かもしれませんが、往々にして「コンセプト」のような、策定背景や細かいニュアンスまで伝わりにくい抽象的な言葉は人によって解釈が異なるものです。そしてそのばらつく解釈を統一的なものとするのが行動指針です。
従って行動指針がない場合、
・ブランドコンセプトや経営理念が社員の行動に適切に反映されない
・行動に反映されないからこそ、コンセプトへの共感や誇りも深まらない
といった根本的な問題が発生するのです。
結局のところ、字面だけ追ったところで各社員が何をすればよいかわからないことが多いブランドコンセプトや企業理念といった概念に対して、それを達成するためにはどのような思考の方向性であるべきか、どのような方法で行うべきか、を自社の個性を前面に出して規定し、社員をある一定の観点で束ね、均質化するものが行動指針であるという理解が分かり易いかと思います。
今回のコラムは以上になりますが、
皆様が気になるのは「行動指針があると良いのはわかった、じゃあどうやって作ればいいのか」であると思います。
この点については次回のコラム「行動指針の策定のコツ」でお話させていただきます。
最後まで読んでいただきありがとうございます!