事例 | 株式会社バイウィル

「やらねばならない」を「やりたい」に。参加型プロジェクトで実現した、全社で育てる環境分野の取組方針/阪急阪神ホールディングス株式会社様

作成者: 株式会社バイウィル|2025.10.23

概要

阪急阪神ホールディングス株式会社様は、1907年創立の箕面有馬電気軌道(後の阪急電鉄)を起源とし、2006年に阪急ホールディングスと阪神電気鉄道が経営統合して誕生しました。都市交通、不動産、エンタテインメント、情報・通信、旅行、国際輸送の6事業を柱に、鉄道や商業施設の運営、宝塚歌劇団や阪神タイガースなどの文化・スポーツ事業も展開しています。

2020年5月には、「阪急阪神ホールディングスグループ サステナビリティ宣言」を策定し、6つのマテリアリティを定めて、さまざまな取組をいち早く推し進めてきました。一方、マテリアリティの1つである「環境保全の推進」は、事業部門により関連度合に濃淡があり、グループ従業員それぞれも個人レベルでは自分ごと化しにくいという課題認識があったため、ちょうど策定を進めていた長期経営構想のなかで、グループ従業員やお客様にとって共感を得られるような形で、環境への取組の方向性をわかりやすく伝えることを目指し、バイウィルがご支援させていただきました。

ご提供サービス

・「長期経営構想における環境分野の取組方針」スローガン・ボディコピー策定
・同キービジュアル(イラスト)策定

 

※参考
阪急阪神ホールディングス様
長期経営構想における環境分野の取組方針について
https://www.hankyu-hanshin.co.jp/download/sustainability/materiality/environment/long-term_future_concept.pdf

 

「やらねばならない」環境の取組を、自発的な「やりたい」に変えたかった

──今回、「長期経営構想における環境分野の取組方針」の策定に取り組むことになった背景について教えてください。

 

相良様:きっかけは5年前にさかのぼります。2020年に、当社はサステナビリティ宣言と6つの重要テーマ(マテリアリティ)を策定しました。



1の「安全・安心の追求」は、都市交通をベースに、不動産、エンタテインメント、情報・通信、旅行、国際輸送と事業拡大してきた当社の根幹です。2の「豊かなまちづくり」は、それぞれの事業のネットワークを生かしながら価値提供することで、まちを豊かにするという、まさに日々取り組んでいるテーマ。そして、3の「未来へつながる暮らしの提案」は、100年以上続く歴史の中で、鉄道の敷設と併せた郊外住宅の開発や日本初の住宅ローンの導入、日本初の屋内プールの開設とその後の宝塚劇場への用途転換に象徴されるような文化・教育の充実した暮らしの提案など、1歩進んだ身近な生活サービスの提供を常にチャレンジし続けてきたもので、それぞれのテーマが事業の目的とも言えます。

また、4の「一人ひとりの活躍」についても、人がすべての事業の根幹であるという考えのもと、従業員満足度や働きがいの向上などグループ従業員への取組に加えて、社会貢献の一環として地域の次世代育成にも尽力してきました。6の「ガバナンスの充実」は言うまでもありませんが、いずれも「このテーマのために事業に取り組んでいる」と、従業員も理解しやすく、対外的にも非常にわかりやすい要素です。

ただ、5の「環境保全の推進」については、環境保全のために事業を行っている、と言い切るにはやや違和感があります。直接的には環境保全にかかわらない部署もあり、従業員全員にとって親和性のあるテーマとは言えませんでした。現場によっては、「自分たちの事業」と「環境保全」に、かなりギャップがあったかもしれません。

そこで従業員自身が「何のために環境保全に取り組むのか」「その活動を通じて、どのような価値をお客様に提供するのか」をわかりやすく言語化し、目標設定をして、推進していくための枠組みが必要だと考えたのです。

── 特に課題として重視されていたのは、どのようなことでしょうか。

 

相良様:サステナビリティ宣言において、エネルギー効率の改善(省エネ)や再生可能エネルギーの活用など、やるべき方向性を示すことはできました。しかし、「何のために」「どんな価値を」という具体的なレベルにまでは踏み込めていませんでした。

というのは、環境保全のための取組は手間やコストがかかりますが、企業としての収益に直結するとは捉えにくいからです。事業の基盤になっていることまでは理解できるけれど、短期的な収益につながりにくい活動を、はたしてどの程度までやるべきか。コストと捉えてしまえば、環境保全の推進は、「やらねばならない」「やらされ感」のような受け身の空気が生まれてしまっても不思議ではありません。

だからこそ、会社が宣言しているから「やらねばならない」というのではなく、自然と「やりたい」気持ちが湧くことが最大の狙いでした。環境保全の活動をコストと捉えるのではなく、取り組むことが自分たちの事業にとってもプラスになると自然に思えるような、まさに“従業員の意識変革”を目指したのです。



グループ経営企画室 サステナビリティ推進部 部長 相良 有希子様

参加型プロジェクトによって「なぜ必要か」「何を目指すのか」を引き出す

── 今回のプロジェクトは、メンバーを選抜と公募で現場を巻き込むという、なかなかない珍しい体制でした。どのような基準で選抜されたのか。また公募時の工夫点などもあれば教えてください。

 

光石様:今回のプロジェクト以前から実施していた、長期経営構想を検討するために“グループの将来のありたい姿を描く”というワークショップの参加者が選抜メンバーです。グループの将来を議論したメンバーと、環境分野の未来についても思考を深めたいと考えました。また、グループの既存の理念やビジョンとの連携や整合性を図るとともに、取組方針策定後のグループ内外への発信も見据え、阪急阪神東宝グループの広告代理店である阪急阪神マーケティングソリューションズのメンバーにも、今回のプロジェクトに参加してもらいました。

選抜メンバーは課長クラスだったので、公募は「新たな発想で未来を描いてほしい」という想いから若い世代に広く声をかけました。特に募集のための工夫はしなかったのですが、自然と集まったという感覚ですね。「皆こんなに関心あるんだ」と驚いたのを覚えています。

最近の若い世代の傾向として、環境問題が身近で関心が高いという理由もあるでしょう。しかし、それだけ集まったのは、事業部門ごとに環境に関する取組を進める中で、「なぜやらないといけないのか」という問いに自分なりの納得感を求めて参加した若手も多かったからではないかと感じています。

相良様:今回は絶対に参加型のプロジェクトにしたいと考えていたので、公募で大勢集まったのは大変嬉しい結果でしたね。

2020年に策定したサステナビリティ宣言は、経営層と人事総務室・グループ経営企画室から成る事務局を中心に協議を重ね、その内容を社外の有識者や各コア事業の代表者へヒアリングしてブラッシュアップする形で組み立てました。そのときは、短期間で方向性を打ち出す必要があったため、多くの従業員を巻き込んでともに創る、というところまでには至らなかったのが心残りでした。特に環境に関しては、その結果、やや現場と距離感が生まれてしまったかもしれません。「なぜ必要か」「何を目指しているのか」という想いを引き出さないと、自分ごと化されにくいと感じていました。

だから今回は、“従業員参加型”で進めたいという想いは強かったですね。実際に皆、ワークショップは非常に熱心でした。ビジョンもイラストも大変良いものができましたが、自分ごととして捉え、皆で一緒に創り上げたというプロセス自体に充分な手応えを得られました。


グループ経営企画室 サステナビリティ推進部 課長 光石 卓史様(写真左)、同 那口 いつ季様(写真右)

── プロジェクトがスタートしてから印象的だったこと、記憶に残っていることはありますか。

 

光石様:選抜メンバーや公募メンバーによるワークショップも印象的だったのですが、個人的には、プロジェクトの冒頭、バイウィルさんに実施していただいた経営層のインタビューです。経営層が、従業員の腹落ち感や共感を重視していると知ることができ、私たち事務局メンバーの想いと一緒だと感じられたのは貴重な発見でした。また、環境保全の活動に取り組んでいることを全面的に押し出すのではなく、自分たちの活動が“自然と(Naturally)環境保全につながっている”という姿勢を尊重したいと話していたのが印象的でしたね。少し控えめとも表現できるこの姿勢は、当社らしさを表わす重要なポイントだと感じましたし、最終的なコピーにもつながっています。

従業員・経営層の想い、そしてお客様にとっての価値。この2つを両立して、自分たちが共感できる言葉にできた

── “従業員の意識変革”という狙いもあった重要なプロジェクトのパートナーとして、バイウィルを選んでくださったのは、どのような理由でしょうか。

 

相良様:バイウィルさんは環境に特化されていて、J-クレジット創出サポートをはじめ具体的な事業を展開されています。環境に関する専門知識や経験、知見とブランディングの専門性を兼ね備えていることは大きな魅力でした。

── 実際にプロジェクトが進む中で、バイウィルはどのようにお役に立てましたか。ぜひ、お聞かせください。

相良様:目指す未来として2040年を設定しました。ワークショップの冒頭ではバイウィルさんから、今、環境分野で何が起こっていて、2040年に向けて社会がどのように変化していくかなどを非常に丁寧に話していただきました。プロジェクト全体がスムーズに進行できたのは、ここで参加者全員の意識合わせができたからですね。重要なポイントでした。

光石様:ワークショップの中でも、バイウィルさんのファシリテートのおかげで、想定外の良いキーワードが引き出せました。提供価値として「安心」「快適」「感動」などのキーワードは経営理念にもあるので、プロジェクトメンバーから出てくることは、ある程度予想はできました。しかし、「未来への貢献実感」や「地域の皆さんと一緒に取り組む喜び」などの言葉が出てきたのは、非常に特徴的でしたし、私も意外でした。


「長期経営構想における環境分野の取組方針」のスローガンとボディコピー


相良様:同感です。私がバイウィルさんのファシリテートで大変印象的だったのは、“お客様にとっての価値”を“お客様目線”で言語化することを起点に進めてくれたことです。それと同時に従業員や経営層の想いも反映させることで、社内の納得感も高められました。

実際に私たちグループの特徴は、お客様の「参画」や「共感」のもとに事業が成り立っている点と、私たち自身も共感や共創の機会の提供を大事にしている点です。ワークショップでも、この両面を表わす言葉が多く出ていました。そういう意味でも、最終的にお客様のベネフィットと当社の提供価値の両面から言語化できたのは、本当によかったと実感しています。

また、自分たちが共感できる言葉を創り出す方がよいとすすめていただき、何度も議論を重ねたのですが、そのおかげで今後、推進する際に自覚や自負が芽生え、活動にも加速がかかるだろうという期待も感じられています。

目指す世界観を社内外にわかりやすく伝えるために、イラストは必然だった

──  今回はアウトプットとして言葉だけでなく、キービジュアルとなるイラストも制作させていただきました。もちろん言葉だけでも成り立ちますが、特にアウトプットとしてイラストにこだわられたのは、どのような理由でしょうか。

 



「環境分野の取組方針」イラストや関連資料


光石様:世界観をイメージしやすいという点です。イラストは私たちが取り組みたい内容を、お客様や従業員にわかりやすく伝えられるメリットがあります。もともと今回のプロジェクトの目的は、私たちの考えを“わかりやすく伝える”ことだったので、イラストは必須と考えていました。

那口様:イラストについては、やはり“まちづくり”という視点で暮らしをイメージしたものをつくりたいという想いが強かったですね。
中央には鉄道事業を象徴する電車、周辺には当社グループの代表的な建物など、ランドマークとなるイメージを取り入れています。

また、全体をドーナツ型にすることで“つながり”を表現しました。ボディコピーの中にも「人と、環境と、未来とのつながりを感じられるまち」というフレーズがありますが、キービジュアルの中にも、たくさんの人や環境への取組を描くことで“調和”や“つながり”を表現できるよう意識しました。「環境」がテーマなので、アースカラーを使って優しい印象にしたのもこだわったポイントです。

スローガンやボディコピー、イラストは最終的に決まるまでさまざまな意見やリクエストが出ました。なかなか事務局内でも意見がまとまらず、完成までに時間はかかりましたが、バイウィルさんが都度、適切なアドバイスをくださったことで、皆が納得できるとても良い成果物を創り上げられたと思います。

光石様:かなり皆、自由に発言をしていた記憶があります(笑)。バイウィルさんは皆さん、粘り強く私たちの意見に耳を傾けていただいて、最後まで一緒に良いものをつくりたいという想いが伝わってきましたね。

那口様:現在、グループ広報誌やウェブサイトでコピーやイラストを公開しており、好意的な反応を多く頂きます。「言語化したり、イラストを作り上げたりする過程は大変で難しいと思うけれど、やはり大切だね」と言ってくれる方もいて嬉しかったです。

社内外でプロジェクトメンバーが自発的に語り、紹介。“ともに創りあげた”方針が着実に自分ごと化

──  プロジェクトを終え、今後どのような展開を考えておられるか、教えてください。

 


グループ経営企画室 サステナビリティ推進部の皆さん


光石様:今後は社内研修などにも活用したいと考えています。私たちグループがどのような方向に進もうとしているのか、このイラストと言葉で伝えていきたいですね。

相良様:プロジェクトを振り返ると、まさに「ともに創ろう」というキャッチコピーのとおり、皆と共に創ったという実感があります。大勢の人が参加してくれたことで、“自分ごと化”という当初の目的も着実に進んでいると肌で感じています。

例えば、インターンシップの場で担当者が学生さんたちに向けて、自発的にビジョンを朗読したという話も聞きました。学生さんたちの反響もよく、環境の取組についてさまざまな質問が飛びだしたそうです。また私自身も、ある会議でプロジェクトに参加していた課長が「私たちが一緒に作ったんですよ」とビジョンとイラストを話題にした場面にも出会いました。

完成間もない段階で、すでに従業員が自ら語り始めているんです。あらためて非常にやりがいのある、良いプロジェクトになったと手応えを感じています。皆で共に創ったものを、これから一緒に発展させていく。これからも皆とともにがんばっていきたいですね。



───本日はありがとうございました。

 

(掲載されている所属、役職およびインタビュー内容などは取材当時のものです)