事例 | 株式会社バイウィル

森林J-クレジットの創出を通じて森林の新たな価値を創造し、地域と林業の未来を拓く/南ひだ森林組合さま

作成者: 株式会社バイウィル|2025.11.17

概要

岐阜県下呂市、その面積の実に92%を占める広大な森林を管理・活用し、地域の林業を支え、豊かな森林を守り育てる、南ひだ森林組合さま。戦後植林された木々が利用期を迎える一方で、木材価格の低迷や所有者の高齢化など、林業は多くの課題を抱えています。そうした中、同組合は森林が持つ「CO2吸収源」としての価値に着目。所有者の皆さまへの新たな価値還元と、持続可能な森林経営を目指し、森林J-クレジットの創出を決意されました。

そのパートナーとして弊社バイウィルをお選びいただき、この度、約930ヘクタールの森林がJ-クレジットとして認証されました。南ひだ森林組合さまのクレジット認証は、バイウィルにとって初の森林J-クレジット認証となります。

 

今回は、クレジット創出に至るまでの背景や、そのプロセスにおけるご苦労、そして地域林業の未来にかける思いについて、詳しくお話を伺いました。

ご提供サービス

 森林経営によるJ-クレジット創出支援

 

地域の92%を占める森林を守り育てる、組合の使命


南ひだ森林組合さまが管理している森林

── まず、南ひだ森林組合さまの事業内容について教えてください。

細江組合長:我々の組合は岐阜県下呂市にありまして、下呂市に一つだけの森林組合です。この地域は面積の約92%、実に7万8000ヘクタールが森林という、非常に緑豊かな場所です。私たちの主な事業は、この広大な森林を健全に管理・整備し、そこから生産する木材を販売することです。特に民有林、いわゆる個人の皆さまが所有する山を対象に活動しています。

具体的な森林整備の内容は、木を植える「植栽」から始まります。植えた苗木が雑草に負けないように行う「下草刈り」、木が成長する20年から40年の過程で、成長の悪い木や雑木などを取り除く「除間伐」と、段階的に手をかけていきます。そして、木がある程度大きくなると「保育間伐」という作業を行います。これは、木の成長をさらに促すために、密集した木を間引いてあげる作業です。品質のあまり良くない木や、他の木の成長の妨げになる木を切ることで、残った木が太く、丈夫な優良木に育つようにするのです。

 

木材生産事業では、そうして育った木を伐採して市場に供給します。「搬出間伐」は、間伐した木を山から運び出して販売するものです。そして、木が十分に成熟し、資源として本格的に活用できる樹齢(およそ60年生以上)になると、「皆伐」といって、その区画の木をすべて伐採します。伐採した後は、また新たに植栽を行い、次の世代の森林を育てていく、というサイクルになります。


私たちは年間でおよそ600ヘクタールの森林を整備し、そこから約4万立方メートルの木材を生産しています。また、組合自体で「原木市場」も運営しており、生産した木材だけでなく、地域から集まってきた木材も合わせて、県内外の製材工場などに販売しています。市場には年間4万6000立方メートルほどの木材が集まります。

── 森林組合のお仕事は、多岐にわたる業務が発生するんですね。そんなに多くの業務が必要ななか、広大な森林を管理する上で、特に意識されていることはありますか?

細江組合長:下呂市にとって森林は貴重な資源です。また、近年、地球温暖化の影響で台風や集中豪雨などの自然災害が頻発していますが、適切に手入れされ、健全な状態に保たれた森林は、土砂崩れを防ぐなど減災・防災の面でも非常に重要な役割を果たしてくれます。戦後に植えられた木々がようやく資源として使える時代になった今、この森林資源を有効活用して林業を産業として成り立たせると同時に、地域の安全を守るという大きな責務を担っていると強く意識しています。

山離れする所有者の意識を変えたい。J-クレジット創出への挑戦

下呂市萩原町中呂地内にてハーベスタによる造材作業

── 地域の安全を守るというのは、本当に大きな責務です。その責務を感じられていることと、今回、森林J-クレジットの創出に取り組まれた背景には、なにか関係があるのでしょうか?

細江組合長:昨今、木材価格の低迷などから、森林は所有者にとって「お金にならない」「負の資産」と言われるようになり、手入れが行き届かずに山から離れてしまう方が増えています。戦後の先人たちが苦労して植えた木がようやく資源として使えるようになったにもかかわらず、です。この厳しい状況を何とか変えたい、森林の価値をもう一度見直してもらうための「起爆剤」にしたい、という思いからJ-クレジットの創出に挑戦することを決めました。

 

また、森林には、土砂流出などの防災機能や水の貯蓄機能のほかにも、CO2を吸収・固定するという非常に重要な役割があります。こうした森林の公益的な価値は、金額に換算すると74兆円にもなると言われています。しかし、現実問題として、木材の価格は長期的に低迷しており、多くの森林所有者の方々にとって、山を持っていることが直接的な利益につながりにくい状況が続いています。

 

山を手入れしてもお金にならない、それどころか固定資産税などの負担だけがかかる。その結果、所有者の山への関心が薄れ、「山離れ」が進んでしまっているのが現状です。相続を機に誰が所有者かわからなくなってしまうことも少なくありません。そうなると、当然、森林の整備は行き届かなくなり、荒廃が進んでしまいます。

そんな中、地球温暖化対策として脱炭素社会への動きが加速し、森林のCO2吸収機能が「J-クレジット」という形で価値として可視化され、取引されるようになりました。これは私たちにとって大きな転機でした。森林を守り育て、地域の林業を支えるという使命を持つ我々が、この新しい制度に取り組むことは、当然の「責務」ではないかと感じたのです。地域の森林に新たな価値を生み出し、所有者の皆さまに還元することで、停滞している森林整備を再び活性化させることができるのではないか。そうした思いから、2年ほど前からJ-クレジットへの取り組みの検討を始めました。

「バイウィルのサポートがなければ、とても乗り越えられなかった」J-クレジット創出

── 林業が抱える課題は、社会問題として取り上げられることも多いです。その解消のために今回、森林クレジットの創出に取り組むことを決め、バイウィルをそのパートナーに選んでくださったわけですが、自組合のみで森林J-クレジットの創出をしようとは考えられなかったのですか?

細江組合長:J-クレジット創出には関心はあったものの、知識もありませんでしたし、人的リソースの不足、事務手続きの煩雑さなどを考えると、自組合のみでの取り組みは難しいと感じていました。

 

J-クレジットの創出に興味を持ち始めた2年ほど前に、岐阜県森林組合連合会の荻巣副会長より、バイウィル、岐阜信用金庫を紹介されたことをきっかけにバイウィルを知り、J-クレジットの創出が現実のものになりました。

 

──バイウィルをパートナーに選んでくださった決め手はどんなところにあったのでしょうか?

細江組合長:イウィルの担当者の話を伺い、私たちの心を動かしたのは、その熱意でした。バイウィルからはクレジット創出に関する知識だけでなく、森林の持つ新たな可能性や未来の展望を、そして、岐阜信用金庫さまからはこの取り組みが、森林が92%を占める下呂市だからこそ、産業の活性化につながり、J-クレジットの売却益で森林の所有者が経済的なメリットを得られることで地域活性化に繋がるという、熱い思いを語っていただきました。

そして、一番の決め手は「森林と林業に対するリスペクト」でした。私たちの仕事や、守り育ててきた森林の価値を深く理解し、心から尊重してくださる姿勢が伝わってきました。この人たちとなら信頼できるパートナーとして一緒に歩んでいけると確信し、ご協力をお願いすることにしたのです。

── まさにバイウィルでは「森林と林業 に対するリスペクト」をもって、全国の林業に携わる皆さんと共創しています。その点を評価してくださり、大変光栄です。実際にバイウィルをパートナーとしてJ-クレジットの創出に取り組んだ感想を教えてください。

細江組合長:プロジェクトが始まってからも、その信頼は揺るぎませんでした。特に、計画書の作成や専門的なデータの取りまとめといった作業は、バイウィルの担当者のサポートがなければ、とても乗り越えられませんでした。J-クレジットの創出は、初めての取り組みで分からないことばかりでしたが、一つ一つ丁寧に解決策を示してくれました。特に、CO2吸収量を算定する「地域級」の確定という専門的な部分では、問題が発生した際にも的確に対応していただき、お手上げ状態にならずに済みました。まさに二人三脚で進めてこられたと感じています。

400名近い所有者との合意形成を後押しした「持続的な収益還元」という新しい価値

 

写真左から、今井参与、細江組合長

── 森林J-クレジットの創出のプロセスで最も苦労したことはなんですか?

今井参与:一番の課題は、森林所有者の皆さまからの「合意形成」でした。今回の認証対象となった約930ヘクタールの森林には、400名近い所有者の方がいらっしゃいます。しかも、その多くが1ヘクタールにも満たない小規模な所有者の方々です。その全員に対し、合意形成を行わないとJ-クレジットの創出ができません。

まず、私たちがJ-クレジットの対象となるには、国の「森林経営計画」という制度に基づいて、長期的な管理計画を立てる必要があります。この計画を継続するためには、所有者の皆さまの協力が不可欠です。しかし、先ほど申し上げたように木の価格が低迷しており、山離れが進み、山を持つ意義が薄れています。また所有者の皆さまは高齢化が進んでおり、相続が発生した際に、子どもがいなかったり、相続してくれなかったり、新しい所有者の方が計画に同意してくださるかという不安もあります。
そもそも、J-クレジットの契約を結ぶということは、所有者にとってはリスクも伴います。認証期間とその後のモニタリング期間を合わせるとクレジット創出の登録、認証は長期間にわたり、自由に山を売買したりすることができなくなるなどの制約がかかるのです。単に「CO2を吸収するから協力してください」というだけでは、これだけ多くの皆さまの合意を得ることは非常に困難でした。

── 400名もの所有者の方たちに合意形成をとるのはとても大変だったことと思います。その大きなハードルはどのように乗り越えられたのですか?

今井参与:将来の不安を払拭するためにも、森林クレジットを創出することの意義、これまでは木を伐採して売却した時にしか得られなかった収入が、クレジット化することで毎年得られるなどのメリットなどを丁寧に明記した説明文書やパンフレットを作成したり、何度も説明会を開催したりと、地道な情報発信を心がけ、まずは興味を持ってもらい、取り組みへのご理解をいただくことに注力しました。

パートナー・バイウィルと描く地域の未来

下呂市乗政地内(南ひだ森林組合事務所) 共販課による椪積作業

──  ご苦労が多い中、挑戦した森林クレジットを売却した収益はどのように活用する予定ですか?

今井参与:J-クレジットの創出に取り組み始めるときから、創出されたクレジットの売却益は、森林所有者の皆さまに還元することが大前提だと考えていました。これまでの林業では、木を伐採して売却した時にしか収入は得られませんでした。間伐を一度行うと、次の収入機会は15年後、20年後になってしまいます。これでは、山を持ち続ける意欲を維持するのは難しい。しかし、J-クレジットであれば、認証期間中8年間、継続的に収益を生み出すことができます。それを所有者の皆さまに還元することで、「山を持っていることで、毎年お金がもらえる」という、これまでになかった新しい価値を提供できるのです。

この「所有者への還元」という点が、合意形成を進める上で最も重要なポイントでした。正直に申し上げて、もし所有者への還元ができないのであれば、私たちはこのJ-クレジット創出という挑戦自体をしていませんでした。森林組合は、あくまで森林所有者のための組織ですから。この仕組みがあるからこそ、所有者の皆さまも将来的なリスクを受け入れて、協力してくださったのだと思っています。

 

──  大きなハードルを乗り越えた結果の今回の認証は、組合にとって、そして地域の林業にとって、どのような意義があるとお考えですか。

細江組合長:今回の認証は、森林が持つ新しい価値を具体的に形にできた、という点で非常に大きな一歩だと考えています。これまで利益を生みにくいとされてきた森林が、継続的な収入源となり得ることを示せたわけですから、所有者の皆さまの意識も少しずつ変わっていくはずです。山への関心が高まり、森林整備への意欲が向上すれば、地域の森林はより健全な状態になっていきます。

そして、森林整備が進むことは、木材生産量の増加にも繋がります。林業に携わる仕事が増え、木材を扱う製材業も活性化する。そうして、林業や木材産業が、この地域の経済を支える柱として再び輝きを取り戻す。私たちは、J-クレジットがその好循環を生み出すきっかけになることを強く期待しています。

J-クレジットの創出を行ったことで、より計画的に森林整備を行っていくことが重要な責務になっていくと感じています。

 

──  J-クレジットが認証された、今後の展望を教えてください。

細江組合長:今後は、毎年継続して新たな森林をJ-クレジットとして認証していく計画です。そのプロセスを通じて、バイウィルとは、これまで以上に強いパートナーシップを築いていきたいですね。

そして、私たちのこの取り組みが、モデルケースとなって岐阜県内の他の森林組合にも広がっていくことを願っています。バイウィルと協力しながらこの仕組みを広げていくことで、岐阜県全体の森林が持つポテンシャルを最大限に引き出し、最終的には「岐阜の民有林を、全国一のCO2吸収源にする」。そんな大きな夢も描いています。

 

 

───本日はありがとうございました。

 

(掲載されている所属、役職およびインタビュー内容などは取材当時のものです)