「周年」はどんな企業にとっても平等に訪れる”節目”の機会であり、この機会を単なる「記念・祝賀」と捉えるのではなく「未来に向けた変革のきっかけ」と捉えることによって、ブランディングや社員のエンゲージメント向上にも大きな効果が期待できます。
そこで、昨年(2022年)9月に100周年を迎えた東急グループを代表し、『東急百年-私鉄ビジネスモデルのゲームチェンジ-』の著者でもある東急株式会社 常務執行役員 東浦亮典氏をゲストにお迎えし、東急グループの100年を通じて育んだブランドや今後のビジョン、100周年を機に取り組んだブランディング施策の内側についてご紹介いただくと共にパネルディスカッションを行いましたので、その様子を2回に分けて、お届けいたします。
PART1:東急株式会社 常務執行役員 東浦亮典氏によるプレゼンテーション
PART2:パネルディスカッション
(PART2 の記事はこちら)
【東急株式会社様 HP】https://www.tokyu.co.jp/index.html
【東急株式会社様 100周年記念サイト】https://www.tokyu.co.jp/tokyu/
まずは、東急株式会社 常務執行役員 東浦亮典氏による「東急グループ創立100周年を通じた取り組みと挑戦」と題したプレゼンテーションの内容をご紹介します。
東浦亮典氏:私はいつも講演などで街づくりの取り組みを中心にお話しする機会が多いのですが、今回初めて「周年事業」でお話しすることになりました。あらかじめお断りをしておきます。私は周年事業のリーダー役ではありません。弊社の広報部門が推進してきたのですが、その中で私の関わりをご紹介しますので、ご承知おきください。
東急株式会社 常務執行役員 東浦亮典氏
東急株式会社は1922年9月2日に創業し、昨年(2022年)9月に100周年を迎えました。100周年をすごいと思われる方もいらっしゃいますが、2022年だけで100周年を迎えた企業は1,300を超えるそうです。100周年以上の企業は多くあり、鉄道業界であればJRは150年です。現在、弊社は東京急行電鉄株式会社から社名変更して、交通事業、不動産事業、生活サービス事業、ホテル・リゾート事業を三位一体として活動しています。
私が今回お呼びいただいたのは昨年末に発刊した『東急百年』がご縁となります。2019年に発刊した前著『私鉄3.0』の頃は業績も好調だったのですが、『東急百年』ではコロナ禍の業績悪化を経験した上で考えた今後の私鉄ビジネスモデルについて述べています。
『私鉄3.0』と『東急百年』
産業革命後のイギリスでロンドンが過密、不衛生になったことで郊外に計画的な衛星都市(Garden City)が生まれました。同様のビジネスモデルを渋沢栄一が日本に導入し、田園都市株式会社を設立したのが弊社のスタートとなります。鉄道事業と街づくりを融合しながら私鉄ビジネスを1.0、2.0とUPDATEし、現在は3.0として、リアルとデジタルとの融合も視野に入れた「City as a Service構想」に取り組み始めています。
2019年に2050年頃をターゲットにした長期ビジョンとして「City as a Service構想」を発表しましたが、コロナ禍のライフスタイル、ビジネスモデルの変化によって20年、30年前倒しになったと実感しています。コロナ前の業績は好調で2020年度には営業利益も約1000億円(970億円)を計画していたのですが、コロナ禍の影響で300億円以上の連結赤字を計上することになりました。
東急株式会社の業績推移
このような状況だったため、100周年は「祝賀の100周年事業」に加えて、「事業変革の契機とする100周年」の2つを同時に実施しました。逆に言えば、コロナ禍がなければ、普通の100周年事業で終えていたかもしれません。
東急100周年事業
100周年事業のコンセプトは「“これまでの感謝”と“東急(私たち)の描く未来”」。各ステークホルダーへの感謝表明と、東急の描く未来の内外への浸透・発信を通じてコロナ禍から脱却したグループの次の100年に向けた気運醸成を狙い、インナー(社内)・社外の方々にそれぞれ「感謝」「未来志向」を伝えることにしました。
また、コロナ禍の業績悪化で若手社員のエンゲージメントが低下していたこともあり、未来に向けた東急のビジョンを示すことでのエンゲージメントの回復も狙いました。
100周年事業の基本方針
ここから東急100周年事業の施策をご紹介します。祝賀の取り組みは広報部門が担当しました。前年の赤字計上によって当初予定していた施策を全て実施できなかったのですが、グループ各社が知恵を使って連携しながら全体で盛り上げていきました。
まずは、東急グループ創立100周年記念祝賀会です。創業日の2022年9月2日に約700名のお客様をお招きして開催しました。コロナ禍で久々の対面での会合ということで来賓の方々にも喜んでいただけました。
100周年記念祝賀会
東急グループ100周年トレインでは、車内に歴史や感謝広告を掲示しています。また、東急100年史の編纂も進めています。先行してWEB公開し、写真集『100 Thanks』も発刊しました。日本経済新聞への広告掲載や雑誌での特集、イッツコムチャンネルでの特集番組のほか、東急各駅での「感謝を伝えるプロジェクト」では普段お客様と触れ合わない工場のスタッフなどによる感謝の言葉を寄せたポスターの掲示などをしています。
私が担当する部門の取り組みとしては、本社エントランスに100周年記念写真コラージュを掲載したHistory Wallを設置しました。人や文化にフォーカスした写真を掲載し、訪れる方々から好評を得ています。また、アーティスト 西村公一さんに協力いただいて100周年記念アート作品も本社エントランスに設置しました。
History Wallと記念アート作品
お客様参加型施策として、子ども向けには「東急のまちの未来を描こう」小学生コンテスト、大人向けには「ありがとうがあふれるまちへ」レターコンテスト、「東急沿線事業所見学・街歩きツアー」、「ありがとうを、ずっと、ずっと。」キャンペーンなどを実施しました。鉄道会社らしく、記念入場券セット、電車スタンプラリー、記念デザイン東急線ワンデーパスも販売し、鉄道ファンに好評でした。
東急百貨店でも100周年記念限定商品を販売したり、東急ストアではお付き合いのあるパートナーさまとの限定コラボ商品を販売しました。
東急ストア100周年記念限定商品
これまで紹介した施策を、To B向け・To C向け、広報部門主体に実施した主催事業、我々を含めた事業部やグループ会社が牽引したコラボ事業という形でマッピングするとこのようになります。
100周年事業の施策のマッピング
事業変革に向けて私が担当するフューチャーデザインラボで主導したのが経営層合宿・変革プロジェクトです。東急100年の歴史の中でも初めてだと思うのですが、1年間かけて社長以下26名の経営層全員が集まった合宿を実施し、100周年のタイミングで何を発表するかを集中検討しました。経営層合宿の合間には若手を交えた検討会なども実施して具体的なアクションプランに落とし込み、現在は人事部門などに移管して制度への反映など経営に組み込んでいるところです。
経営層合宿のプロセス
ビジネスモデルを変革するにあたっては、社員一人ひとりの幸せ、お客さま・地域のみなさまの幸せの両立を目指し、社員は変化に対して「見る」「動く」を大切にしていこうと伝えています。
見る・動くサイクル
インナー向けには「経った100年。たった100年。」というメッセージを掲げ、先人たちに敬意を示すと共に、自分たちも歴史を作っていく一員になるという決意を伝えています。「経った100年。たった100年。」Tシャツをつくって2022年9月1日に決起集会を開催しました。9月2日のお客様を招いた祝賀会の前日に参加可能な社員を集めて全員の気持ちを一つにしました。お客様も大切ですが、まずは社員に感謝の気持ちを伝えるのが大切だという考えのもとで実施した施策です。
全社決起集会
TOKYUの頭文字に沿って創業100周年の意味を考えたのでお伝えして、私のプレゼンテーションを終わりにします。
Turning Point ー 大きな転機
Open Dialogue ー 開かれた対話の機会
Key Transformation Points ー 重要な変革点
You did it ! ー 社員の達成実感
Unity ー 全社団結
TOKYUにとっての創業100周年の意味
みなさん、お聞きいただき、ありがとうございました。
後編では、パネルディスカッションの様子をご紹介します。