「周年」はどんな企業にとっても平等に訪れる”節目”の機会であり、この機会を単なる「記念・祝賀」と捉えるのではなく「未来に向けた変革のきっかけ」と捉えることによって、ブランディングや社員のエンゲージメント向上にも大きな効果が期待できます。

 

そこで、昨年(2022年)9月に100周年を迎えた東急グループを代表して東急株式会社 常務執行役員 東浦亮典氏に100周年を機に取り組んだブランディング施策の内側についてご紹介いただくと共にパネルディスカッションを行いました。今回のPART2ではパネルディスカッションの様子をお届けします。

 

PART1:東急株式会社 常務執行役員 東浦亮典氏によるプレゼンテーション

PART1の記事はこちら

PART2:パネルディスカッション

 

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【東急株式会社様 100周年記念サイト】https://www.tokyu.co.jp/tokyu/

 

■プロフィール

東急株式会社

常務執行役員 東浦亮典氏

 

株式会社フォワード(現:バイウィル)

代表取締役 伊佐陽介

執行役員 齋藤雅英(モデレーター)

 

話者紹介

中央:東急株式会社 常務執行役員 東浦亮典氏

株式会社フォワード(現:バイウィル) 左:齋藤雅英、右:伊佐陽介

100周年だからこそ実施したかったこと

齋藤雅英(以後、齋藤):東浦さん、プレゼンテーション、ありがとうございました。まずは、敢えて100周年だからこそ実施したかったことをお聞かせください。

東浦亮典氏(以後、東浦氏):
東急は、女性の働きやすさを示す銘柄「なでしこ銘柄」を11年連続で受賞している唯一の企業です。居心地や働きやすさを感じられる会社である一方、若手社員はコロナ禍での赤字決算もあり、キャリア形成に対する不安などからエンゲージメントが低下してきていました。暗黒の時代は長く続かないし、明るい未来を創るのは彼らです。変革を推進する経営層の立場として、101年目には明るい展望を感じてもらえるように若い世代の巻き込みに注力しました。

低下した若手社員のエンゲージメントを高めるために

伊佐陽介(以後、伊佐):社員を大切にするという象徴が記念祝賀会前日の全社員を集めたインナー施策だったと考えます。それでもコロナ禍での実施判断は難しかったのではないでしょうか?

 

記念祝賀会前日の社員向けイベント

記念祝賀会前日の社員向けイベント

 

東浦氏:当初、全社員を集めるイベントは計画されていませんでした。お客様への感謝も大切ですが、まずは社員への感謝が大切だと社長に提案したところ社長も快諾し、祝賀会前夜の実施に至りました。当時、リモートワークが続いて社員同士の交流も少なかったので、リアルに集うことで社員同士のエンゲージメントも高まりました。社長を褒める訳ではないのですが、当日の社員向けの熱いメッセージは心に響きました。

 

伊佐:私たちも周年事業をご支援していますが、コロナ禍でリアルイベントを躊躇する、断念する方々も多かったです。社長が英断した理由として、若手社員のエンゲージメント低下が影響していたのでしょうか?

 

東浦氏:はい。エンゲージメント調査の結果は社長も認識しており、オンラインや社内広報誌で社長の思いを発信していますが、より多くの社員に思いを届けるためにも全員が集まるイベントが重要でした。

 

伊佐:社員にも熱量が伝わりますね。

 

東浦氏:社長は経営のキーワードに「変革」を掲げており、直接伝えられた効果は大きかったと考えます。

 

伊佐:参加した社員の反応はいかがでしたか?

 

東浦氏:リアルに参加した社員は心が動かされたようでしたし、オンラインやアーカイブで視聴した社員からも「リアルで参加したかった」という声が多数寄せられました。

 

伊佐:周年を成功させるための秘訣はインナー向けと考えます。周年は5年・10年ごとに訪れますが、その度に実施している企業でもインナーが不十分だと単なるイベントで終わるケースが多いと実感しています。

経営層の巻き込み

齋藤:社員の巻き込みについて聞いてきましたが、経営層の巻き込み方はいかがでしたか?

 

東浦氏100周年の1年前から、社長以下26名の経営層による合宿を実施していたので歩調は合っていました。

 

経営層合宿・変革プロジェクト

経営層合宿・変革プロジェクト

 

齋藤:経営層26人を一同に集めるのは大変だったのではないでしょうか?

 

東浦氏:一部の役員からは研修なの?という声や、未来の問いを考えるので明確な答えが出ないこともありモヤモヤするという声もあったものの、結果として良い議論ができました。合宿は私が管轄するフューチャーデザインラボが主催しましたが、「変革」を掲げる社長直轄の組織であり、社長からの投げかけもあったので26名の賛同は得られやすかったです。
どちらかというと社員の巻き込みの方が大変でした。予算削減などで疲弊してエンゲージメントが低下していたため、100周年の取り組みに対して冷ややかに見ていた社員がいたことも確かです。

 

齋藤:役員合宿では何を話されたのでしょうか?

 

東浦氏:自分たちは何者なのか?と青くさく対話する時もありましたし、私鉄1.02.0から3.0へどのように変化させていくかというビジネスモデル、ポートフォリオ経営に基づく投資の取捨選択、そして、お客様への向き合い方、社員一人ひとりのパフォーマンスの向上など、経営に関わる全てのことを話しました。

 

100周年事業を通じた変化

伊佐100周年事業を通じて、会社の空気感が変わったという実感はありますか?

 

東浦氏:祝賀事業はコロナ禍で試行錯誤しながら相当前から準備を進めていたこともあり、準備期間中は社員からは見えにくい状況でした。実施23か月前から社員にも周知し始めて機運を高めていきました。

 

伊佐:普段、お客様と直接接しない裏方の社員による「感謝を伝えるプロジェクト」のように、私たちも露出機会を通じて自分事化させる、自分も会社の一員なんだと実感させる取り組みを提案・導入するのですが、御社での効果はいかがだったでしょうか?

 

東浦氏:一人ひとりに感想を聞けてはいないですが、各駅は競うようにポスターを制作していました。また、インナー向け施策として、広報部門主導で各部門の自分事化を醸成するためにカウントダウンポスターを作成しました。部門ごとに周年記念日からのカウントダウンを人文字などで表現し、日替わり写真をイントラネットやポスターで公開したのですが、広報部門が写真撮影に各部門に伺いながら個別に100周年の取り組みを説明することで、理解・共感を得る機会にもなっていました。

 

齋藤:変革のための重厚な企画も大切ですが、社員を巻き込みやすいライトな企画が大切ですよね。

 

感謝を伝えるプロジェクト

感謝を伝えるプロジェクト

 

変革を速やかに実感する「かろやか施策」

伊佐:役員合宿をはじめ、100周年事業は社長が掲げる「変革」と連動しているから実施できたのでしょうか?

 

東浦氏:仰るとおりです。祝賀事業は今年3月に終了しますが、変革は今後も継続されます。時間をかけた変革もありますが、効果が見えにくいと社員のモチベーションも低下します。昨年までできなかったことが実現した、新規事業が立ち上がったなど、切れ味よくスピーディに変革の成果を見せることも重要で、私たちは「軽やか施策」と言っています。例えば、会議の根回しを少なくする、肩書や役職でなくさん付けにする、など。私が担当した部門ではメンバーの経歴や趣味などのプロフィールをまとめたKnow Who本を制作していました。今でいうタレントマネジメントシステムです。今回、100周年を機に全社員を対象にしたKnow Who本を制作しました。会社の人事台帳ではわからない趣味などを通じて人となりを理解して社員同士の相互理解も深まり、これ「軽やか施策」の成果の一つです。

 

伊佐:周年のための施策ではなかったものも、周年を機に広がったという事例ですね。

 

東浦氏:小さなことでも、昨年できていなかったことが実現できているという実感を抱いてもらいながら、長年かけて実施する重い施策を同時並行で進めています。

周年事業の準備期間と目的

齋藤:周年事業の準備期間はどのくらいだったのでしょうか?

 

東浦氏:祝賀会の会場や日経新聞の広告はかなり前から手配し、内容は追って検討していました。先ほどの役員合宿は1年前から実施しました。

 

伊佐:私たちが周年事業を支援する場合も2~3年前から準備期間に充てて目的や目標を設定し、周年後も継続できる取り組みとして設計しています。役員合宿は周年とは別の動きだったのでしょうか?

 

東浦氏:周年とは別でしたが、100周年で発表するメッセージは検討テーマの一つでした。祝賀中心だと社外向けの施策が多かったと思うのですが、変革をテーマにしていたのでインナーの施策を多く実施できたと認識しています。

「経った100年。たった100年。」と「見る・動く」

齋藤:インナー向けに「経った100年。たった100年。」や「見る・動く」とわかりやすいキャッチコピーを使用されていますが、その内容について詳しく教えてください。

 

東浦氏:青くさいのですが、「経った100年。たった100年。」の全文はポエムのような文章になっています。

 

経った100年。たった100年。

経った100年。たった100年。

 

齋藤:すてきな内容ですね。

 

東浦氏:全文を読むのは1回かもしれませんが、「経った100年。たった100年。」を見ることで、全文のイメージを思い出してもらうことを想定しています。

 

齋藤:「見る・動く」についてはいかがでしょうか?

 

東浦氏:コロナ禍を経て変化が大きい時期なので、有識者の示唆や現場での一次情報などをちゃんと把握する「見る」、そして、未来を切り開くために失敗してもいいから挑戦する「動く」となります。会社も失敗を許容し、大きな成功に向けた挑戦を称賛するようにマインド醸成しています。

 

見る・動くサイクル

見る・動くサイクル

 

伊佐:こちらはどのように制作したのですか?

 

東浦氏:私たち、フューチャーデザインラボが外部パートナーと共に整理しました。

 

伊佐:弊社もミッション・ビジョン・バリューの策定や再定義をご支援しています。バリューでありながらもバリューと呼ばない点がいいですね。

 

東浦氏:中堅から若手に向けたメッセージになっているので、わかりやすさを重視しました。

 

齋藤:「見る・動く」サイクルは、どのように浸透させていますか?

 

東浦氏:News Picksの東急限定サービスを契約してイントラネットでフューチャーデザインラボによる変革の取り組みなどを発信しており、その一つとして伝えています。ここでは変革に向けて挑戦・活躍している社員にフィーチャーして、成功や失敗のインサイドストーリーを連載でニュース記事風に発信しています。公式のプレスリリースはキレイなのですが、ここでは社内で共有されづらい失敗経験も発信して興味深く読んでもらうことを狙っています。

 

伊佐:ミッション・ビジョン・バリューの刷新をご支援する機会が多々ある中、チャンレジという言葉は頻繁に使用されて社員に響きづらくなっています。要は「足を止めるな、動き続けろ。失敗を恐れて縮こまるな。」ということですよね。

 

齋藤:経営層合宿の結果はどのようになっていますか?

 

東浦氏:現在、役員合宿の結果は人事部門などに移管して制度への反映など経営に組み込んでいるところです。

最後に

齋藤:特別セミナーを振り返って一言お願いします。

 

東浦氏:普段の街づくりに関する事例紹介とは異なりましたが、みなさんから良いコメントも多く頂戴し、ありがとうございました。

 

伊佐:多くのヒントを頂戴しました。目的を設定して判断基準にすること、多くの部門を巻き込んでいくこと、根底にあるのは社員だということ。対外的な施策であっても基点は社員であるということを再認識しました。ありがとうございました。

東急グループ創立100周年を通じた取り組みと挑戦

 

 

 

 

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