各種メディアでも取り上げられることが多くなっていますが、昨今、日本企業においても「パーパス」を策定する企業が増えています。一方で、パーパスは「策定」するだけではその目的を果たすことはできません。その後、社員ひとりひとりにパーパスを理解・共感してもらい、日々の活動に繋げていく「浸透」活動が必要不可欠です。
2017年のCI改定後コロナ禍に入り、大きな環境変化に伴って2021年には僅か5年で長期ビジョンである「KanroVision2030」を策定。2022年には「中期経営計画2024」と同時にパーパス「Sweeten the Future ~心がひとつぶ、大きくなる。~」を発表し、パーパスドリブン企業として注目を集めているカンロ株式会社の執行役員であるデジタルコマース事業本部長 兼 コーポレートコミュニケーション本部長 内山妙子氏をゲストにお迎えし、カンロ株式会社様でのパーパス浸透の取り組みなどをご紹介いただくと共にパネルディスカッションを行いましたので、その様子を2回に分けてお届けいたします。
PART1:カンロ株式会社 執行役員 内山妙子氏によるプレゼンテーション
PART2:パネルディスカッション (PART2 の記事はこちら)
【カンロ株式会社様 HP】https://www.kanro.co.jp/
【カンロ株式会社様のパーパス】https://www.kanro.co.jp/corporate/purpose/
まずは、カンロ株式会社 執行役員 内山妙子氏による「カンロ株式会社のパーパス浸透について」と題したプレゼンテーションの内容をご紹介します。
カンロ株式会社 執行役員 内山妙子氏
大学卒業後にデザイナーとしてカンロに入社しました。入社2、3年後にデザイン部がなくなってしまい、その後はマーケティングをゼロから学びながら、マーケティングを担当してきました。広告宣伝、商品のブランディング、コーポレートのブランディングを手掛け、ヒトツブカンロやCIやパーパス策定などに携わってきました。
最初にカンロ株式会社についてご紹介します。創業は大正元年で、今年で111年目になります。商品のラインナップは上段の社名にもなっているカンロ飴や金のミルク、ピュレグミなどに加え、最近は下段の直営店やEC限定商品などにも注力しています。
商品ラインナップ
カンロの歩みを売上高と共に紹介します。時折、踊り場の時もありながらグミッツェルなどのヒット商品のおかげで全体として右肩上がりです。2016年にも踊り場がありましたが、2017年の新CI導入以降は業績も上昇しました。その後、2022年にパーパスを策定し、過去最高の業績を残しています。
カンロの歩み
CIの変遷を紹介します。弊社は1977年に初めてCIを導入しました。高度成長期で多角化を目指している時期だったので、成長に向けた若葉をイメージしたグリーンのCIでした。
新CIを検討し始めた2016年、グミは好調だったものの、糖質制限ブームもあり、飴(ハードキャンディ)の需要が長期低落の傾向がありました。そこで、飴、グミ、全社の戦略を立て直すことになり、屋台骨であるキャンディに注力し、キャンディNo.1を掲げると共にCIを刷新し、「糖から未来をつくる。」というコピーを通じて糖は悪者ではないというイメージ訴求をしました。
2017年 新CI導入の背景
そこから僅か5年ではあるのですが、2022年に企業パーパス「心がひとつぶ、大きくなる」を策定しました。策定に至ったプロセスや背景をご紹介します。
ステップとしては、CI策定時もそうだったのですが、トップダウンではなく、社員を巻き込んで検討を重ねました。社長や社員へのインタビュー、カンロの創業から110年の歴史を振り返って強みや企業文化を浮き彫りにしました。検討途中ではサステナブルな要素を入れたり、長めの文章で具体的に表現するなどの意見もあったのですが、最終的に一粒の飴を口に入れることでホッとしたり、心を前向きにする力が飴にはあり、それを積み重ねることで社会を前進させることを表現することになりました。
企業パーパス
パーパス策定のきっかけはコロナ禍によって人々の生活や価値観が大きく変化したことです。先行きが不透明で予測不可能な状況の中、なんのために自社が存在するのかを考えるようになりました。
2017年に新CIを策定した際はキャンディに選択と集中をしましたが、その後の業績向上もあり、2022年のパーパス策定時にはコピーから「糖」を抜いて事業の多角化を再度目指すようになりました。
2022年はカンロにとって、新たな中期経営計画を公開し、創業110周年を契機にした施策を打ち出した時期でもありました。両者共にパーパスを絡めた内容になっており、中期経営計画ではパーパスドリブン経営を明確に打ち出し、110周年の施策でも全てのステークホルダーの方々に「この世界にもっと「心がひとつぶ、大きくなる。」瞬間をつくっていきます。」という感謝の言葉を伝えていきました。
2022年2月のパーパス策定後、10月には社長自らがAHM(All Hands Meeting)で全社員にパーパスを説明すると共に、社外取締役にパーパスに関する講演をしてもらいました。その後、部門長への説明、広報担当による各拠点での説明をし、社員が理解をした上で2022年12月以降に各種施策を社内外に展開し始めました。
インナー施策について
弊社ではパーパスを北極星と位置づけて、社員が自由に北極星を目指すように働きかけています。弊社の社外取締役 堀江裕美さんが元スターバックスコーヒージャパンに在籍されていたこともあり、マニュアルレスで接客をするスターバックスの事例を交えながらパーパスの大切さを講演してもらいました。パーパスの究極は、マニュアルやルールを簡素化していくものだと常々思っているのですが、それを社外の方に語ってもらうことで説得力が増したと考えています。
また、全拠点訪問に関しても、常日頃、忙しくて目先の仕事に集中している中、パーパスの話をしてもピンと来ない社員もいると思うのですが、丁寧にFace to faceで直接対話することで理解・共感してもらえたと感じています。
コーポレートのキャラクターだった「カンロちゃん」をメインストリームから外していたのですが、パーパス策定と共に糖をコピーから外したこともあり、パーパス浸透にあたってカンロちゃんをインナー向けに復活させました。社員みんながカンロちゃんに愛着があったみたいで、キャラクターの強みを改めて感じました。Myカンロちゃんのジェネレーターサイトもオープン。カンロ社員人数分のカンロちゃんが誕生し、Myカンロちゃんを使ったサンクスカードをみんなで送り合ったり、Myパーパスを表現した「想いカード」も作成しています。
110周年施策|Myカンロちゃん
弊社ではインナーブランディングに関して毎年調査しており、パーパスの理解・共感度・行動変容・貢献意欲も、パーパス策定の初年度から高いスコアだったのですが、1年後はさらに上昇しました。
インナー施策のまとめです。社員の役割も、単なる社員ではなく、ステークホルダーであり、個人のSNSなどを通じてカンロの魅力を伝えるメディアでもあると捉えています。また、パーパスを策定するだけではN.G.で、理解・共感を誘発させる仕掛けづくりが大切。そして、「企業のパーパス」と「社員の自己実現」が重なる姿を目指しています。企業のパーパスのために社員は奉仕する訳ではないので、企業は企業のパーパス実現を目指すと共に、同時に社員の自己実現の場になることを願っています。
パーパス浸透の各種施策
後編では、パネルディスカッションの様子をご紹介します。