昨今、日本企業においても「パーパス」を策定する企業が増えています。一方で、パーパスは「策定」するだけではその目的を果たすことはできません。その後、社員ひとりひとりにパーパスを理解・共感してもらい、日々の活動に繋げていく「浸透」活動が必要不可欠です。
そこで、パーパスドリブン企業として注目を集めているカンロ株式会社の執行役員であるデジタルコマース事業本部長 兼 コーポレートコミュニケーション本部長 内山妙子氏をゲストにお迎えし、カンロ株式会社様でのパーパス浸透の取り組みなどをご紹介いただくと共にパネルディスカッションを行いました。今回のPART2ではパネルディスカッションの様子をお届けします。

PART1:カンロ株式会社 執行役員 内山妙子氏によるプレゼンテーション(PART1の記事はこちら
PART2:パネルディスカッション

【カンロ株式会社様 HP】https://www.kanro.co.jp/
【カンロ株式会社様のパーパス】https://www.kanro.co.jp/corporate/purpose/

 

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右:カンロ株式会社 執行役員 内山妙子氏
左:株式会社バイウィル 執行役員 齋藤雅英

パーパス策定で目指したこと

齋藤雅英(以後、齋藤):内山さん、プレゼンテーション、ありがとうございました。早速ですが、2017年のCI改定、および、2022年のパーパス策定において、それぞれの事業環境と課題感、期待した効果を改めてお聞かせください。

内山妙子氏(以後、内山氏):2017年のCI改定に関しては、当時、業績が低迷した中、リーダーシップの強い社長に交代となり、新しいことに挑戦する気運が高まりました。当時、私はマーケティングを担当していたのですが、社長からピュレグミや各種キャンディのブランドや商品戦略はあるのに、キャンディ全体の事業戦略がないことへの問いかけがありました。改めて自社の強みを考えた結果、「糖」に対する知見、糖を使ったキャンディの開発力がコアコンピタンスだと辿り着きました。それまでのコーポレートメッセージ「ひと粒のメッセージ」も可愛かったのですが、糖を前面に訴求した方が良いと考えました。当時、糖質制限ブームで糖に対するネガティブイメージもあったのですが、販売店の方々にヒアリングしたら賛同者が多く、自社への誇りが醸成され始めました。自社への誇りが自信となり、商品を販売したくなり、売上も回復しました。

齋藤:なるほど。それをさらに2022年のパーパス策定でアップデートされたんですね。

内山氏: CIの「糖から未来をつくる。」を残したままパーパスをつくるという意見もあったのですが、メッセージが複数あると弱くなるので一つにしようということで「Sweeten the Future 心がひとつぶ、大きくなる。」を採用しました。


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企業パーパス

齋藤:パーパスが重要ということですが、自分たちのコアコンピタンスを活かしながら世の中にどのような影響・価値を与えていくのかを打ち出していこうとしたのでしょうか。

内山氏:それまでのCIでは売り手よし、買い手よし、世間よしの三方良しの世間(社会)よしを表現できておらず、企業は社会に貢献することで存続できるということを踏まえてパーパス策定に至りました。

齋藤:とても興味深い話なのですが、パーパスが重要という意見はトップダウンで経営陣から、それともボトムアップで現場(社員)から出てきたのでしょうか。

内山氏:ボトムアップでした。この意見に対して経営陣も賛同して検討がスタートしました。

齋藤:すごいですね。カンロさんの風通しのよさという社風を感じますね。

本当の意味でのパーパスドリブン企業の実践

齋藤:次に中期経営計画との連動についてお聞かせください。

 

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2022年度施策|パーパスドリブン企業宣言

 

内山氏:象徴的なのはフューチャーデザイン事業です。サステナビリティとウェルビーイングを事業にしていく部門を新設しました。また、先ほどお話ししたキャンディ事業を包括したブランドごとにパーパスを策定しました。まだまだ足りないとは思うのですが、ECなどの新事業を広げていく時に北極星となるパーパスに即して進めることを意識しています。

齋藤:フューチャーデザイン事業の位置づけは、新事業として拡大していくこと、それとも、新事業もやっているというプレゼンスを示すことのどちらなのでしょうか?

内山氏:中期経営計画でもハッキリと述べているのですが、新事業として伸ばしていくことを目指しています。今後、フューチャーデザイン事業とEC事業が統合されるなど不確実な部分もありますが、パーパスに基づく事業は大きくしていく予定です。

齋藤:パーパスを策定する企業は多々ありますが、ここまで事業計画に落とし込んでいる御社は稀な存在で、パーパスに基づいてバックキャストで事業を意思決定していくことはすばらしいですね。パーパスを検討している時からパーパスドリブン企業を目指すという話がされていたのでしょうか。

内山氏:元々4事業あったのですが、『カンロビジョン2030』で10年後の未来を描く際にフューチャー事業を取り入れてサステナビリティを目指すことを宣言しました。これを実行しつつ、(社会価値を組み込んだ)パーパスを検討した時に間違っていなかったなと実感しました。

齋藤:なるほど。パーパスのもと、すべての事業活動が繋がり、言行一致もしたんですね。

内山氏:パーパス策定と共に企業理念や行動指針も再整理しました。経営者が変わるたびに行動指針が増えたり減ったりしていたのですが、今回は新しいことを加えるのではなく、創業時からの思いを読み解くことでアップデートしました。

従業員との信頼を育みながら並行して推進するパーパス浸透

齋藤:セミナー聴講者からの意見にもお答えください。パーパス浸透で大変だったことは。

内山氏:まだ道半ばですが、拠点による温度差があることです。メーカーなので工場があります。売上が好調ということは工場が繁忙ということなんです。休日返上で稼働している中、パーパスの説明を聞くよりかは休暇を取得したいというのが本音だったりします。

齋藤:工場への浸透と、それ以外の方々への浸透で変えたことはありますか。

内山氏:本社の従業員はパーパスを検討していることもなんとなく知っているので大丈夫なのですが、場所が離れていると難しいと感じています。なので、社長が工場に訪問して直接パーパスを説明すると共に、年に何回か工場に訪問します、工場の環境を改善します、従業員との対話を大切にします、という3つの約束もしているんです。今の社長は従業員とのコミュニケーションを大切にする方なので誠実に対応しています。

齋藤:従業員との関係性を向上し、信頼を育みながらパーパスを浸透させているんですね。

 

外部評価の高まりが社員の誇りを育む

齋藤:社員、お客様、株主など、それぞれのステークホルダーに対して、パーパス浸透の効果はいかがでしょうか。

内山氏:因果関係がわかっている訳ではないのですが、CI改定、パーパス浸透後、徐々に良い結果が出ていることを実感しています。例えば、キャンディのメーカーの純粋想起で弊社を挙げる人が一気に増えたんです。今までの取り組みの効果が積み上がり、ある時点で一気に結果が出たという感覚があるんです。また、今回のように取材や登壇の機会も増えてきていて、外部評価の高まりによって、社内でもパーパスを再認識できたり、自分たちの自信になり、良いスパイラルになっています。

齋藤:パーパスの浸透は1年ではできず、3年、5年はかかるもので、その効果は階段状に出てくると実感していますし、実際にデータでもそのようになっています。人の成長にも似ていますよね。

パーパスがコーポレートブランディングを後押しする

齋藤:コーポレートブランディングの視点でカンロさんの認知度は高いとのことですが、「キャンディ=飴」ということでしょうか?

内山氏:キャンディにはハードキャンディの飴と、ソフトキャンディやグミなどが含まれます。

齋藤:カンロさんは飴のイメージが強いものの、グミのイメージがあまりなく...。ピュレグミは知っているものの、それがカンロさんとは知らず...。

内山氏:はい、弊社の課題なんです。パーパス策定と共にコーポレートブランドを高めていきたいと考えています。具体的にはお子さまがグミを購入する際に、保護者がカンロのグミにした方がいいんじゃない?、ママはカンロのグミが好きなのよ、と推す世界観を目指しています。
現時点で商品ブランドのメッセージ自体は変えていませんが、パッケージの商品名とカンロのロゴを近づけるようになりました。

齋藤:いい世界感ですよね。コーポレートブランディングは費用対効果が高いですし。

内山氏:商品ブランドも大切ですが、コーポレートのファンになってもらうのが大切ですよね。

齋藤:採用の効果はいかがでしょうか?

内山氏:はい、最近キャリア採用が増えているのですが、効果が得られています。

 

会社と自分を重ね合わせるMyカンロちゃんとMyパーパス

齋藤:他社さんにオススメしたい施策はありますか。逆に効果が十分に得られなかった施策についても可能な範囲でお聞かせください。

内山氏:Myカンロちゃんのようなキャラクターと、社外取締役の講演ですね。一方で難しいと思ったのは役員からのメッセージですね。イントラネットで文字で配信しても読まない方も多いですし。

齋藤:2:6:2の法則で、ちゃんと文章を読んでくれるのはトップの2割。コアとなる6割の人たちへのアプローチが重要そうですねMyカンロちゃんの施策は、会社のキャラクターに自分を投影できる点がすばらしいと考えます。パーパスって会社と自分を重ね合わせるツールでもあるので、それを疑似体験して心が繋がるのがMyカンロちゃんだなと。

Kanrop2_4110周年施策|Myカンロちゃん

内山氏:Myカンロちゃんは110周年施策として取り入れました。「ありがとうから始めよう」ということで、ありがとうを伝えるきっかけとしてサンクスカードを導入しました。

齋藤:2022年に110周年を迎えましたが、現在も施策は続いているのでしょうか?

内山氏:毎年、インナーの施策含めて計画しており、その浸透に関しては拠点ごとに推進メンバーが2名ずついます。1年ごとに1名メンバーが交代しながら拠点への浸透施策を進めています。

齋藤:施策を考えることも大切ですが、それを現場に泥臭く浸透させていくかというオペレーションが大切ですよね。

齋藤:内山さんのMyパーパスが気になります、という質問もきています。「世界中の争いごとがなくなるような未来をキャンディで作りたい」でしたよね。

Kanrop2_5My Purposeカードの作成

内山氏:ワークショップで飴の価値を話し合いました。子どもたちがケンカしていても飴をなめるとケンカが収まりますよね。その発展形として、戦争で人を殺す時に飴を舐めていないだろうと。飴は世界を救える力があるのではないかと...と願ってMyパーパスにしました。

齋藤:御社の企業パーパスにも通じますが、飴の価値を本質的に捉えていますよね。企業パーパスを自分事に落とし込むことの大切さをお伺いしたところで本日のセミナーを終えたいと思います。内山さん、ありがとうございました。

 

 

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