CO2排出量「自力削減の限界」に挑む――株式会社プロテリアルが前例なき森林J-クレジット調達を結実させた成功のプロセス
津山ガス 株式会社 様
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企業規模
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事業・提供サービス
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企業名 |
株式会社プロテリアル 様 |
| 事業内容 | 1. 特殊鋼(ヤスキハガネ等)、磁性材料、パワーエレクトロニクス材料の開発・製造・販売 2. 素形材、自動車部品、配管機器関連製品の開発・製造・販売 3. 産業用・自動車用電線およびケーブル製品の開発・製造・販売 4. 脱炭素社会の実現に向けた省エネ推進および環境保全活動 |
| ご担当者様名 |
安来工場 生産技術部 部長 池尻様 |
持続可能な社会の実現に向け、企業の脱炭素への取り組みが強く求められる現代。サプライチェーンの中核を担う大手部材・素材メーカーをはじめとする大企業には、TCFD提言に基づく情報開示やサプライチェーン全体(Scope 1, 2, 3)での二酸化炭素排出削減要請など、かつてないほど厳しい要求が突きつけられています。
多くのサステナビリティ推進担当者が直面するのが、「現場の省エネ・再エネ投資だけでは、掲げた高い削減目標にどうしても届かない」という自力削減の限界です。そのため、自社の取り組みだけでは届かない目標値とのギャップ(未達分)を補う手段として、環境価値(カーボンクレジット)の調達を検討している企業が増えています。しかし、その調達においては、前例のない購入スキームに対する会計・税制上の処理ルールの整備や、単なる調達コストの比較に陥らない購入の意義・妥当性の社内説明など、決裁やガバナンス構築の壁が立ちはだかります。
この自力削減の限界を補うべく、自社とゆかりの深い地域への投資という形でクレジット調達を戦略的に決断したのが、高機能材料メーカーである株式会社プロテリアルです。同社は、 自社のものづくりの原点であり、現在も日刀保たたらの操業を支援している「たたら製鉄」ゆかりの地・島根県奥出雲町の「森林J-クレジット」を長期契約で購入する道を選びました。同社の主力拠点の一つである安来工場(島根県安来市)は、かつて砂鉄と木炭で製鉄した「たたら」の歴史を脈々と受け継ぐ場所です。源流の地の森林保全へ寄与したいという強い使命感のもと、地元奥出雲町の森林クレジット調達を決断しました。
今回はこの安来工場から、生産技術部の池尻部長、環境管理グループの松島グループ長、総務部庶務グループの山本グループ長、さらに全社視点を担う本社からは、モノづくり技術本部環境戦略部・技師の貞富様、経営戦略本部コミュニケーション部の南課長にお集まりいただき、工場・本社双方の視点からお話を伺いました。どのように森林クレジットを全社戦略として位置づけ、取締役会決裁を突破したのでしょうか。森林クレジットの「付加価値」の取締役会での説得、その裏での本社と工場の連携劇まで。サステナビリティ担当者のヒントとなる、非財務価値向上と地域循環を両立させるリアルな実践知に迫ります。なおインタビュアーは株式会社バイウィルより、執行役員 カーボンニュートラル促進本部長の齋藤が務めました。
【プレスリリース】バイウィル、島根県奥出雲町の森林J-クレジットを 株式会社プロテリアルへ販売、連携協定式を開催
ご提供サービス
<目次>
1. 2030年「CO2排出量38%削減」への挑戦――現場の削減努力と全社戦略としてのポートフォリオ
・製造現場が直面する構造的課題――自力削減努力を補う「新たな選択肢」
・全社の中期削減目標と制度リスクへの備え――柔軟なポートフォリオ戦略におけるクレジットの意義
2. 単価やコスト以上に「価値」を重視。ルーツである「たたら製鉄」の地・奥出雲町を選ぶ理由――「たたら製鉄」の歴史が生んだ“価値への投資”
・創業のルーツ「たたら製鉄」と奥出雲町――歴史的背景が導いた地域連携の原点
・「単なる相殺」ではなく「価値への投資」――歴史と地域に根ざした森林クレジットを全社で後押しできた理由
3. 初のJ-クレジット調達をいかに全社で着地させたか――社内の承認プロセスと、現場に広がった確かな手応え
・「なぜ今、この投資が必要か」――全社的な理解と合意形成を進めた一本のストーリー
・「資金提供のみの寄付型」から「自分たちが汗を流す実践型」へ――たたらの地から生まれた従業員の誇り
4. 数値の相殺を超えた多角的な効果――顧客・採用・株主へ届く環境スタンスと次なる地域共生
・顧客・採用・機関投資家へアピールする「脱炭素と非財務価値」の両立
・全国拠点への横展開から、廃熱利活用の構想まで――地域課題の解決に挑む「地域共生モデル」の未来図
5. 初めてのクレジット調達に挑む担当者の皆様へ。キーワードは「ワンチーム」と「価値の本質の見極め」
・自部署で抱え込まず外部・他部門を巻き込む推進体制と、「価格比較」に陥らない意思決定
・「数値の相殺」で終わらせない――自社の歴史やルーツに光をあて、社員の誇りを育む視点
2030年「CO2排出量38%削減」への挑戦――現場の削減努力と全社戦略としてのポートフォリオ
バイウィル 齋藤: 本日はお忙しい中インタビューにご参加いただき、誠にありがとうございます。
まずは、島根県奥出雲町の森林から創出された森林J-クレジットをご購入いただいたことに、深く御礼申し上げます。今回は単年度でのスポット購入にとどまらず、「長期契約」という形で包括的な協定を結んでいただきました。奥出雲町様にとっても、長期的に安定した財源が見込めることで、持続的な計画に基づいた森林整備が進めやすくなり、非常に喜ばれております。
我々といたしましても、今回のプロジェクトは「地域経済の活性化・森林保全」と「企業の環境経営」を高いレベルで両立させる、極めて意義深い取り組みだと実感しております。プロテリアル様のブランディングに活かしていただくと同時に、こうした地域循環型の脱炭素モデルを世の中に広く広げていきたいと考えております。
本日は、製造現場である安来工場様と、全社方針を司る本社環境戦略部様、双方の立ち位置からリアルなお話をお伺いできればと思います。サステナビリティ推進に悩む他企業の担当者様にとっても実効性のあるヒントとなるよう、取り組みの背景や想いをお聞かせいただけますと幸いです。
それでは早速、1つ目の質問に移ります。まずは現場の視点から、プロテリアル様における脱炭素・カーボンニュートラル推進の現状や、どのようなスタンスで環境対策に向き合われているのか、前提となる取り組みについてお聞かせいただけますでしょうか。
製造現場が直面する構造的課題――自力削減努力を補う「新たな選択肢」
プロテリアル 池尻様:生産技術部で部長を務めております、池尻です。よろしくお願いいたします。
工場の立場から申し上げますと、我々が手掛ける特殊鋼という製品は、その製造プロセスにおいて避けては通れないCO2排出の構造的課題を抱えています。
鋼づくりは、原材料を1,600℃以上の超高温で溶かすことから始まります。さらに、その鋼を叩いて鍛え上げる(鍛造する)ために、重油やガスを燃料とする大型加熱炉で1,000℃以上に加熱し、硬度や粘り強さを引き出すための熱処理工程を何段階も繰り返します。つまり、ものづくりの原点そのものが「膨大な熱エネルギーの消費」の上に成り立っているのです。
株式会社プロテリアル 安来工場 生産技術部 部長 池尻様
だからこそ我々は、その現実から目を背けることなく、脱炭素・カーボンニュートラルに向けた取り組みに正面から向き合わなければならないという強い危機感と使命感を持っています。現場としては、これまで自力削減に向けた取り組みを「4つの柱」で推進してきました。
1つ目は、CO2負荷そのものが低い革新的な製造技術やプロセス自体の開発。2つ目は、モーターのインバーター化や、加熱炉の燃料をA重油からLPGガスへ切り替えるといった計画的な設備投資。3つ目は、工場敷地内への太陽光発電導入をはじめとする再生可能エネルギーの活用。そして4つ目が、全従業員が一丸となって行う現場での地道な省エネ活動です。
ここ数年間でも現場として莫大な投資を行い、中期計画を立てて順次実行している最中です。しかしながら、高耐用年数を持つ大型設備の更新には数年〜数十年単位のサイクルが必要であり、現在の技術水準ではどうしても物理的・技術的な削減の限界に突き当たってしまいます。
そこで、社内での自力削減(4つの柱)を徹底して進めることを大前提としながら、どうしても届かない領域を補完する「5本目の柱」として位置づけたのが今回のJ-クレジットの活用でした。現場での泥臭い削減推進と、地域と連携したカーボンオフセットという「両輪」を走らせることで、実効性のある脱炭素を力強く進めていきたいと考えております。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。製造現場において、技術開発や莫大な設備投資を重ねてもなお突き当たる「自力削減の限界」について、非常にリアリティのあるお話を伺えました。
全社の中期削減目標と制度リスクへの備え――柔軟なポートフォリオ戦略におけるクレジットの意義
バイウィル 齋藤: 現場での実行計画は、全社の環境戦略や財務計画とも密接に関わってくる部分かと思います。続いて、本社側でグループ全体を統括されている貞富様にお伺いいたします。
プロテリアルグループ全体として、「2050年に実質ゼロを目指す」「2030年までにこれだけ減らす」といった中期・長期の具体的な削減ターゲットや数値面でのスケジュール感がどのように設定されているのか。また、そうした全社計画の中でJ-クレジットをどのように位置づけられているのか、現状認識と併せてお聞かせいただけますでしょうか。
プロテリアル 貞富様: 本社環境戦略部の貞富です。我々の部門では、プロテリアルグループ全体の脱炭素化に向けた方針策定や、環境管理全般のマネジメントおよび推進を担っております。
全社としての環境ターゲットとしては、最終的に「2050年度のカーボンニュートラル達成」を掲げており、その中間ステップとして「2015年度比で2030年度までにCO2排出量を38%削減する」という中期目標を設定しています。足元の削減進捗自体はある程度順調に推移しているように見えますが、2030年度の38%削減目標を確実に達成するためには、現状の取り組みに加えてさらに削減量を積み上げていかなければならない厳しい認識を持っております。
我々本社としての基本姿勢は、第一に製造現場における省エネルギーの推進です。生産性の改善や設備の高効率化、無駄なエネルギー消費の削減、そして燃料転換といったプロセス改善を最優先に取り組んでいます。
第二の柱としては、再生可能エネルギーの導入を強力に進めております。特に自社敷地や屋根を活用したオンサイト型の太陽光発電設備について、自己投資やPPA(電力販売契約)モデルを取り入れ、事業所で直接自家消費する仕組みを中心に強化を図っているところです。
しかし、池尻からの話にもあった通り、自社施設内での省エネや再エネ導入といった自社努力だけでは、2030年度目標をクリアするための削減量をすべてカバーしきれるわけではありません。そのため第三の選択肢として、CO2フリー電力や非化石証書の購入、そしてJ-クレジットの購入などを組み合わせ、多角的なポートフォリオを構築して目標達成を目指す方針をとっております。
さらに全社的な視点から言えば、GX排出量取引制度(GX-ETS)の本格化・法制化といった外部環境の変化も見逃せません。我々が属する特殊鋼の電炉業界の中で、当社は溶解炉の容量が小さく、高機能で多品種な素材を製造している立場から、製品1トンあたりの排出量を示す原単位目標において、構造上不利になりやすい側面があります。
そうした制度的枠組みの中で、将来的に排出枠の調達や相殺(オフセット)が必要となった際にも、J-クレジットは制度上認められる非常に有効な手立てとなります。社内の削減努力を補完して2030年目標の達成を実効性のあるものにすると同時に、制度リスクへの備えとしても機能する、全社戦略における極めて重要な選択肢の一つとして位置づけております。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。現場での省エネ・再エネ活動を基本軸としつつ、証書やクレジットも含めた「複数の手段を組み合わせた柔軟な全社戦略」で目標達成を目指されている背景がよく分かりました。
池尻様からは製造現場における自力削減の限界と“4つの柱”のお話を、貞富様からは全社目標の確実な達成に向けた手段の組み合わせ、さらにはGX-ETS等の制度リスクへの備えという経営的ロジックをお話しいただきました。現場と本社の役割分担と連携がしっかり取れている様子が、非常にクリアに伝わってまいります。
単価やコスト以上に「価値」を重視。ルーツである「たたら製鉄」の地・奥出雲町を選ぶ理由――「たたら製鉄」の歴史が生んだ“価値への投資”
創業のルーツ「たたら製鉄」と奥出雲町――歴史的背景が導いた地域連携の原点
バイウィル 齋藤: それでは2つ目のテーマに入らせていただきます。
ここからはJ-クレジットに関する具体的なお話を深掘りしていきたいと思いますが、世の中に多様なクレジットの選択肢が存在する中で、プロテリアル様のものづくりのルーツである「たたら製鉄」ゆかりの地・奥出雲町様の取り組みに参画されることになったきっかけについてお聞かせいただけますでしょうか。まずは現場の視点から、工場側の池尻様にお願いいたします。
プロテリアル 池尻様: おっしゃる通り、弊社のものづくりのルーツは、日本古来の伝統的な「たたら製鉄」にあります。そして、そのたたらの技術を数百年以上にわたり長年営んできた歴史的な場所こそが、島根県奥出雲町です。安来工場はそうした歴史ある伝統的なものづくりの文化や精神を代々脈々と継承してきた拠点ですので、奥出雲町の森林保全活動に対して「我々として何らかの形で恩返しや協力をしたい」という強い想いが以前から根底にありました。
たたら製鉄によるものづくりというのは、原料となる砂鉄と、燃料・還元剤となる大量の木炭を炉に投入し、風を送り込みながら高温で加熱して最高品質の「玉鋼(たまはがね)」を作り出していく日本独自の技法です。しかし、木炭を大量に消費するということは、歴史的な視点で見れば、当時の森林伐採を伴うという意味で自然環境への負荷が高い鋼づくりでもありました。
そうした歴史的な背景を踏まえると、現代の我々にとって森林保全は他人事ではありません。単に自然の恵みを利用させてもらうだけでなく、持続可能な「循環型」として森林を適切に管理・育成し、次世代へ繋ぎながら地域にしっかり貢献できる道はないかと、長年にわたり模索を続けていたのです。
そうした想いを抱いていた中で、奥出雲町様が新たに町内の森林から「森林J-クレジット」を創出されるというお話をお伺いしました。奥出雲町の森林から生まれるクレジットを活用させていただければ、プロテリアル全体の脱炭素推進はもちろんのこと、奥出雲町様への森林保全支援や地域経済の活性化という直接的な地域貢献が両立できます。これこそが我々の求める形であると考え、参画に向けて社内を取りまとめていったという流れになります。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。自社の創業の精神や歴史的ルーツに根差した、非常に説得力のある地域連携の動機ですね。
ちなみに、最初にお話をお聞きになったきっかけは、弊社のパートナーでもある山陰合同銀行様からだったのでしょうか。それとも奥出雲町様から直接お話があったのでしょうか。
プロテリアル 池尻様: 最初にお話をご紹介いただいたのは、山陰合同銀行さんでしたね。
バイウィル 齋藤: そのお話をお聞きになった際、皆様の第一印象や社内での反応はいかがでしたでしょうか。「そもそもJ-クレジットとはどういう仕組みか」という基礎的な理解から深めていかれたのでしょうか。それとも「2030年目標に向けて有効な手段を検討していたタイミングに、ちょうどゆかりの深い奥出雲町の案件が持ち上がった」という感覚だったのでしょうか。
プロテリアル 池尻様: 社内の受け止め方のタイミングとしては、まさに後者でしたね。
2030年度のCO2削減目標に向けて自力努力だけでは限界があるという現実が見えてくる中で、いかに有効かつ実効性のある補完手段を確保するかを模索していたという背景がまずありました。そして、もう1つの大きな動機としてあったのが、「単に資金を出すだけでなく、全従業員が一体となって環境改善活動に参画し、社内全体でサステナビリティに対する意識やマインドを高めていきたい」という強い想いです。
これまでの地域貢献活動を振り返ってみますと、どちらかといえば資金を納めて支援する「寄付型」の取り組みが中心でした。しかし、奥出雲町様や山陰合同銀行様と対話を重ねていく中で、今回のJ-クレジットの取り組みは単にクレジットを購入して数字を相殺するだけで終わらない可能性が見えてきました。社員自らが現地に足を運び、実際に木を植えたり枝打ちをしたりするような「参加型の森林保全活動」とセットで展開できるというイメージが湧いてきたのです。
「自力達成が困難な削減目標の補完」という全社的な課題解決と、「従業員の環境マインドを高める参加型施策」という現場の想い。我々が求めていたこの2つの目的を同時に実現できるという受け止め方をし、非常に絶妙なタイミングで素晴らしいご提案をいただいたということで、一緒に活動を推進していこうという決断に至りました。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。少し視点を広げて、今回の取り組みにおける全体構想についてもお伺いできますでしょうか。
プロテリアル 松島様: 安来工場 環境管理グループの松島と申します。全体構想の経緯について私からご説明いたします。
弊社では従来から地域社会への貢献活動の一環として、持続可能な森林保全活動に長年取り組んでまいりました。具体的には2011年から島根県の制度を活用し、先ほど池尻が申し上げたような資金を拠出する「寄付型」の形で寄付金を納めながら、地域の森林保全に関わってきた歴史がございます。その取り組みが2025年10月にひとつの節目を迎え、内容を刷新・見直すタイミングが訪れました。
株式会社プロテリアル 安来工場 環境管理グループ グループ長 松島様
次のステップへ進むにあたり、我々は「単に資金を出す寄付型にとどまらず、社員自らが現場に足を運び、汗を流して作業を行う“実践型”の取り組みへ移行したい」と考えました。そこで新たな場所で主体的な森林保全活動を展開すべくご相談に伺った先が、ほかならぬ奥出雲町様だったのです。
奥出雲町様と対話を重ね、活動内容や場所など具体的に方針が固まりつつあった、まさにそのタイミングで、山陰合同銀行様から奥出雲町における森林J-クレジット創出のご紹介をいただきました。
そこで我々は、「現場での社員参加による実践的な森林保全活動」と「J-クレジットの長期調達によるカーボンオフセット」という2つの施策を融合し、より強固な関係性を築くため『包括的な連携協定』へと発展させることになりました。これが今回の包括協定締結に至った経緯になります。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。社員様が直接携わる現場での実践型活動と、全社的なJ-クレジット調達を組み合わせた、非常に先進的でストーリー性のある構想ですね。
「単なる相殺」ではなく「価値への投資」――歴史と地域に根ざした森林クレジットを全社で後押しできた理由
バイウィル 齋藤: この取り組みを具体化していくにあたり、工場側と本社側ではどのように連携を図られたのでしょうか。工場側としては「従来活動のアップデート」と「J-クレジット購入」をセットで推進したいという強い想いがあったかと思いますが、本社に対してどのように提案や協議を行い、全社的なプロジェクトとして実現させていったのか、その経緯をお聞かせいただけますでしょうか。
プロテリアル 松島様: 経緯といたしましては、もしこれが単なる「現場での森林保全活動」にとどまるものであれば、安来工場単独の地域貢献施策として閉じた形で完結していたかもしれません。
しかし、そこに「J-クレジットの購入」という要素が合わさることで、本件はプロテリアルグループ全体が掲げる全社的なカーボンニュートラル目標の達成に直接寄与する、非常に重要な全社テーマへと昇華します。そのため、工場単独の枠組みを超え、全社戦略とどのように整合させて進めるべきかについて、早い段階から本社の環境戦略部へ相談を持ちかけ、密に連携を図っていきました。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。工場側からそのような提案が上がってきた際、本社側ではどのような反応や受け止めだったのでしょうか。
プロテリアル 貞富様: 本社としましては、「良い提案が上がってきた」と非常に前向きに受け止め、バックアップしたいと考えました。
その理由として、我々プロテリアルグループ全体では、環境管理方針を「脱炭素」「資源循環」「生態系保全」という3つの軸で整理し、総合的に推進している背景があります。安来工場が長年継続してきた地域貢献としての森林保全活動は、もともと「生態系保全」や「資源循環」の軸にしっかりと合致する、奥出雲町への意義深い支援施策でした。
そこに今回、J-クレジットの取得という「脱炭素」への直接寄与という新たな要素が加わることになります。つまりこの提案は、我々が掲げる環境管理の3つの軸すべてを横断し、包括的に満たす極めて意義深い活動へと進化することを意味していました。
だからこそ、本社としてもぜひ全社を挙げて推進すべき案件であると判断し、全社案件として全面的にサポートさせていただいた次第です。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。本社としても、2030年度の中期目標やその先を見据え、自社努力を補完する実効性のある手段としてJ-クレジットなどの活用事例をまさに探されていたタイミングだったのでしょうか。
プロテリアル 貞富様: 2030年度の全社削減目標達成に向けた施策としてももちろんなのですが、それに加えてGX排出量取引制度(GX-ETS)の本格化や法制化といった、急速に変化する外部環境への対応も大きな要因となっています。
我々が属する特殊鋼の電炉業界は、すでに高炉等に比べてCO2排出量が少なく、限界近くまで省エネ化が進んでいるため「これ以上の削減の伸びしろ」が少ないという特徴があります。その業界の中でも、当社は、高品質・高機能な特殊鋼を作るプロセスでは、小規模な溶解容量、高度な精錬や熱処理を重ねるため、製品1トンあたりのエネルギー消費量が増えやすく、原単位目標において不利になりやすいという構造的な課題を抱えています。
そうした局面において、万が一の目標未達リスクへの備え(相殺・償却枠)として非常に有効に機能するのがJ-クレジットです。
今回の取り組みは、単なる「地域貢献やボランティア」にとどまらず、コンプライアンスや制度対応としての「J-クレジット活用」という実効性の面でも極めて大きな価値を生み出します。事業戦略とサステナビリティの両面で意義深い素晴らしい案件であると確信したからこそ、本社としても全面的に推進・サポートいたしました。
バイウィル 齋藤: 単なる環境貢献にとどまらず、GX-ETS対応や業界特有のリスクヘッジという「事業戦略上の実効性」もしっかりと担保されていたからこそ、全社案件としてスムーズにバックアップできたわけですね。
プロテリアル 貞富様: 森林由来のJ-クレジットは、再エネ由来等のクレジットと比較して創出コストがかかるため市場価格が高い傾向にあります。今回の奥出雲町様についても、市場全体を見渡せば、より安価なカーボンクレジットが存在していることは我々としても当然把握しております。
しかし、我々は今回の取り組みを単なる「CO2排出量を相殺するためだけの調達コスト」としては捉えておりません。自社のものづくりのルーツであり、今現在も日刀保たたらを支援する当社として奥出雲町の森林を自らの手で保全し、地域経済や環境へ直接資金を還元するという、生態系保全活動と地域社会への貢献といった “付加価値”を含めて購入しております。
単なる安価なクレジット調達という「コストの論理」だけで判断するのではなく、「環境目標の達成」と「地域保全への貢献」という『価値の両輪』を総合的に鑑みた取り組みこそが重要なのだと強く感じております。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。「コストの論理」を超えて「地域保全への貢献という付加価値」に投資する――この視点は、まさに私どもが社会に届けていきたい本質的な価値です。購入の背景やストーリーを社内にしっかりと伝え、理解を得ようと模索する全国のサステナビリティ担当者様にとって、非常に大きな勇気と説得力を与えるエピソードですね。
初のJ-クレジット調達をいかに全社で着地させたか――社内の承認プロセスと、現場に広がった確かな手応え
「なぜ今、この投資が必要か」――全社的な理解と合意形成を進めた一本のストーリー
バイウィル 齋藤: それでは次のテーマに移らせていただきます。本プロジェクトを具現化し、全社的な取り組みとして推進していくプロセスにおいて、苦労された点や特に印象に残っている社内のエピソードなどがございましたら、まずは現場の工場側からお聞かせいただけますでしょうか。
プロテリアル 松島様: これまでに自社で実績がない全く新しい取り組みだったこともあり、関係部署と具体的に話を詰めていく中で、「J-クレジットの調達費用や連携協定に伴う資金を、どのように経理・会計処理すべきか」という実務上の大きな課題がまず立ちはだかりました。
バイウィル 齋藤: 他社様でも非常によくお聞きする、まさに「あるある」な課題ですね。前例のない取り組みだからこそ、どうしても生じる実務上のハードルだと思います。
プロテリアル 松島様: 工場の経理担当者が本社の財務部門と密にコミュニケーションを取り、今回の取り組みに応じた新たな社内ルールや処理フローを一から構築してくれたのです。部署の枠を超えて、他部門が我々環境管理チームの挑戦に寄り添い、伴走してくれたことが非常に印象深く、心強い体験として記憶に残っています。
バイウィル 齋藤: 部署の垣根を越えた本当に素晴らしい連携ですね。
プロテリアル 池尻様: もう一つ大きなハードルとして挙げるとすれば、前例のないJ-クレジット調達という投資に対し、「この投資にどのような経営上の意味合いや位置付けがあるのか」を決裁者に正しく理解してもらうことでした。我々としても、決して小さくはない金額の投資です。
バイウィル 齋藤: 確かに、金額が大きくなればなるほど、経営層への明確なロジックや意義の説明が求められますよね。
プロテリアル 池尻様: はい。だからこそ、単なる一回限りのコストや形式的な寄付として処理するのではなく、「なぜ今この投資が必要なのか」「将来的に弊社の事業や地域社会の持続可能性にどう生きるのか」という本質的な価値を丁寧に言語化し、納得感を持って承認を得るプロセスが必要不可欠でした。 経営陣や決裁者に対してその意義を説明し、共感と納得を引き出せたことこそが、今回プロジェクトを前進させる上で重要なプロセスの一つだったと感じています。
バイウィル 齋藤: まさに多くの環境担当者様が頭を悩ませる「社内決裁の壁」ですね。具体的にどのようなロジックやストーリーを組み立てて決裁者の納得を引き出されたのでしょうか。
プロテリアル 池尻様: 単に「J-クレジットを買ってCO2を相殺する」という表面的な提案であれば、決裁を通すのは難しかったと思います。最大のポイントは、ものづくりの原点である「たたら製鉄」ゆかりの地・奥出雲町様への地域貢献と、自社の環境負荷に全員で向き合う「従業員参加型の環境教育」をセットにしたパッケージとして構築できた点です。
「事業のルーツに寄り添い、過酷な資源利用の歴史を現代の資源循環へと反転させる」という一本のストーリーに落とし込んだことで、経営陣に対しても「これは単なる経費(コスト)ではなく、非財務価値や企業ブランド、インナーエンゲージメントを高めるための戦略的投資である」と納得感を持って承認を得ることができました。
バイウィル 齋藤: 目先の調達コストや損得勘定にとどまらず、プロテリアル様としての歴史や企業姿勢、そして地域の未来につながる「深い意味合いとストーリー」を丁寧に言語化して説明されたわけですね。
プロテリアル 池尻様: そうですね、まさにその通りです。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。続いて、決裁の具体的なプロセスについてももう少し深掘りさせてください。今回の意思決定は工場内の手続きで完結されたのでしょうか。それとも、全社的なプロジェクトとして本社側での承認まで取得されたのでしょうか。
プロテリアル 池尻様: 最終的には、本社のトップである社長決裁、つまり取締役会レベルまで通しています。説明や提案自体は、現場の工場長や事業部長の了解を得た上で、我々工場・事業部側から経営陣に対して行いました。
バイウィル 齋藤: 現場が主導となって経営陣の意思決定を引き出されたのは素晴らしいですね。
プロテリアル 貞富様: 私から少し補足させていただきますと、今回のJ-クレジット購入は社内の会計上「寄付行為」にあたる扱いとなりました。そのため、社内規程の金額制限により、必然的に取締役会決裁(社長決裁)まで上げる必要があったという実情があります。
バイウィル 齋藤: そうだったのですね。そうした高いレベルの決裁や具体的な契約スキームの構築に向けて、現場と本社側ではどのように役割分担され、連携を進められたのでしょうか。
プロテリアル 貞富様: 決裁に向けた社内説明自体は、現場である工場・事業部側が主体となって行い、工場長、事業部長、そして社長へと順を追って丁寧に理解を得ていきました。やはり、この全社的な承認プロセスを丁寧に通していくことが、今回一番のハードルだったと感じています。
一方で我々本社側としては、そうした現場の想いをしっかりと形にするため、法務部門と連携して契約書の条文を精査・整備したほか、プレスリリースなど対外的な広報活動の準備を進めるなど、全社プロジェクトとしての実務的なバックアップに注力いたしました。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。現場が熱量を持って推進し、本社が法務や広報の面からしっかりと支えるという、まさに現場と本社の理想的なタッグでハードルを乗り越えられたのですね。そうして臨まれた取締役会での最終決裁の際、社長や役員の方々からは具体的な期待のコメントや、前向きな反応などはございましたでしょうか。
プロテリアル 池尻様: 取締役会において懸念や厳しい指摘が出るといったことはなく、むしろ非常に前向きかつ協力的に受け止めてもらえました。我々が掲げた「ルーツへの恩返し」や「脱炭素と従業員参加の両立」というストーリーに対して深いご理解をいただき、全社としてプロジェクトを力強く後押ししてもらえたと感じています。
「資金提供のみの寄付型」から「自分たちが汗を流す実践型」へ――たたらの地から生まれた従業員の誇り
バイウィル 齋藤: 本取り組みが正式に決定し、プレスリリース等で対外発表された後、社内や現場の皆様をはじめ、周囲からはどのような反応がありましたでしょうか。
プロテリアル 池尻様: 社内の反応としては、「これまで実績のなかったJ-クレジットの購入を、わが社が先陣を切って行うんだ」という声がありました。それだけの投資をして企業の社会的責任を果たし、地域貢献に本気で取り組む姿勢を示したことで、「うちの会社も素晴らしい取り組みをしているね」といった前向きな会話が社内で生まれるきっかけになりました。お取引先様からの直接の反響はこれから伺う段階ですが、まずは従業員自身が非常に喜んでくれているという強い手応えを感じています。
プロテリアル 松島様: そうですね、我々環境管理チームのメンバーをはじめ、社内のメンバーも会社が社会的に意義のある大きな一歩を踏み出したことを心から喜んでいる様子がひしひしと伝わってきます。
プロテリアル 山本様: まさに事業の原点・ルーツを守っている現場のメンバーからも、誇らしいという声が上がっています。
実は奥出雲町には、たたらに繋がる事業拠点として「鳥上木炭銑工場(とりかみもくたんせんこうじょう)」があり、現在も5名の従業員が伝統を守りながら働いています。自分たちが日夜働く足元の奥出雲町でこうした取り組みが決定し、報道やリリースとして社会に出たことを、現地のメンバーも非常に誇らしく喜んでいました。
また、これまでの「資金提供のみの寄付型」から「自分たちが汗を流す実践型」の環境整備活動へと切り替えたことで、今後は社員が実際に奥出雲町を訪れてたたらのルーツや豊かな自然に直接触れる機会ができるということに対し、全社の従業員の間でも大きな期待感が寄せられています。
バイウィル 齋藤: 現場の皆様の生のお声、大変胸が熱くなりますね。特にたたらの歴史を今に受け継ぐ拠点のメンバーの方々がご自身の仕事に強い誇りを感じていらっしゃるというのは、まさに本プロジェクトの持つ真の価値を示していると感じます。
単に数字上のCO2排出量をオフセットするだけでなく、「資金提供のみの寄付型」から「社員自らが汗を流す実践型」へ切り替えたことで、従業員の皆様の会社への愛着や誇りを育む素晴らしいインナーブランディングにも繋がっているのですね。
そうした現場での大きな反響の一方で、グループ全体を統括する本社側での共有や認知の広がり、あるいはプレスリリース発表後のメディア・お取引先様といった対外的な反響はいかがでしたでしょうか。
プロテリアル 貞富様: 全社的な共有としては、毎年6月初旬に開催している全社の「環境委員会」の場で本件を紹介いたしました。全社的な環境戦略を体現する先進事例として、全社の環境担当者へスムーズに認知・共有されたという受け止めです。
プロテリアル 南様: 外部への発信について広報より補足させていただきますと、積極的なメディア対応を行い、『鉄鋼新聞』様や『日刊産業新聞』様をはじめとする業界紙・専門紙に大きな記事として掲載していただきました。今回の先進的な取り組みを通じて、弊社の環境対応や地域貢献に対する企業イメージの向上に大きく寄与したと実感しております。
バイウィル 齋藤: 社内への浸透はもちろん、業界紙をはじめとするメディアを通じて、御社の本気の姿勢が対外的に力強く伝わったのですね。まさに社内外を巻き込んだ素晴らしい成果だと感じます。
数値の相殺を超えた多角的な効果――顧客・採用・株主へ届く環境スタンスと次なる地域共生
顧客・採用・機関投資家へアピールする「脱炭素と非財務価値」の両立
バイウィル 齋藤: それではここからは、本取り組みの「今後の展望」について伺えればと思います。
自主的なCO2削減目標の達成やGX-ETS(排出量取引制度)への対応といった「定量面」での活用はもちろん、企業の非財務価値向上や地域貢献といった「定性面」での効果も含め、今後どのように全社的な施策として発展させていきたいとお考えでしょうか。まずは現場・工場側としての狙いや想いをお聞かせいただけますでしょうか。
プロテリアル 池尻様: 工場側としては、定性的な価値として大きく2つの効果を期待しています。
1つ目はお客様(サプライチェーン)に対するアピールと価値提供です。現在、製造業全体においてサプライチェーンを通じたCO2排出量の削減(Scope3含め)が強く求められており、積極的な環境取り組みを推進されているお客様が非常に増えています。そうした中で、我々が環境負荷の低い素材を供給することには、顧客の脱炭素戦略にとっても極めて大きな意義があります。特に、弊社が今後さらなる成長を目指している航空・エネルギー事業分野の製品は、その高度な製造プロセスゆえにCO2排出負荷が高くなりやすい側面があります。だからこそ、そうした高機能製品においても「環境負荷を下げていく姿勢」を明確に示すことは、競合との差別化や顧客価値の向上において非常に有意義だと考えています。
2つ目は採用活動におけるブランディング効果です。これから入社を目指す学生さんや就職活動生に対し、「環境問題に対して本気で正面から向き合う会社」というメッセージを伝える非常に強力な材料になります。近年、持続可能な社会への貢献や環境活動に熱心な企業であるかを重視する若手世代が非常に増えていますので、今回の取り組みが弊社の姿勢を理解してもらい、入社意欲へとつながる一つの大きなきっかけになればと期待しています。
バイウィル 齋藤: 顧客への提案力強化や採用ブランディングという観点は、現場の成長においても極めて重要な視点ですね。続いて、グループ全体を統括される本社側の視点からは、どのような効果を期待されていますでしょうか。
プロテリアル 貞富様: 本社側としても目指す方向性は工場側と大きく変わりませんが、第一に「企業の社会貢献活動や生態系・森林保全への寄与」、そして第二に「具体的な脱炭素施策としての活用」という、2つの軸で捉えています。
まず脱炭素施策におきましては、先ほどお話しした通りGX-ETSの目標達成に向けた排出量削減手段の一環として、J-クレジットを有効活用していく計画です。
また対外的な視点では、お客様をはじめとするステークホルダー、特に弊社の主要なステークホルダーである外資系機関投資家様などから、企業に対する環境対応の要求が年々高まっています。そうしたステークホルダーの皆様からの期待に応えるためにも、脱炭素施策を全社で多角的に推進し、実行できる取り組みから一つずつ着実に入手・実行し、前進させていく方針です。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。定量的なGX-ETS対応から、投資家をはじめとするステークホルダーの期待に応える定性的な企業姿勢まで、今後の全社戦略が非常によく理解できました。
全国拠点への横展開から、廃熱利活用の構想まで――地域課題の解決に挑む「地域共生モデル」の未来図
バイウィル 齋藤: 今回、奥出雲町様と安来工場様の間で「企業の歴史・ルーツと脱炭素を掛け合わせた地域循環型モデル」という非常に素晴らしい先進事例が誕生しました。この先進的なモデルを今後、全社としてどのように他拠点へ横展開し、発展させていきたいとお考えか、具体的なイメージや構想などがございましたら教えていただけますでしょうか。
プロテリアル 貞富様: 今回の安来工場における取り組みを一つのモデルケース(先行事例)として位置づけています。当社の全国各地にある他の工場におきましても、それぞれの地域に根ざした貢献活動や社会活動を展開してきた歴史があります。
今後はそうした現場の地域活動とリンクさせる形で、各地に森林J-クレジット等の取り組みがあれば、安来工場の事例を横展開していくような形で積極的に参画の可能性を探っていきたいと考えています。仮にそれが最終的なクレジットの購入や調達に直接結びつかない形であったとしても、地域の社会貢献や生態系保全活動そのものは、企業として継続して推進していく方針です。
バイウィル 齋藤: 安来工場のモデルを活かして、今後特に横展開を検討・注力していきたい特定のエリアや拠点などはございますでしょうか。
プロテリアル 貞富様: 当社としては、環境対応の要件や規制が厳しいエリアをはじめ、全国各地に主要な拠点を持っています。さらにグループ会社や子会社まで視野を広げますと、北は秋田県から南は鹿児島県まで広く展開しておりますので、そうした全社的なネットワークの中で、安来工場に続く形で取り組みが可能な拠点から一つずつ着実に横展開を進めていきたいと考えております。
バイウィル 齋藤: 全国に広がる拠点のネットワークでそうした地域循環モデルが広がっていくと、非常に大きなインパクトになりますね。ぜひ現場・工場の立場からもお伺いしたいのですが、こうした「自社のルーツや地域と結びついた連携モデル」を推進していく上での最大のポイントや、今後こうした取り組みを目指す他エリアの拠点・他企業様へのアドバイスなどがございましたら、お聞かせいただけますでしょうか。
プロテリアル 池尻様: 地域の皆様と深く協力し合いながら、自社の事業成長と地域社会の発展を「共に推進していく」という高い意識と姿勢を持つことが何より大切だと感じています。
単に資金を出す、あるいは一方的に施策を持ち込むのではなく、地域住民の皆様や自治体行政の皆様とお互いに膝を突き合わせて議論し、双方にとって真にプラスとなる方向へ取り組みを進めていくこと。その具体的な成果のカタチの一つが、今回のJ-クレジットや包括連携協定だったと捉えています。
当安来工場は安来市という、奥出雲町とは隣接する別の自治体に所在しておりますが、地元出身の従業員も多く在籍しており、地域社会の発展に工場として寄与できる機会が数多くあります。そうした地域との協働関係を地道に高めていく姿勢は、当社の他の工場はもちろん、脱炭素や地域共生を目指すあらゆる他企業様においても共通して最も重要なポイントになるはずです。
バイウィル 齋藤: 素晴らしいメッセージをありがとうございます。今後、地域とともにどのような脱炭素の取り組みや未来のものづくりを展開していきたいか、長期的な展望をお聞かせいただけますでしょうか。
プロテリアル 池尻様: 将来的に地域連携のモデルケースとなるような取り組みを形にできればと考えています。
例えば、私個人の構想アイデアレベルの話ではありますが、工場の製造プロセスから発生する「廃熱」を地域の皆様や農林水産業、公共施設などで有効活用していただくような仕組みづくりです。単なる二酸化炭素の相殺にとどまらず、工場と地域社会がエネルギーレベルで密接に共生できるような未来型のアプローチを、いつか実現できたら面白いのではないかと考えております。
バイウィル 齋藤: 工場の廃熱を地域社会へと還元・循環させる「熱の共生利用」ですね。非常に夢があり、実現価値の高い構想です。
プロテリアル 松島様: 実は、本日の取材直前まで参加していたのが、「安来市地球温暖化対策地域協議会」という会議でした。弊社は地域を代表する企業として委員を選出しており、まさに行政や地域の皆様と一丸となって進められる脱炭素施策を協議してきたところです。
具体的には、まず社内における従業員への啓発活動、日々の環境意識や省エネ行動をさらに高めていくことはもちろんですが、取り組みは社内だけに閉じません。工場見学に訪れる地元の小学生に向けて、次世代を担う子どもたちの意識革新や行動変容を促すような「環境教育」の機会も積極的に設けていきたいと考えています。
さらに、製造工程でどうしても発生してしまう端材・廃材をリサイクルや有効活用につなげる資源循環の仕組みづくりや、先ほど池尻が申し上げたような廃熱の地域利活用など、地域社会が直面している具体的な困りごとや課題の解決にダイレクトに寄与できる取り組みを、今後もひとつずつ模索し、力強く展開していきたいと考えています。
初めてのクレジット調達に挑む担当者の皆様へ。キーワードは「ワンチーム」と「価値の本質の見極め」
自部署で抱え込まず外部・他部門を巻き込む推進体制と、「価格比較」に陥らない意思決定
バイウィル 齋藤: それでは最後に、プロテリアル様と同じように脱炭素目標の設定やJ-クレジットの導入・調達を検討しながらも、初めての意思決定や推進プロセスで悩まれている企業の担当者様に向けて、アドバイスやメッセージをいただけますでしょうか。まずは現場・工場側の視点からお願いいたします。
プロテリアル 池尻様: 自社や自部署の知識・リソースだけで、こうした複雑な環境課題を解決しようとするのは非常に困難なのが現実だと思います。
だからこそ、バイウィル様や山陰合同銀行様、奥出雲町様のように、豊富な知見やネットワークをお持ちの外部専門家やパートナーの力を積極的に借り、巻き込んでいくことが極めて大切になります。
そして、社内でプロジェクトを推進する立場としては、「自分たちの取り組みは、社会や地域にとって間違いなく価値のある良いことなのだ」という強い想いと自信を持つことです。まずは実務チーム内で熱量をしっかりと揃え、その本質的な価値を丁寧な言葉で経営陣や決裁者にアピールし続けていくこと。これこそが、社内の重い扉を開き、プロジェクトを前に進める一番の鍵になると実感しています。
プロテリアル 山本様: 推進体制の観点から補足させていただきますと、環境管理グループだけで課題を抱え込むのではなく、総務部門や広報部門など、普段から地域貢献活動や社内広報を担っている他部署と手を取り合って推進していくことが非常に重要です。
部門の枠を超えてタッグを組むことで、社内への認知度やメッセージの浸透度が格段に上がっていくことを、今回身をもって実感いたしました。そうした「部署横断の連携チームづくり」も、社内全体を巻き込んでいく上での大きなヒントになるのではないでしょうか。
バイウィル 齋藤: ありがとうございます。部署の垣根を越えたワンチームでの巻き込みは、まさに多くの企業様にとって非常に参考になる実践的なアドバイスですね。
それでは続きまして、本社側の立場からのメッセージやアドバイスもいただけますでしょうか。
プロテリアル 貞富様: 社外の多様なステークホルダーとの信頼関係を深めていく視点からは、こうした取り組みを通じて「自社が社会課題や環境保全、地域社会に対して真摯に向き合っている姿勢」を、お客様や取引先様、株主・投資家様、行政、そして地域の皆様へしっかり伝えていくことが何より重要だと考えています。今後ますます高まる脱炭素目標の達成要求や、強まる規制・お客様からの削減要請に確実に応えていくためにも、自力削減だけでは足りないギャップを補う施策を、今後も果敢に推進していきたいと考えております。
また、クレジット調達においては、市場を探せばより安価な選択肢が存在するのも事実です。しかし、単なる「調達コストの比較」という表面的な目線だけで判断するのではなく、森林保全や地域活性化、そして自社の歴史的ルーツへの貢献といった深い意味合いを含めた「価値の本質」を正しく見極め、意思決定を行うことの大切さを、今回のプロジェクトを通じて強く実感いたしました。
バイウィル 齋藤: 単なるコストの相殺にとどめず、地域やステークホルダーとの信頼関係を育む「価値への投資」として捉える貞富様のお言葉は、まさにこれからの時代におけるサステナビリティ経営の本質を示されていると感じます。現場での実践的な熱量から、全社戦略としての明快なロジックまで、多くの企業様にとって大きな勇気と道しるべとなる貴重なお話をお伺いできました。ありがとうございます。
「数値の相殺」で終わらせない――自社の歴史やルーツに光をあて、社員の誇りを育む視点
プロテリアル 池尻様: 最後に1点だけ、非常に大切な想いを付け加えさせてください。
今回の取り組みを通じて得られた最も大きな成果の一つは、J-クレジット調達というカタチを通じて、プロテリアルとしての歴史的ルーツや、奥出雲町をはじめとする地域の方々との深い繋がりを、私自身が改めて再認識できたことです。

左から、株式会社プロテリアル 安来工場 環境管理グループ グループ長 松島様、生産技術部 部長 池尻様、
総務部 庶務グループ グループ長 山本様
今後は、この取り組みを自分たちだけのものにとどめず、他の多くの従業員にも実際の森林保全活動の現場へ足を運んで参加してもらいたいと考えています。社員自らが現地で汗を流し、地域の方々と触れ合うことで、自社の歴史や地域との繋がりを肌で感じ、誇りを再認識する素晴らしいきっかけになるはずです。それこそが、本プロジェクトにおける真の意義であり、最も大きな価値だったのではないかと改めて感じております。
バイウィル 齋藤: 池尻様、大変本質的で胸が熱くなるお話をありがとうございます。単なる「CO2排出量の削減」という数値的な効果にとどまらず、自社の歴史やルーツを再発見し、社員の皆様の想いや地域との絆を未来へと紡いでいく――まさにこれこそが本プロジェクトの真の価値であり、私どもにとっても目指すべき理想的な姿だと深く感銘を受けました。
日々の多忙な業務の中ではつい見落としがちな「歴史的な繋がり」や「地域の恵みへの感謝」を、一度立ち止まって再認識する非常に良い機会と言えるかもしれませんね。
プロテリアル 池尻様: おっしゃる通りですね。「どのような木が使われ、どれほどの年月と手間をかけて炭に育っていくのか」といった、かつての「たたら製鉄」における自然との共生や営みに思いを馳せ、改めて考えさせられる貴重な機会になるはずです。単なる脱炭素の数値目標を追うだけでなく、こうした教育的・精神的な学びや社内の意識改革といった側面も含めて、今回の取り組みには計り知れない価値があると実感しております。
バイウィル 齋藤: 本日はお忙しいところ、誠に貴重なお話をありがとうございました。
自社のルーツである「たたら製鉄」の地・奥出雲町へ、J-クレジットという現代の仕組みを通じて環境保全の恩返しをしていく。歴史と脱炭素を見事に結びつけ、企業と地域が共に持続可能な未来を創るという美しいストーリーは、地域共創を模索する多くの企業様にとって大きなヒントとなるはずです。本日は貴重なお話をありがとうございました。(取材日 2026年8月31日)
(掲載されている所属、役職およびインタビュー内容などは取材当時のものです)