概要
燃料油、基礎化学品、高機能材、電力・再生可能エネルギー、資源の各分野において、さまざまなパートナー・顧客との信頼関係をベースに、多様なエネルギーと素材の開発・製造・販売を手掛けている出光興産株式会社様。同社は、カーボンクレジットを活用して、燃料油の使用にともない排出されるCO2をオフセットする「出光カーボンオフセットFuel(以下、ICOF)」を販売しています。
今回、バイウィルがこの「ICOF(アイコフ)」をより広く普及させるための取り組みを支援したことで、特約販売店(以下、特販店)様における「ICOF」への理解が深まり、より多くのお客様にその存在を知っていただくことにつながりました。
ご提供サービス
・「ICOF J」に付与されているJ-クレジットに関するレギュレーションについてのサポート
・特販店様向け勉強会の実施
スコープ3がスコープ1・2の約10倍ある石油会社だからこそ、CO2削減のソリューションを提供する必要性を感じていた
── 改めて、「ICOF」がどういう商品なのかご紹介をお願いいたします。
渡辺様:「ICOF」はカーボンクレジットを付与した燃料油です。 普段通り燃料油を使用しながら、CO2排出量のオフセットが可能になります。われわれ、石油元売り事業は自社のスコープ1、2よりもスコープ3が約10倍もあることが特徴の業界です。当社では、商品を使ってくださるお客様のスコープ1のCO2排出量を減らす使命があると長らく考えていました。また燃料油をお使いのお客様の中には「CO2排出量の削減を要請されているけれど、時間がかかり間に合わない」「大がかりな設備投資ができない」「環境対策が定まらない」「CO2の削減対策をやりつくしてしまった」といったお悩みを抱えていらっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。
そこで、お客様のスコープ1へのソリューションをご提供するため、そしてお客様の悩みにお応えするために、2023年7月から、ボランタリークレジットを付与した「ICOF」の販売を開始することにいたしました。そして、少し遅れて、同年12月にJ-クレジットを付与した「ICOF J」の販売を開始するに至りました。
販売部企画課 渡辺 裕之様
「ICOF」の特徴は、4つのプランがあることです。ボランタリークレジットを付与した、100%・50%・10%オフセットの3種類の「ICOF」があり、お客様の脱炭素のお取り組みの状況に応じ、3つの中から選んで活用をしていただくことができます。「ICOF100<100%オフセット>」 は、燃料油使用によるCO2を全量オフセット可能で、カーボンニュートラルへの取り組みを強力にサポートします。「ICOF50<50%オフセット> 」は2030年CO2 46%削減目標に相当するため、 環境性に配慮しながらも、経済性も追求したいお客様に向いています、そして「ICOF 10<10%オフセット」は経済性も重視しながら、環境対策に取り組むお客様向けとなっています。
さらに「ICOF J」はJ-クレジットを付与しているため、燃料油使用によるCO2を全量オフセットできるだけでなく、温対法の報告に活用可能で、さらなる企業価値向上ができます。
品質も通常の燃料と一切変わりませんので、安心してお使いいただけますし、比較的安価に利用できるカーボンニュートラル燃料です。燃料を今お使いのものから「ICOF」に変えていただくだけで、多額なコストをかけて設備投資などをすることなく、CO2をオフセットすることが可能になります。
── 「ICOF」を販売するにあたって、なにか課題になったことはありましたか?
渡辺様:バイオ燃料は「実物」になりますので、そのバイオ燃料を誰が作るのかといったところから、誰がそのバイオ燃料を運ぶのかといったことまで、かなり多くの課題がありました。
また、弊社はお客様にとってのスコープ1におけるCO2削減のために、2024年6月から軽油代替燃料である「出光バイオディーゼル5(B5軽油)」、2025年1月から「出光リニューアブルディーゼル(IRD)」の販売を開始しておりますが、サプライチェーン構築面での課題をクリアするのに非常に苦労しました。
一方、「ICOF」ならば、オフセットするためのカーボンクレジットを付与するシンプルな仕組みですので、より課題が少ない状態で、カーボンニュートラル燃料に着手しやすいと考えました。コスト面でも、かかる経費はカーボンクレジットの調達料のみです。自社内で取り組むにあたってのハードルも低く、お客様にとっても購入していただきやすい商品だと自負しております。
「ICOF」の仕組み
(出典:出光カーボンオフセットfuel「ICOF」https://solution.idemitsuenergysolutions.com/solution/energy/icof.html)
── 今回、「ICOF」普及のお取り組みをしようと思われた背景を教えて下さい。
渡辺様:先ほども申し上げた通り、石油元売り業界は、スコープ3がスコープ1・2の約10倍ある点が特徴です。「ICOF」が世の中に普及することで、お客様のCO2排出量へのオフセットに貢献できると考えた点が、取り組みの背景にあります。
そのような中、「ICOF」を需要家様たちにどのように使っていただくのか、例えば「ICOF J」であれば温対法に使えるとか、GX-ETSの報告に活用できるなどといったことを、分かりやすくお伝えする点に課題を感じていました。
一方で、「ICOF」に関してはリリース後、特販店様から問い合わせが多くありました。「ICOF」の販売を開始する前は、特販店様は安定供給や信頼関係に焦点に当て燃料を販売することに重きを置いていましたが、そこに「脱炭素」という要素が付加されたことで、おそらく特販店様は「『脱炭素』という新しいジャンルの『ICOF』をどのように売ったらいいのかわからない」といった悩みを抱えられたと思います。いくら当社が商品を発売しても、実際に「ICOF」を販売する特販店様にカーボンニュートラル燃料について理解・納得をしていただかないと、拡販も普及もできません。こうした課題を解決する必要性を感じ、CNX戦略室としては「ICOF」普及に向け外部パートナーとともに本腰を入れることを視野に入れるに至りました。
渡辺様のパソコンに貼られている「ICOF」のステッカー
「ICOF」を販売する特販店様のハードルを下げる課題を、バイウィルとともに解決
── 外部のパートナーとともに、「ICOF」および「ICOF J」の拡販・普及に取り組まれようと思われた際に、パートナーとしてバイウィルを選んでくださったのには、どんな理由があったのか教えてください。
渡辺様:J-クレジット・プロバイダーの一覧の中に記載があったことがきっかけだったと聞いています。外部パートナーの選定はバイウィルさんを含め、三社以上の候補の中から、バイウィルさんに決定しました。
その理由は、バイウィルさんからのご提案に、需要家様の目線で「ICOF」および「ICOF J」をどのように活用していくかが含まれていたからです。この「需要家様の目線」が、当社の課題認識と合致していました。また、勉強会の講師としてだけではなく、温対法への活用やGX-ETSへの報告などに「ICOF J」をどう活用できるのかアドバイスいただけた、点も大きなポイントでした。
さらにバイウィルさんは、脱炭素のコンサルティングからJ-クレジットの調達まで一気通貫で事業を行われているので、多方面での協業・共創ができるのではないかとも考えました。ピンポイントではなく、長期的なパートナーになり得る企業だという期待感がありました。
── 具体的に、バイウィルとはどのようなお取り組みをなさったのでしょうか。
渡辺様:バイウィルさんと一緒に取り組みを始めたのは「ICOF J」の販売を開始するタイミングでした。「ICOF J」はJ-クレジットを付与しておりますので、温対法に対応可能ですが、どういった点に注意して温対法の報告をするべきか、といった点に関して、不明点が生じた際にバイウィルさんに適宜アドバイスを頂きながらサポートしていただきました。
また、先ほど申し上げました通り、「ICOF」を販売してくださる特販店の皆様に「ICOF」を理解していただき、「ICOF」を販売するメリットを感じてもらう必要がありました。そこで、バイウィルさんには特販店様に向けた勉強会を2024年6月と12月の2回開催していただきました。
1度目の6月の勉強会では「『ICOF』拡販に必要なカーボンクレジットと制度の基礎知識」と題して、カーボンニュートラルやカーボンクレジットの基礎知識を、2度目の12月の勉強会ではより具体的に「『 ICOF』拡販に向けた営業アプローチ」についてお話していただきました。
2回目の勉強会は、「より具体的な内容を」とリクエストし、ターゲットになる業種の選定から、ニーズの特定、拡販アプローチのポイント、お客様の脱炭素のお取り組みのフェーズごとに必要な営業アプローチ、営業する際のストーリーラインまで、特販店様が脱炭素という複雑な付加価値がついた燃料油である「ICOF」を売るハードルを下げることにつながるような内容を依頼しました。
特販店様からの勉強会の内容に対するアンケート結果もかなり良く、これまで特販店様が抱えていた「どう売っていいかわからない」「『ICOF』を売るメリットがわかっていない」といった心理的なハードルを下げることにつながったのではと推察しています。
── 社内オペレーションを作ったり、特販店様により「ICOF」への認識を深めていただき、営業につなげたりするというのは、大変なことも多かったかと思いますが、特に苦労した点などはございますか?
渡辺様:そうですね、これまでも現在も、ずっと苦労しているのは、やはりどのように「ICOF」を販売していくかという点です。GX-ETSの第2フェーズの稼働が迫り、CO2を46%削減という目標の達成を目指す2030年まであと4年半ほどありますが、カーボンニュートラルをお客様に啓蒙して、どのようにお客様に「ICOF」を活用していただくかがとても重要です。それが今も苦労している点ですし、きっとこれからも苦労しつづけていくのだと思います。
バイウィルさんが、お客様のCO2削減の取り組みに様々なフェーズがあり、ターゲットになる業種、必要な営業アプローチなどをかみ砕いて、勉強会で説明していただいたところ、「どうしたらいいかわからない」から「これなら、できるかもしれない」「売れるかもしれない」と特販店様の意識が変わり、「ICOF」を販売することへの心理的なハードルを下げる一助になったのではと感じています。
より多くのお客様に「ICOF」を活用していただくために
(左)出光興産株式会社 販売部企画課 渡辺様 (右)バイウィル 取締役CSO 伊佐
── 今回のバイウィルとのお取り組みが、プラスの波及効果を生んだといったことはありましたか?
渡辺様:いま販売部が中心となって「ICOF」の拡販に力を入れておりますが、ほかの部署から「燃料以外にもカーボンオフセットをしよう」といった動きが出ています。実際に、私のところに「どうやったらカーボンオフセットができるのか?」と質問がきたりもしています。そういう意味でも全社をリードしている商品として、社内で「ICOF」を認知してもらえるようになったと思っています。
── 今回のバイウィルとのお取り組みを経て、今後はどのような展開・展望を描いていらっしゃるのかを教えてください。
渡辺様:現在「ICOF」は、基本的に産業用燃料として使われておりまして、例えば、工場のタンクや運送会社様の営業所の地下タンクに納品し、ご活用いただいています。その活用方法を今後はさらに広げて、当社のガソリンスタンドでも「apollostation BUSINESS」という法人専用カードにて、「ICOF」を給油できるプランを新たに実装いたしました※。これによって、より多くのお客様のCO2オフセットに貢献できると考えております。営業車などへの給油ができるようになれば、さらにお客様のスコープ1相当への対策の幅が広がりますから。それが実現すれば、より多くの企業の燃料使用に「ICOF」を活用していただけるようになります。そういった現在欠けている部分を補うような施策を打っていきたいと考えております。
一方で、出光興産としてはカーボンクレジットを付与している「ICOF」だけでなく、バイオ燃料を中心に販売していきたいという思いもあります。環境省が定めている、「あくまでカーボンクレジットは、CO2排出量削減のための取り組みをしたうえでの最終手段である」という指針にのっとって、「ICOF」の普及に努めていきたいです。そのため、まずはバイオ燃料の普及に努め、そのうえでバイオ燃料が使えない方たちのために「ICOF」を使っていただくというスキームをさらに強化していきます。
当社としては、前述のとおり、スコープ3がスコープ1、2の約10倍ある石油元売りとして、バイオ燃料も「ICOF」も組み合わせて、お客様にとって最適なCO2排出量削減のソリューションを提供していくことが重要だと考えております。需要家様には、より野心的なCO2排出量削減への取り組みをしていただき、「ICOF」や「IRD」等がその一助になればと思っております。
※【参考URL】法人会員向けに全国のサービスステーションで「ICOF」の販売を開始
https://www.idemitsu.com/jp/news/2025/250512.pdf
───本日はありがとうございました。
(掲載されている所属、役職およびインタビュー内容などは取材当時のものです)