日本において、カーボンニュートラルに向けた取り組みを促進させる制度として「J-クレジット制度」というものがあります。

最近耳にする機会が増えてきたものの、どのような制度なのかをイメージをするのが難しいという方も少なくないのではないでしょうか。

本ブログでは、「J-クレジット制度とはどのような制度なのか?」「どのような企業・団体が利用するものなのか?」といった疑問にお答えします。

◾️目次

1.J-クレジット制度とは「温室効果ガスの削減・吸収量を取引する制度」
2. J-クレジット制度を利用する理由(創出者・購入者それぞれについて解説)
3.J-クレジット制度の活用で、多くの関係者を巻き込んだ脱炭素活動を推進

1.J-クレジット制度とは「温室効果ガスの削減・吸収量を取引する制度」

J-クレジット制度とは、日本で行われた温室効果ガスの削減・吸収活動による削減量・吸収量を「クレジット」として販売・購入できる制度です。
※温室効果ガスとは:地表面から放射された熱(赤外線)を吸収する性質を持つガスのことで、二酸化炭素・メタン・フロンなどがこれにあたります。

では、そもそも温室効果ガスの削減量・吸収量を購入するとはどのようなことなのでしょうか?
まず、「J-クレジット制度」の前提となる考え方である「カーボンオフセット」について簡単にご説明します。

 

【カーボンオフセット/カーボンクレジットとは?】

カーボンニュートラルを目指す中で、多くの企業・団体が温室効果ガスの排出量の削減に取り組んでいますが、どうしても自社の取り組みだけでは削減しきれない部分があります。

そうした状況でもカーボンニュートラルを目指す手段として、他者が行った削減・吸収活動に投資することなどにより、排出量を埋め合わせる「カーボンオフセット」という方法があります。

※詳しくは前回のブログを参照ください↓
【カーボンニュートラルとは?】カーボンオフセット・カーボンクレジットと併せて分かりやすく解説します!

この「カーボンオフセット」を行うために、「他者が取り組んだ活動による削減量・吸収量を購入したい企業・団体」と「実際に削減・吸収活動を行っている企業・団体」の間で、温室効果ガスの削減量・吸収量の売買が行われています。

こういった仕組みにおいて取引される削減量・吸収量は、総称して「カーボンクレジット」と言われており、世界には様々なカーボンクレジットの取引制度が存在しています。

 

【日本で国が運営するカーボンクレジットの取引制度=J-クレジット制度】

そして、日本におけるカーボンクレジットの取引制度の1種として、国によって運営されているものが「J-クレジット制度」です。

J-クレジット制度は、2013年度から環境省・経済産業省・農林水産省が運営しており、日本における脱炭素推進を目的に導入されています。

J-クレジット制度では、対象となる取り組みによる削減量・吸収量に関する報告書を作成し、その報告内容がJ-クレジット制度事務局が設置している「認証委員会」で認証されることによって、売買可能な「クレジット」となります。

そして、このように創出されたクレジットを活用するためには、購入後、それ以降クレジットを移転(転売)できないようにする「無効化」という手続きを行います。

 J-クレジット制度では、その前身となった制度も含めて、開始から20241月までの間に約1,150t-CO2のクレジットが認証されており、そのうち、約644 t-CO2のクレジットが各種報告などのために活用(無効化・償却※)されています。
※償却とは、J-クレジットの前身となる制度「国内クレジット制度」において、クレジットをそれ以降移転できない状態にすることを指します。

・参考:J-クレジット制度事務局,20241,J-クレジット制度について(データ集)」
https://japancredit.go.jp/data/pdf/credit_002.pdf

2. J-クレジット制度を利用する理由(創出者・購入者について解説)

ここまで「J-クレジット制度」の概要を説明しましたが、具体的には、どのような企業・団体がこの制度を利用しているのでしょうか? J-クレジット」の創出者・購入者それぞれについてご説明します。

 

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【J-クレジットの創出者はどのような人・企業・団体か?】

 まず、J-クレジットの創出者としては、下記のような人・企業・団体が考えられます。

①自らの取り組みによる削減量・吸収量をクレジット化することで、クレジット売却による経済的な利益を得たい

J-クレジット制度上では、クレジット化できる削減・吸収活動として70の方法(20244月現在)が定められており、それに当てはまる活動をしている人・団体は、クレジットを創出・販売して、売却益を得ることができます。

J-クレジット化できる活動の例としては、LEDなどの省エネ照明設備の導入や、再生可能エネルギーへの切り替え・適切な森林管理などがあります。

クレジットの売却益を得ることによって、設備の設置費用など、削減・吸収活動にかかった費用を回収したり、さらなる脱炭素アクションを行うための費用として活用したりしたいという企業がクレジット創出を行うケースは多くあります。

 

②脱炭素活動を行う企業・団体としてPRしたい

排出削減活動・吸収活動をJ-クレジット制度に登録することによって、温暖化対策に積極的な企業、団体としてPRすることができます。 

近年、企業がカーボンクレジットを購入・活用する際には、そのクレジットが「どこで・どのように作られたのか」を公表するケースが増えています。

例えば、LINEヤフー株式会社が10年間のJ-クレジット購入を決めたニュースでは、クレジットの創出者である「田島山業株式会社」が、未来へ地球環境を紡いでいくパートナーとして取り上げられていました。

このようにクレジットを創出・売却することは、脱炭素活動を行っている企業として、多くの人からの認知を得るきっかけにもなると考えられます 。

 

③社員の脱炭素に取り組む意識の向上につなげたい

企業・団体が脱炭素の取り組みを進めていくためには、従業員からの理解・協力が欠かせません。

とはいえ、省エネ・再エネなどの取り組みは、その効果を実感しにくく、なかなか従業員が意欲的に取り組む状況になりにくいということも少なくありません。

J-クレジット制度に参加することで、その取り組みの成果として、温室効果ガスの削減量・吸収量が具体的な数値として示されるため、従業員の意欲向上や意識改革の効果も期待できます。

 

【J-クレジットの購入者はどのような企業・団体か?】

そして、J-クレジットの購入者としては、下記のような企業・団体が考えられます。

①カーボンニュートラルに向けて設定した目標を達成したい

購入したJ-クレジットは、温対法・省エネ法などによって定められている温室効果ガスの排出量やエネルギーの使用状況の報告、気候変動対策についての情報開示・評価の国際的イニシアティブ(CDPRE100SBT等)への報告に活用することができます。

近年は、投資家・消費者などの様々なステークホルダーが、「企業がどれほど環境問題への取り組みを行っているか」ということに関心を寄せるようになってきています。

そのため、カーボンニュートラルに向けた目標を設定する企業は多くなっていますが、どうしても自社で行っている活動だけでは削減しきれない温室効果ガス排出量があるというケースは少なくありません。

そういった場合には、自社の取り組みだけでなく、J-クレジットも併せて活用することで確実に目標を達成することを目指すという企業も多く存在します。

 

②製品・サービスの差別化を図りたい

最近は、「環境に配慮しているか」という観点で利用する製品・サービスを選ぶという人も増えてきています。

多くの企業が脱炭素目標を掲げるようになった今、BtoBの事業では特にこのような観点が重視されるようになってきているといえるでしょう。

製品やサービスの製造・供給・利用などにおける温室効果ガスの排出量を、カーボンクレジットを使ってオフセットすることで、「温室効果ガス排出量実質ゼロである」「環境に配慮している」という付加価値が生まれ、製品・サービスの差別化を図るということが可能です。

例えば、エプソン販売株式会社は、2022年に、乾式オフィス製紙機「PaperLab」のライフサイクル全体のCO2排出量をJ-クレジットによってオフセットする仕組みを導入しました。

これにより、顧客企業が「PaperLab」で作成した再生紙は「カーボンゼロペーパー」ということになり、顧客企業が環境貢献の取り組みとして社外に訴求できるようになるとのことです。

 

③脱炭素に貢献するとともに、自社のバリューチェーン内の企業を支援し、自社事業の持続可能性を高めたい

「J-クレジットを購入すること」を、「社外で脱炭素活動に取り組む企業・団体を支援すること」と捉え、取引先や自社事業に関連する分野で創出されたJ-クレジットを購入するケースも存在します。

J-クレジットを購入することで、実質的には、吸収・削減活動に取り組んでいるJ-クレジット創出者に経済的な支援ができることになります。

「自社事業が属する業界全体で脱炭素を目指すために、自社内での取り組みを行うだけでなく、バリューチェーン内の企業も脱炭素活動に巻き込みたい」という場合や、「脱炭素貢献活動を行うとともに、自社事業の安定性を保つために、バリューチェーン内の企業へ支援を行いたい」という場合にもJ-クレジット制度を活用することが考えられます。

例えば、2023年に明治グループが味の素株式会社とともに開始した「J-クレジット制度を利用したビジネスモデル」では、味の素の乳牛用アミノ酸リジン製剤「AjiPro®-L」を用いることによる一酸化炭素(N2O)の削減量でJ-クレジットを創出し、そのクレジットを明治グループが購入し、購入した代金を飼料を使用した酪農家へ支払うという形式がとられています。

この取り組みによって、明治グループは自社の温室効果ガス排出量をオフセットするということだけではなく、酪農業界全体の温室効果ガス排出量削減に寄与すること、また、クレジットの購入を通じて酪農家の支援(収益化)を行うことで、将来的な乳原料の安定調達を図ることを目指しているとのことです。

3. J-クレジット制度で、多くの関係者を巻き込んだ脱炭素活動を推進

J-クレジット制度を利用することによって、クレジットの創出者は更なる脱炭素に向けた取り組みを行うための投資が可能になり、モチベーションも向上するということが考えられます。

また、J-クレジットの購入者は、自社事業による温室効果ガスの排出量の削減に取り組めるというだけでなく、削減・吸収活動に取り組む人・団体を経済的に支援することもできます。

J-クレジット制度をはじめとした、カーボンクレジットの取引制度が活発に活用されることによって、大手企業に限らず、中堅中小企業や個人まで、より多くの関係者を巻き込んだ脱炭素活動が推進されることが期待されます。

 

バイウィルでは、J-クレジットの創出・売買のご支援や脱炭素コンサルティング、環境価値ブランディングなどを行っております。
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