様々な会社様をご支援させていただく中で、経営幹部や人事・広報・経営企画などの担当者様が「理念浸透」の重要性を認識されていると感じます。またリモートワークの導入等により社員間のコミュニケーションが希薄になりつつある中で、社員の行動規範または求心力として理念体系の重要性が増しています。しかし、実際にしっかりと理念体系が浸透している会社様はそれほど多くないのではないでしょうか。「理念浸透」を実現するためには、「浸透プロセスでつまづきがちなポイントはどこにあるのか」と「それを乗り越えるために意識すべきこと」の両方を理解することが必要です。早速見ていきましょう。

ここでいう理念体系とは何のことか?

会社としての存在意義や目指す方向性を、よく「企業理念」「経営理念」といった言葉で表現します。それらに加え、本記事では便宜上『ミッション』や『ビジョン』といった概念や、『バリュー』や『クレド』、『行動指針』、『行動規範』といった具体的な指針も含めて理念体系だと定義します。直近では、『ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)』といった形でまとめられることも多い印象はありますが、要は員に浸透を促すべき概念はすべて含むと捉えていただければと思います。

理念体系の浸透が難しいのはなぜか?

「理念体系が社員に浸透した」すなわち「理念体系が社員の行動に反映されている」状態を実現するには、いくつかの乗り越えるべき壁があります。重要なことは、自分の会社は「どの段階でつまづいているのか」をきちんと把握することです。

前提として、この記事を読んでくださっている皆様のような、理念体系を浸透させる側が持つべきマインドとしてお伝えしたいことがあります。それは、理念体系を「作って終わり」という考え方では、浸透は進まないということです。忙しくて手が回らない、また社内の理解を得づらく浸透施策を打ち続けるのが大変だというお声は実際よくお聞きします。しかし「理念体系は浸透のための施策を打って初めて、社内への浸透が進む」というマインドをぜひ持ってみてはいかがでしょうか。

その上で理念体系を浸透させるために乗り越えるべき壁は以下の3つです。

  1. 理念体系の存在を知らない、内容を理解していない

  2. 理念体系に共感していない、体現したいと思わない

  3. 理念体系を行動に移せていない

では、それぞれについて簡単に解説します。

1. 理念体系の存在を知らない、内容を理解していない

まず、そもそも理念体系の存在を知らない社員が一定数いることに注意が必要です。例えば入社時のインプットが不十分だったり、部署によって理念体系とのかかわりが薄いと、理念体系を知らない社員が出てきやすくなります。また理念体系の数が多かったり、それらの関係性が複雑だと、理念体系が知られていないということはよく起こります。これらを防ぐために、単純に「理念体系と接触する機会を持たせられているか」は第一にチェックするべきでしょう。

また、「存在を知っていること」と「内容を理解していること」は大きく異なります。理念体系について、ただ伝達しただけでは内容の理解が進むことはありません。一方通行の伝達だけでは不十分で、社員が自社の理念体系のことを自分事として考える機会を作ることが重要なポイントになります。

2. 理念体系に共感していない、体現したいと思わない

「社員が理念体系を行動に移している」状態を実現するためには、理念体系の内容を理解しているだけでは足りません。そのメッセージに共感していたり、理念を心から達成したいと思えていることも重要なポイントです。理念体系の情緒的な意味合いや、創業時に込められた想いは社員にきちんと伝わっているでしょうか。理念体系の共感できるポイントを社員に情緒的に訴求し、やりたい!という意思を持たせることが重要です。

3. 理念体系を行動に移せていない

理念体系は本来抽象度の高い概念として定義されるべきものですが、社員にとっては「具体的な行動でいうと何をすることか」といったイメージが湧きづらいものです。起こりがちな例としては、「新しいことにチャレンジする」といった行動指針を策定したときに、総務や経理など決められたことを正確に実行することが主な役割だという社員からすると、「自分たちの業務でいうと何?」とイメージが湧きにくいパターンです。どんな会社様でも、部署によって業務特性が異なるはずです。その場合、部署ごとに具体的な行動イメージを共有することが必要になります。「どんな行動を取ればいいのか」のイメージを具体的に湧かせることにより、「自分でもやれそう」「やってみようかな」と認識してもらうことが重要です。

理念を浸透させ、社員の行動に定着させるまでの4STEP

それでは以上を踏まえて、理念体系を社員の行動として定着させるためのSTEPを以下の4つに分けて解説します。理念浸透の全体像を俯瞰しながら、「理念体系を浸透させるために乗り越えるべき3つの壁」を踏まえて、自社はどのSTEPに注力すべきなのかをぜひ考えてみてください。

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STEP1.認知・理解

STEP1のゴールは、社員が「理念体系を知っており、かつ内容を理解している」状態です。ここでのポイントは、全社としての本気度を伝達し、多頻度で接触することです。この時点では、社員は理念に対して関心を抱いていないといえます。日常業務における意思決定の基準もあくまで自身の価値観に基づいており、会社の理念体系に沿って考え、行動しているわけではありません。この段階では、理念体系を知ってもらう活動から始めるべきです。浸透施策例は、社内イベントの開催、ポスターやカード、社内報などの各種ツールへの落とし込み、またイントラへの掲載やトップメッセージなど定期的なメッセージ発信になります。

STEP2.共感

STEP2のゴールは、社員が「理念体系に対して共感している」状態です。この段階においては、社員は機会があれば理念体系(特に行動指針)を意識して、行動しようという意思を持つようになります。ここでのポイントは理念の重要性と魅力を訴求することです。浸透の施策例は、行動指針ムービーの開発や、表彰制度の運用です。どちらも社員の心を動かす情緒的なアプローチといえます。

STEP3.実践

STEP3のゴールは、社員が「理念体系の内容を日常業務の中で意識しており、行動にまで反映できている」状態です。ここでのポイントはアクションプランの明確化と実践度の見える化です。STEP2までの段階で、理念体系を行動に移したいと考えている社員もいます。それが行動に移したいという意志で留まらないよう、STEP3ではアクションを明確にすることで実際に行動に移すときのハードルを下げます。また「どれくらい行動に移せているか」を定量的にフィードバックすることで、行動しなければという危機感を醸成することもポイントです。浸透の施策例は、職場分科会の実践や理念浸透サーベイの開発・運用、理念浸透研修の実施などです。

STEP4.定着化

STEP4のゴールは「理念体系に基づいた行動が当たり前になっており、意識すらしない」状態です。この段階に至ると、理念体系が企業風土として根付いているといえるでしょう。ここでのポイントは仕組み化すること及び継続的に施策を実践することです。浸透の施策例は、採用基準への反映と評価制度の改定です。

 


以上見てきたように、理念体系に基づいた社員の望ましい行動を引き出していくためのポイントは以下の2点です。

  • 理念体系の浸透がどの段階でつまづいているのかを把握する
  • 理念浸透の4STEPの中で注力すべきことをきちんと見定めた上で実行する

ぜひ皆様の会社でも理念体系を社員により浸透させることで、社員11人の思考や行動、また組織風土全体の変革を促し、企業の成長に結びつけていきましょう。少しでも皆様の業務に活きる内容になっていれば幸いです。

 

弊社では、理念体系の浸透に関わるご支援に多く携わってきました。新型コロナウイルス感染症の広がりを受け、新行動指針の共有ワークショップをオンラインにて開催した東亜建設工業株式会社様へのインタビュー記事はこちらをご覧ください。オンラインによる全社規模のイベントは初めてだったとのことですが、約1,600名もの社員を巻き込み全12回を数える共有ミーティングはどのようにして実施されたのか?ぜひご覧ください。

また理念浸透に関する個社に合わせたディスカッションや事例のご紹介等も承っておりますので、ご興味ある方はぜひこちらのお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。