土砂流出などの防災機能や水の貯蔵機能など、地域にとって重要な役割を担っている森林。一方で「お金にならない」「負の資産」と言われ、所有する森林を手放す、いわゆる「山離れ」が問題となっています。

岐阜県下呂市にて、その面積の9割以上を占める広大な森林を管理する南ひだ森林組合でも同じ問題を抱えていました。そこで同組合では、森林が持つ「CO2吸収源」としての環境価値に着目。所有者の皆さまへの新たな還元と、持続可能な森林経営を目指し森林J-クレジットの創出を決意されました。

森林J-クレジットの創出を通じて森林の新たな価値を創造し、地域と林業の未来を拓く/南ひだ森林組合さま

その後、南ひだ森林組合から創出されたJ-クレジットが、岐阜信用金庫と連携した地元企業が購入し、その収益の一部が森林へ還元されるという、日本でみても大変ユニークな「環境価値の地産地消」の枠組みが構築されることになります。

今回は、この南ひだ森林組合から創出されたJ-クレジット購入企業第1号となっていただいた株式会社マテリアル東海より松下社長・丁専務、株式会社マルエイより澤田社長、この2社にJ-クレジットを紹介した岐阜信用金庫より高木部長にお集まりいただき、座談会を開催しました。なお、当座談会のファシリテーターには、J-クレジット創出サポートから2社への仲介までを担当した株式会社バイウィルより、代表取締役社長の下村雄一郎が務めました。

001座談会の模様。右より株式会社マルエイ澤田社長、株式会社マテリアル東海松下社長、同丁専務、岐阜信用金庫より高木部長。(手前後姿はバイウィル下村)

目次

プロジェクトの軌跡:森林で見出された環境価値が経済価値となって還元されるまで

バイウィル下村:本日は座談会にお集まりいただき、誠にありがとうございます。株式会社バイウィルの下村でございます。

本日は、南ひだ森林組合様より創出されたJ-クレジットをご購入いただいた株式会社マテリアル東海様、株式会社マルエイ様、そして両社をご紹介いただいた岐阜信用金庫様をお迎えしております。サステナビリティや脱炭素への取り組み、また購入に至った経緯などについて詳しく伺えればと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、皆様からお話を伺う前に、まずは本プロジェクトの背景について私と岐阜信用金庫高木部長から説明させていただければと思います。

すべての始まりは、2023年7月に岐阜信用金庫様と弊社バイウィルとの間で締結した、J-クレジットに関するビジネスマッチング契約でした。

岐阜信用金庫と、岐阜県・愛知県の脱炭素・カーボンニュートラルの実現に向け、顧客紹介契約を締結

岐阜信用金庫高木部長:私ども岐阜信用金庫は金融機関の中では、比較的早い段階から脱炭素支援の取り組みを始めておりました。当時はまだJ-クレジットの創出にまでは至っていなかったのですが、たまたま県庁の方からご相談をいただきました。「岐阜県には森林面積が全国2位という豊かな資源がある。これを活用した脱炭素の取り組みができないか」というお話をいただいたことが、きっかけです。 

002

岐阜信用金庫高木部長(右)とバイウィル下村(左)

バイウィル下村:こうした経緯の中で、南ひだ森林組合様をご紹介いただく機会を頂戴し、J-クレジット創出の意義について説明させていただきました。最終的には「やらない理由はないね」と深くご理解いただき、ご契約に至ったのが2024年8月のことです。

下呂温泉の自然環境を守る、南ひだ森林組合と岐阜信用金庫、バイウィルが、J-クレジットを活用したカーボンニュートラルに関する連携協定を締結

森林由来のカーボンクレジットは、創出までに通常1年ほどの時間を要します。その工程は、まず「対象の森林がどれほどのCO2吸収能力を持つか」という計画値を登録するプロセスと、その後「計画通りに吸収されているか」を実証・確認する認証のプロセスに分かれています。これらの段階を経て、ようやく国から正式に認証される仕組みです。当プロジェクトにおいては、2025年11月にこの認証をいただきました。

地域資源を価値に変え、未来へつなぐ——需要家が描く脱炭素のビジョン

【マテリアル東海】「いま、ここにある資源」のリサイクルから、自社での森林保有・保全へ

バイウィル下村:それでは本題に入らせていただきます。貴社で現在取り組まれている脱炭素や環境保護に関する取り組みについて、詳しくお伺いできればと存じます。まずは株式会社マテリアル東海様より、お聞かせいただけますでしょうか。

マテリアル東海松下社長:私たちは産業廃棄物処理、すなわち環境事業に携わる企業として、創業当時から「埋め立て」ではなく「リサイクル」を推進してまいりました。具体的には、プラスチックの再資源化や、焼却時の熱エネルギーを再利用するサーマルリサイクルなど、資源を循環させる取り組みに注力しています。

m-tokai株式会社マテリアル東海Webサイト

マテリアル東海松下社長:サーマルリサイクルにおいて、弊社では廃プラスチック類をセメント製造の「仮焼炉」や「焼成炉」の代替燃料として活用しています。しかし、この廃プラスチックを焼却して熱回収を行う過程では、どうしてもCO2が発生してしまいます。環境事業に携わる身として、このCO2排出は避けて通れない大きな課題でした。そこで「CO2削減のために、自分たちにできることはないか」と考え、自社で森林を保有するに至りました。

昨今の集中豪雨による土砂流出や倒木、それに伴う土砂災害などが、本社を構える岐阜県下呂市でも起こっています。下呂という山林の多い地域で暮らす一住民としても、山を守っていかなければならないという強い危機感を持っています。今後は、保有した森林の保全活動に会社を挙げて取り組んでいく予定です。

バイウィル下村:自社で森林を保有されるほど高い意識をお持ちの中で、今回、さらにJ-クレジットの購入に至ったのには、どのような背景があったのでしょうか?

マテリアル東海丁専務:弊社はリサイクルの観点から、地域産業の発展に寄与してまいりました。例えば、廃棄物から腐葉土を製造し、地元の野菜作りに役立てる取り組みなどがその一環です。こうした事業を通じて、私たちは「今ここにある資源」から新しい価値を生み出す重要性を実感してきました。そんな折、岐阜信用金庫様よりご紹介いただいたのがJ-クレジットです。森林という「既存の資源」から価値を創出する仕組みは、まさに私たちが抱いてきた課題意識と深く合致するものでした。

003

株式会社マテリアル東海松下社長(右)と丁専務(左)

バイウィル下村:「いま、ここにある資源から価値を生み出す」という言葉、まさにJ-クレジットの本質を突いた素晴らしい視点ですね。リサイクルから地域産業の発展に繋げていらっしゃるマテリアル東海様だからこその重みを感じます。

【マルエイ】エネルギー供給の最前線から:現場で感じた「森林整備」の必要性とガス業界の脱炭素化

バイウィル下村:続いてマルエイ様いかがでしょうか?

マルエイ澤田社長:弊社は東海地区を中心にLPガスや太陽光、バイオマス発電といったエネルギー事業を展開しています。これら取り組みを通じて、環境保全や脱炭素に取り組んできました。社会貢献活動にも注力しており、地域の植林活動や清掃活動などにくわえて、カンボジアでの井戸の掘削や図書館の建設、バリ島での植樹など、グローバル規模で取り組んでいます。 

maruei-gas

株式会社マルエイWebサイト

マルエイ澤田社長:特にバイオマス事業の関係で、岐阜県内の森林に足を運ぶ機会が多いのですが、そのなかで整備が整っていない状況を目の当たりにし、「森林整備の必要性」を感じていました。そうした現場での危機感を持っていたタイミングで、岐阜信用金庫様からJ-クレジットのお話をご紹介いただいた、という背景があります。

バイウィル下村:ありがとうございます。バイオマス発電というエネルギー事業の最前線にいらっしゃるからこそ、森林整備という課題をいち早く発見され、今回のプロジェクトに繋がったのですね。

少し視点を広げて「ガス業界全体」についてもお伺いできればと思います。エネルギー供給を担う業界として、サステナビリティや脱炭素といったテーマに対し、現在はどのような大きな流れや取り組みがあるのでしょうか?

マルエイ澤田社長:そうですね、ひとつは、「カーボンニュートラルLPガス」の普及です。これは、LPガスの調達から燃焼に至るまでの過程で排出されるCO2を、カーボンクレジットでオフセット(相殺)したものです。そしてもうひとつは、元売り企業による「LPガス自体の脱炭素化」に向けた技術開発です。私たち供給を担う側の役割は、こうした業界の最先端の取り組みをいち早くキャッチし、確実にお客様のもとへ届けていくことだと考えています。

004

株式会社マルエイ澤田社長

バイウィル下村:ありがとうございます。現状のオフセットから未来のエネルギー開発まで、業界のダイナミックな動きがよく分かりました。

脱炭素を「コスト」から「投資」へ。地域企業と金融機関が描く未来の形

【マルエイ】脱炭素は事業継続の「大前提」。環境価値を地域経済の循環へ

バイウィル下村:ここで少し踏み込んだお話を伺いたいのですが、会社として脱炭素をどう捉えていらっしゃるでしょうか。本音を言えば「コストがかさむ」とか「自社だけで取り組んでも大きな変化はないのでは」という葛藤もあるのではないかと拝察します。一方で、これからは「お客様から選ばれるため」、あるいは「競合との差別化」として避けて通れない投資という側面もありますよね。そのあたりのバランス、澤田社長はどうお考えですか?

マルエイ澤田社長:エネルギー供給を主業とする私たちにとって、最も大切なのは「経済が永続的に発展し続けること」です。その経済発展の絶対条件は、豊かな自然や環境が守られていることです。環境が崩壊してしまえば、私たちの事業も成り立ちません。ですから、脱炭素は「コスト」という近視眼的な話ではなく、事業を継続するための「大前提」だと認識しています。

幸いなことに、最近では「脱炭素」という付加価値を認めてくださり、それに対価を払ってくださるお客様も着実に増えています。私たちがこうした商品を提供し続け、その価値を伝えていくことで、脱炭素の輪を地域に広げていく。これこそが、今の私たちの重要な役割だと考えています。

バイウィル下村:澤田社長のおっしゃる「脱炭素の輪を地域に広げていく」ことこそ、森林にある環境価値(J-クレジット)を経済価値に変え、地域内で循環させ広げていくことそのものですね。単なる削減活動に留まらず、地域の価値を循環させていくという点に大きな意義を感じます。

【マテリアル東海】「率先垂範」の覚悟と、故郷の自然を守る原体験

バイウィル下村:それでは、同じ問いをマテリアル東海様にもさせていただきます。会社として、脱炭素というテーマをどのように捉え、向き合っていらっしゃいますか?

マテリアル東海松下社長:私たちは産業廃棄物処理という、環境事業の最前線に携わる者です。だからこそ、こうした脱炭素の取り組みには、誰よりも率先して取り組まなければならないと考えています。

私たちがまずは形にしてみせる。そして、その活動を周囲の方々に見ていただくことで、「自分たちもやってみよう」という共感の輪が自然に広がっていってくれたら、これほど嬉しいことはありません。

マテリアル東海丁専務:松下が申しました「事業としての姿勢」がハード面だとすれば、私は「想い」というソフト面からお話させてください。

私は、この岐阜市よりもずっと人口の少ない下呂市という場所で生まれ育ちました。近年、環境の変化は目に見えて進んでいます。私たちが子供の頃に泳げた川が泳げなくなったり、水量が減ったり……。その原因を辿っていくと、やはり森林と非常に深い結びつきがあることが分かってきました。

地元でチャレンジできる立場にいる人間として、これは使命ではないかと感じています。もちろんビジネスとしての側面もありますが、それ以上に「地域を守りたい」という気持ちが根底にあります。弊社の会長がずっと地域と共に歩んできた姿を見て育ちましたから、私たちにとって地域貢献と事業は、切り離せない関係なんです。

バイウィル下村:ありがとうございます。松下社長がおっしゃった「まずは自分たちが率先して動く」という覚悟、そして丁専務がお話しされた「故郷の自然を守りたい」という切実な想い。ハードとソフトの両面から、地域を想う強い志がひしひしと伝わってきました。

【岐阜信用金庫】企業価値を高める「8つのステップ」。伴走支援で脱炭素の壁を取り払う

バイウィル下村:そうした企業の皆様の熱い動力を、地域全体の大きなうねりに変えていくのが金融機関の役割かと思います。ここで岐阜信用金庫様にお伺いします。地域の伴走者として、脱炭素などのサステナビリティ推進をどのように位置づけ、今後どのような構想を描いていらっしゃるのでしょうか。

岐阜信用金庫高木部長:下村社長がおっしゃる通り、脱炭素の取り組みを「単なるコスト」と捉えるお客様はまだ多くいらっしゃいます。私たちは「確かにキャッシュは発生しますが、これは企業価値を高めるための有効な手段の一つですよ」とお伝えしています。例えば、これを環境貢献としての広告宣伝費と見れば、非常に価値のある投資(低コストな施策)と捉えられるのではないでしょうか。そうお話しすることで、納得感を持っていただけるケースが増えてきています。

バイウィル下村:「コスト」を「未来への投資」や「ブランド構築」として定義し直すわけですね。経営者の皆様にとっても、非常に前向きになれる視点だと思います。

岐阜信用金庫高木部長こうした変化の中で、私たちは脱炭素への取り組みを「8つのステップ」に整理して支援しています。

  • Step1:脱炭素化の必要性の啓蒙・教育

  • Step2:現状のCO2排出状況の見える化

  • Step3:削減目標設定(原則、SBT認証取得)

  • Step4:削減アクションプランの見える化

  • Step5:設備導入に関する環境補助金活用支援

  • Step6:SLLによる企業PR(ブランド化)支援

  • Step7:再生可能エネルギーでの自家発電導入

  • Step8:J-クレジット等による排出削減の支援

まずは現状を知り、認識を変えていただく段階から始まり、「見える化」として自社のCO2排出量を算定します。排出量が測定できて初めて、具体的な削減策を練ることができるからです。

バイウィル下村:非常に網羅的ですね。単なるアドバイスに留まらず、Step5以降のように「実行」の部分まで具体的に落とし込まれているのが、岐阜信用金庫様の強みだと感じます。

岐阜信用金庫高木部長おっしゃる通りです。「じゃあどうやって減らしましょうか」となった際、省エネがそのまま脱炭素に直結する側面もあります。「初期投資はかかっても、中長期的にランニングコストを大幅に抑えられるのであれば取り組めませんか」と提案し、「まずはできることから始めましょう」という具体的な解決策(ソリューション)を提示しています。

この8段階の最終ゴールはカーボンオフセットですが、必ずしも1から8まで全てを完結させる必要はありません。自社でできる範囲から着手したり、すでに取り組んでいる途中段階からスタートしたりしても良いのです。私たちはそのプロセスに一貫して寄り添い、地域企業の皆様ができることから一歩ずつ進んでいくための「伴走支援」を、これからも続けてまいりたいと考えています。

バイウィル下村:「全部完璧にやらなくてもいい、できることから伴走する」という高木部長のお言葉は、脱炭素という高いハードルを前に悩まれている多くの経営者にとって、非常に心強いメッセージですね。

J-クレジットがつなぐ「地域の未来」と「企業の役割」

【マルエイ】8年の長期契約に込めた、地元のエネルギー企業としての使命

バイウィル下村:ここで改めて伺いたいのですが、今回のクレジット購入は自社の中でどのように位置づけ、今後どのように事業へ活かしていこうとお考えでしょうか。

マルエイ澤田社長:そうですね。位置づけについては、私たちはこの仕組みを通じて生まれる収益が、南ひだ森林組合様を通じて、長期的に森林整備や環境保全に活用されることを何よりの意義だと感じています。

山風景

南ひだ森林組合様が管理している森林(南ひだ森林組合様事例記事より

今回、私たちは8年という長期契約を結ばせていただきました。単発の取り組みではなく、腰を据えて継続的に支援することで、岐阜の未来や次世代のために豊かな森林環境を繋いでいく。その一助になれることが、地元のエネルギー企業としての私たちの役割だと定義しています。

「活用方法」については、大きく二つあります。一つは、自社事業から排出されるCO2のオフセット(相殺)です。まずは自らが責任を持つという姿勢を示したいと考えています。

もう一つは、お客様へのサービスに対する付加価値の向上です。先ほどお話しした「カーボンニュートラルLPガス」のように「環境に貢献できるもの」をお客様へ積極的に提案していきたく考えています。

【マテリアル東海】「未知」を「価値」に変える、攻めの姿勢

バイウィル下村:続いてマテリアル東海さん、いかがでしょうか?

マテリアル東海松下社長:弊社といたしましても、自社事業で排出するCO2のオフセット(相殺)を通じて、この取り組みを社内外に広く発信していきたいと考えています。

こうした活動を通じて、J-クレジットという仕組みそのものを社会に広く浸透させていくことが、私たちの役割だと考えております。

マテリアル東海丁専務:実は取り組みを始めて驚いたのが、想像以上に『まだ誰も知らない』という現状でした。弊社の営業マンがお客様に伺っても、まずは仕組みの説明からという段階です。

しかし、このプロセスこそが重要だと感じています。驚いたことに、同業である環境事業者の中ですら「やり方がわからない」と困っているケースがありました。そうした方々に丁寧にお伝えしていくと、「ぜひ協力したい」「詳しく聞かせてくれ」と、具体的な取引に結びつく手応えを感じています。

【岐阜信用金庫】「物語」への共感が市場を動かす、新たなスタンダードへ

バイウィル下村:これらマルエイ様やマテリアル東海様の動きを、さらに大きな「面」へと広げていくためには、地域に根ざした強力なネットワークが不可欠です。そこで、県内全域に広範なネットワークをお持ちの岐阜信用金庫様。今回のスキームを他の組合や地域へ波及させていく展望について、ぜひお聞かせいただけますでしょうか。

岐阜信用金庫高木部長:弊社では、3年平均10万トン以上のCO2を排出する事業者の皆様を中心に、導入のご提案を進めてまいりました。興味深いのは、ご購入いただいた企業様が必ずしも改正GX法上のオフセットの義務があるわけではないという点です。

いちど購入されたことのある企業様からは、「同業他社からも高く評価され、企業価値やPR効果の向上を実感した。だからこそ継続して購入したい」という力強いお声をいただきました。

一方で、削減義務のある事業者様は、より安価な「非化石証書」などと比較検討されるケースが少なくありません。しかし、私たちは「J-クレジットに支払うコストは、単なる相殺費用ではなく、地元の森林整備や災害防止、補水能力の向上への直接的な投資である」とお伝えしています。

この「地域への貢献度」という付加価値には多くの共感をいただいております。市場形成はまだ道半ばではありますが、今回の完売という実績を足がかりに、さらに大きな動きへと繋げていきたいと考えています。

バイウィル下村:私たちが日々接していても、単に「1トンのCO2削減という数値」だけを買いに来るお客様はあまりいらっしゃいません。そこには多くの付加価値が載っているからと理解しています。

脱炭素としての価値はもちろん、地域を守る、流域を自然災害から守る、さらには生物多様性を育むといった、豊かな「ストーリー」が詰まっています。現状の市場では、これらすべての価値を総称して「1トン」と呼んでいますが、私たちはその背景にある物語をしっかりお伝えする「啓蒙型の営業」を大切にしています。

この森林由来のクレジットや、あるいは海を育むブルーカーボンなどは、物語性が非常に高い。最近では金融機関でも、地域貢献を目的とした私募債や預金などの商品が増えており、「地域のために」という想いが具体的な形になり始めています。

循環する資金が描く、次世代への「持続可能な森林」のビジョン

【マルエイ】「インフラ」への投資が、林業を素晴らしい事業に変える

バイウィル下村:さて、最後になりますが、今回のJ-クレジットを通じて、資金は一旦「南ひだ」の地へと還っていきます。この資金が、未来に向けてどのような取り組みに繋がってほしいとお考えでしょうか。まずは、マルエイ様からお願いできますでしょうか。

マルエイ澤田社長:ありがとうございます。南ひだ森林組合様、そして地域の未来への期待ということで、少し具体的にお話しさせていただきます。

私自身、これまで10年ほどバイオマス事業に携わり、実際に何度も山へ足を運んできました。そこで痛感したのは、豊かな森林資源がありながら、それを活かすための『林道』が未整備であったり、維持管理が追いついていなかったりする現状です。

せっかくの素晴らしい資源も、道がなければ引き出せず、人がいなければ守れません。ですから、今回のJ-クレジットによる収益は、せひ林業の基礎体力を高める部分に充てていただきたいと考えています。

目先の保全活動に留まらず、インフラに投資することで、林業が長期的かつ持続可能な「素晴らしい事業」として次世代に引き継がれること。それが、地元のエネルギー企業である私たちの心からの願いです。

【岐阜信用金庫】地域金融ネットワークを駆使し、成功モデルを県内全域へ

バイウィル下村:続いて岐阜信用金庫様お願いいたします。

岐阜信用金庫高木部長:現在、岐阜県内には19の森林組合が存在しています。各組合には規模の違いや、現場を支える人手不足といった切実な課題があり、一朝一夕に同様の取り組みを広げるのは簡単ではないかもしれません。しかし、だからこそ私たち地域金融機関の出番だと考えています。

今回の成功事例をモデルケースとして、県内の他の森林組合へもこのスキームを広げていきたい。その際、私たちだけでなく、県内他地域の信用金庫とも手を取り合い、地域に根ざした金融ネットワークを駆使して、豊かな森林を次世代に繋ぐ活動を県内全域へと波及させていきたいと考えております。

【マテリアル東海】「自分事化」がファンを創り、地方の強さが「国力」を底上げする

マテリアル東海松下社長:まずはこの取り組みをより多くの方に「自分事」として知っていただくことが不可欠です。例えば、購入された企業様が実際に森を訪れ、保全活動の現場を「体験」できるような仕組みはどうでしょうか。現場の皆さんのご苦労や、森林を守ることの真の価値を肌で感じることで、森林J-クレジットの意義はより深いものになります。

そうした「自分事化」によって、購入したい方はさらに増えていくはずです。森林県である岐阜からこのモデルを確立し、全国へと波及させていくような、インパクトのある広報活動をぜひ共に進めていきたいですね。

マテリアル東海丁専務:皆様のお話を聞いていて改めて強く感じたのは、このJ-クレジットはどこか遠くで「活用される」のを待つものではなく、私たち自身が主体となって「みんなで創り上げていくもの」だということです。

「どのように活用してほしいか」ではなく、私たち自身が「どう変えていくか」。より多くの企業様に興味を持っていただけるよう、一丸となって努力し、この物語を共に進めていきたい。そんな「みんなでやっていく」未来に、強い手応えを感じています。

【総括】1トンの数値に込められた「意志」が、日本を変えるうねりとなる

バイウィル下村:日は、皆様から非常に熱く、そして本質的なお話を伺うことができました。皆様のお話を通じて、J-クレジットという1トンの数値の背景には、山を守る人の汗があり、都市の命を支える水があり、そして地域を良くしたいという皆様の意志が詰まっていることを改めて実感しました。

この物語を私たちが誇りを持って発信し、新しい価値を社会に実装していく。本日の対談が、岐阜から日本を変える大きなうねりの第一歩となるよう、私自身も皆様と共に全力で走り抜けてまいります。本日は、誠にありがとうございました。(座談会実施日:2026年2月10日火曜日) 

006

 右より、株式会社マルエイ澤田社長 、株式会社マテリアル東海松下社長、同社丁専務岐阜信用金庫高木部長、バイウィル下村