概要

2022年10月、タカラレーベンが持株会社体制に移行して誕生したMIRARTH(ミラース)ホールディングス。グループ全体で、不動産事業、エネルギー事業、アセットマネジメント事業など多岐にわたる事業を展開されています。だからこそ、グループで掲げるパーパスに対し、各会社がどのように自社事業と接続していくべきなのか、具体的に分かりづらいという課題をお持ちでした。
そこで今回、パーパスと事業を接続する「長期ビジョン」と、その達成への「指標」の策定をバイウィルがご支援させていただきました。

ご提供サービス

  • 長期ビジョン策定支援
  • パーパス浸透を目的としたWebコンテンツ「想い定期便」の企画・制作支援

直接的には事業に接続しづらいパーパス。グループ会社視点でも、経営視点でも、より事業性の高い具体的な目標が求められた。

── なぜ今回、長期ビジョンを策定しようと動かれたのですか?

荒木様:長期ビジョンの策定に至ったのは、ここにいる現在のブランディング事務局メンバーに対し、私が提案したことがきっかけだったと思っています。
2022年10月にMIRARTHホールディングスとなるタイミングで私は現在の部署に合流したのですが、それまでは東北にあるグループ会社に所属していました。
グループ会社にいた頃、グループの中期経営計画において自身の仕事や自社の事業がどの部分を担っているのか分かりづらく、リアリティを感じられないことにもどかしさを感じていました。
その後、2022年にパーパス『サステナブルな環境をデザインする力で、人と地球の未来を幸せにする。』が発表されたのですが、パーパスについても同様でした。パーパスそのものが抽象的な概念であることも相まって、具体的に何をすれば達成できるのかが分からず、”自分ごと”として考えづらかったのです。

「自分の仕事は中期経営計画の目標達成にも繋がっているし、さらにはその先にあるパーパスの実現にも繋がるのだ」という実感を持ちたい。そして、皆が同じように実感をもって業務に向き合えるよう、具体的な“指針”となるものがあれば、会社が目指す方向に沿ってそれぞれのパフォーマンスがさらに上がり、MIRARTHとしてのグループ力も高まるのではないかと考えるようになりました。

そこで、2023年の1月頃、正式に長期ビジョンを作りたいという提案をしたのが 、今回のプロジェクト発足のきっかけです。

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本プロジェクトでのご支援の全体像

 

山地様:次の中期経営計画を考えるにあたり、長期ビジョンを策定するべきだと私も考えていたので、荒木さんにはよいタイミングで提案をもらいましたね。
パーパスは企業価値の向上において重要な要素ですが、一方で、パーパスだけでは経営計画は作れません。会社が何を目指し、どういったことに注力していくのかを語りきれるものではないので、テーマにはなり得ないのです。ですので、より具体的な、次期中期経営計画の礎となる長期ビジョンを策定するという意味でも、プロジェクトには賛成でした。

また、島田社長(MIRARTHホールディングス 代表取締役)は、親会社と子会社を上下で捉えることはなく、グループの中でそれぞれが別の役割を持ち、同じ目標に向けてひとつのチームとしてやっていくのだ、という考えが強いです。そのため、長期ビジョンを作るということには、より事業性をもたせた目標によって、チームにさらなる強い軸を通すという意味もあったと思います。


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グループCRO 兼 執行役員、グループ人事戦略部長 兼 社長室長 山地様

 

高木様:広報としてもパーパスの浸透活動を積極的に行っており、パーパスが”言葉”としては伝わったように感じてはいたのですが、業務に落とし込めるまでにはまだ隔たりがあると考えていました。
そこで、経営企画×経営管理×IR×広報という、部署横断のメンバーでブランディング事務局を結成。バイウィルさんにも入っていただき、2030年に向けた長期ビジョンの策定を始めました。

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(写真左)グループ広報部長 兼 広報課 課長 高木様、(写真右)経営企画本部 グループ経営企画部 次長 荒木様

 

── グループ会社が多く、事業が多岐にわたるからこそ重要な「共通の長期ビジョン」ではありますが、その分、策定のプロセスにおいても意見を集約することは簡単ではないように思います。議論を重ねるうえで印象的だったことや、ポイントとなったことはありますか。

山地様:最終的に『地域社会のタカラであれ。』という長期ビジョンとなりましたが、言葉が決まるまでには、紆余曲折がありましたね。私たちのグループは不動産事業、エネルギー事業、アセットマネジメント事業を中心に、幅広い事業領域をもちます。そのため、それらの最大公約数的な言葉を選ぶと、どの部門にとっても具体性の低いものになりますし、一方でどこか特定の領域に絞った表現にすると、その他の部門にとっては自分ごと化できない長期ビジョンになってしまいます。そのバランスを見極めるのには苦労しました。

長期ビジョンを決めるミーティングには、各事業領域を管掌する役員の皆さんに参加してもらったのですが、我々ブランディング事務局としては、「役員の皆さんに決めていただく」ということを大切にしていました。すべての部門が納得できる言葉を作るためには、事務局が主導するのではなく、実際にその言葉を中心に据えて事業を進めていく人たちが腹落ちできるまで議論してもらうべきと考えていたのです。これは、策定のプロセスとしてはもちろん、今後の社内浸透に向けても、よい意志決定だったと思います。

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長期ビジョン策定の流れ

 

高木様:それぞれ事業領域を管掌する役員の皆さんが、責任をもつプロフェッショナルとして忌憚ない意見を出し合ってくれて、よい議論がなされたのは印象的でした。また、事務局はあまり意見を出さない形で進めていたため、バイウィルさんが客観的な立場で意見や他社事例を伝えてくださったのも、議論がスムーズに進むひとつのポイントだったと思います。

最終的に、創業時の「宝工務店」や商号変更後の「タカラレーベン」など、なじみ深い「タカラ」という響きを残せたのも、チームの想いをひとつにするための言葉として、納得感が高いと感じています。

山地様:策定のプロセスのなかで、改めて「皆でやっていこう」というムードを高められたのもよかったですね。
今回の長期ビジョンは、メッセージのメインターゲットを「社員」に設定することになりました。これも役員の皆さんによる議論で決定されたことです。初めは「お客さま」のほうを向いて議論が始まったのですが、途中から、「パーパスにもある『幸せ』は社員が作っていくべきだ」という意見に変わりました。最終的に、皆が納得できる結論になったと思います。

pvv社内向け長期ビジョン発表会資料より抜粋。パーパス、長期ビジョン、中期経営計画、そして各グループ会社のビジョン等が接続していることを明記している。

── 今回、「指標」という、長期ビジョンを事業に落とし込むため、さらに具体性を持たせた項目を設けられたのが特徴的だと思います。これにはどのようなお考えがあったのでしょうか。

鈴木様:長期ビジョンは、全グループ会社の社員が日々の業務に接続できることが重要だと考えています。そのため、どの事業においても長期ビジョンを事業戦略に落とし込めるよう、具体的な要件を4つ掲げました。
さらに、「4つの指標のうち、少なくとも必ず1つは満たしましょう」という形式を取ったことで、グループ会社単位での戦略に落とし込む際に、どの会社においても具体的に考えやすくなっていると思います。これは、事業との接続を促す仕組みとして、こだわった点です。

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IR室長 鈴木様


荒木様:目の前の仕事や事業が、中期経営計画、そしてパーパスに繋がるということを具体化したいというのがプロジェクトを提案した当初の想いでしたので、指標を設けることにはこだわりがありました。結果として、言葉、内容ともにとてもしっくりきています。
一方で、ようやくここがスタート地点です。事業との接続を実現するためにどう働きかけるか、検討も始めています。パーパスや長期ビジョンが事業の戦略や戦術に繋がるということを、私たちが信じ、そして全社に示せるよう行動していきます。

長期ビジョンの浸透施策を通して、距離が縮まりつつあるグループ会社。社外への発信も、社内浸透の大きなきっかけに。

── 長期ビジョンの策定について、社員の皆さまの反応はいかがですか?

高木様:長期ビジョンおよび指標の発表は、初回の発表にどれだけインパクトを持たせられるかが重要だと考え、会社初のグループ全社員向け生配信を行いました。内容もさることながら、生配信という試み自体にも注目してもらえて、ほぼ全員にリアルタイムで視聴してもらうことができました。
生配信では島田社長から直々に長期ビジョンに関するメッセージを伝えてもらいました。配信後のアンケートでも、「社長から直接聞けてよかった」「よく理解できた」など好意的なコメントがとても多く、社長が丁寧に説明をしてくれたことで社員の満足度が高かったことが見て取れましたね。

 

山地様:先日、グループ全体で開催した新年会でも、島田社長からの年始の挨拶で長期ビジョンについて伝えられました。この時に嬉しかったのが、グループ会社の社長による挨拶でも、皆さんがビジョンについて話してくれたことです。
かつての当社では、全社に対する何らかの発信は島田社長にしてもらえれば十分でした。ですが、ホールディングス化した私たちが今後はグループ全体で進んでいくことを考えると、同じようにいかないことは明白です。
今回、グループの社長方に長期ビジョンの策定を進めてもらったことにより、グループ全体が目指す姿について、各社社長にも島田社長と同じように話してもらえる状態を作れました。これにより、自然に多頻度接触を図れる状態を作れたのは非常によかったですし、今までとは違う流れが生まれているなと、肌で感じられましたね。

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社内の会議室や、モデルルームなどに貼られているポスター。「地域社会のタカラであれ。」の文字は、島田社長の直筆。

── そのほか、長期ビジョンの浸透に向け、取り組まれていることはありますか?

高木様:生配信の場では長期ビジョンの発表のみでしたので、そこからは「多頻度接触」を重要視し、複数の取り組みを進めています。

たとえば、社員向けに「役員コラムリレー」を開始しました。長期ビジョンの策定に携わった役員の皆さんから全社員へ、毎月順番にメッセージを送ってもらっているものです。
また、パーパスや長期ビジョンの実現に向かっている社員の姿をインタビュー形式で紹介する、「想い定期便」という企画も行っています。こちらはバイウィルさんにも走り出しをご支援いただいたものですが、社員に対し、仕事とパーパス・ビジョンの接続に向けたヒントを与えるだけでなく、私たちの仕事が“地域のタカラ”になれているということを実感してもらえるコンテンツにしたいと考えています。


想い定期便

「想い定期便」は社内イントラネットだけでなく、公式HPで一般公開もされている。

 

高木様:さらに、各グループ会社に対しては、ホールディングスの動きをより身近に感じてもらうこと、そして各社の戦略を共有することを目的とした、「コミュニケーションフォーラム」を順次開催しています。
全社員約1,400名が集う会もありますが、その規模ですと役員陣から一方的に伝えることしかできません。そのため、島田社長にグループ会社へ出向いてもらい、各社ごとの小さな単位でパーパス・長期ビジョンについて直接お話してもらうことで、同じ目標に向かうチームであることを伝えようと取り組んでいます。

 

鈴木様:規模を小さくしたことで、満足度や理解度はとても高いです。アンケートのコメントでも「直接お話することはないと思っていた島田社長とお話でき、感動しました」という内容が多く見られたり、特に若手社員はフォーラムをきっかけに「社長についていきます」という空気になってくれていたりと、よい変化が起きていますね。


questionnaireグループ会社で開催されたコミュニケーションフォーラムのアンケート

 

高木様:また、長期ビジョンのメインターゲットを社員に定めたとお伝えしましたが、社外への発信も並行して進めています。たとえば、テレビ・ラジオCMのナレーションにも「地域社会のタカラ」という言葉を入れました。また、1社提供番組の『街角パレット~未来へのたからもの~』でも、「日本の未来を元気にするMIRARTHホールディングス」と、長期ビジョンを踏まえて表現しています。

CMや番組を見て、「MIRARTHはこういうふうに地域に貢献していくのか」と社員が知り、自分も頑張ろうと思ってもらえるような環境作りは徐々にでき始めているように思います。

テレビCM 「少年の描くMIRAIの街」篇(30秒) (https://mirarth.co.jp/corporate/promotion/

 

鈴木様:長期ビジョンについて、社内と同じタイミングで社外にも発信できたのは、社内浸透に向けて非常に大きな効果があったと思います。社外に向けて大々的に発信をすると、やはりお客さまからそのお話を振っていただく機会がありますよね。そうなると、お客さまに対峙する社員たちも、会社全体の取り組みについて知っておかなければならないので、自然と社内浸透も進みます。ですので、当社では、サステナビリティなどについても同様に、社内浸透も見据えた社外発信を積極的に行っています。

── 長期ビジョンの浸透については、貴社においてもここがスタート地点だとは存じますが、「パーパスは策定したが、どう活かせばいいのか分からない」「パーパスが形骸化している」などのお悩みをもつ企業さまに、アドバイスを頂けますか。


山地様:パーパス経営が企業価値の向上に繋がるということを、本気で信じて、覚悟をもつということではないでしょうか。きつい言葉かもしれませんが、「企業の価値を高めるために、パーパスやビジョンが必要だ」と腹落ちできないのであれば、潔くやめたほうがよいと思います。
パーパスやビジョンの策定には相当な労力がかかりますし、その結果として使われない言葉を生み出すのは、社員にも不信感を与えることになりかねません。
ですので、パーパスと長期ビジョンを構想する際に、企業価値と業績の向上につながるストーリーを描けるイメージを持つことが大事だと考えます。  

 

鈴木様:必要なのは、覚悟と意志だと思います。作るだけなら誰でもできますが、それを育て、組織の隅々まで伝わるようにやり切るという、トップや事務局の覚悟がないと難しいですよね。当社の場合はトップが前向きですので問題はありませんが、もしそうでない場合には、トップに動いてもらうための仕掛けも、事務局としては重要だと思います。

 

高木様:事務局としての心がけという意味では、前に出過ぎず、一方で動いてもらうべき人に動いてもらうための働きかけを積極的に行うことのバランスが重要だと考えています。また、トップ・役員の皆さんと社員の橋渡し役として、社員それぞれが、会社の掲げる目標と重ね合わせた自らの成長を目指せる環境づくりが求められると思います。

 

荒木様:やはり、初めに「事業とパーパスを接続する言葉を作りたい」と言った私としては、自分が”ワクワク”することが大切だと思います。ワクワクして前向きに考えつつ、「これをやってみよう!」と思ったことを、着実に前に進めていくことが重要ではないでしょうか。

───”覚悟”と“ワクワク”をもち、積極的に社内に働きかけながら着実に前へと進める。参考になった企業さまも多いと思います。ありがとうございました。

 

(掲載されている所属、役職およびインタビュー内容などは取材当時のものです)