こんにちは、バイウィル広報の木村です。

今や、どのような事業をされている企業様であっても、「サステナビリティ」とは切っても切れないこの時代。自社の商品・サービスとサステナビリティをどのように接続し、行動を変え、そして伝えていくのか、悩まれている企業様も少なくはないのではないでしょうか。

今回は、自社商品とサステナビリティを接続し、「モノ」と「コト」を組み合わせて行動・発信しておられる、カシオ計算機株式会社(以下、「カシオ」)様に、その秘訣を伺いました。


2015年、カシオ様は環境テーマで3つの重要課題(マテリアリティ)を設定され、このうちのひとつである「自然との共生(生物多様性保全)」の一環として、生物多様性の主流化(※1)を促進するための教育啓発施策であるWILD MIND GO!GO!を推進されています。
その企画運営をされている、開発本部 事業イノベーションセンター SW技術開発部 部長の谷治 良高様にお話いただきました。


※1:生物多様性の主流化:生物多様性の保全とその持続可能な利用の重要性が広く認識され、さまざまな社会経済活動に反映されること
※「WILD MIND GO! GO!」についても紹介されている、カシオ様のサステナビリティレポート2022はこちらよりご覧いただけます。

「WILD MIND GO! GO!」が目指す、自然を「自分ごと」化する学びの形

── まずは、「WILD MIND GO! GO!」がどのようなサービスなのか教えてください。

谷治様:「WILD MIND GO! GO!」は、“生き物としての力を取り戻すための自然体験を集めた、体験メディア”です。アウトドアのエキスパートだけでなく、アーティスト、科学者など、さまざまなスペシャリストがオリジナルの自然体験を紹介してくれており、大人も子どもも、サイトを見ながら自分でやってみることで、身近な自然に触れられるようになっています。
また、Webサイトだけではなく、近年では専門家から直接ノウハウを学べるイベントも開催しています。

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「WILD MIND GO! GO!」Webサイト(https://gogo.wildmind.jp/

── どのような経緯で「WILD MIND GO! GO!」を立ち上げられたのですか?


谷治様:私が仕事を通じて経験してきたことが土台になっているので、経歴を振り返ってお話させてください。新卒でソフトエンジニアとしてカシオに入社し、2、3年目から参画した携帯電話事業では、初号機の立ち上げから携わりました。カメラを携帯電話に搭載したり、ムービーも撮れるようにしたりと、今となっては当たり前だと思われているような機能を追加していく際のソフト開発を担当していました。

2開発本部 事業イノベーションセンター SW技術開発部  部長 谷治 良高様

携帯電話の事業というのは元々、「通信会社の希望に合わせて携帯電話本体を作る」という仕事だったのですが、時代の流れとともに「世の中が求めているものをメーカーが考えて提案する」という自由提案が主流になります。弊社だけではなく、日本のメーカーは作るべきものが決まっている場合は得意だったのが自由提案になってからはうまく対応しきれず、代わりにiPhoneなどがどんどん勝ち上がってきました。また、コストという観点でいうと韓国や中国に追い抜かれ……と、日本メーカーはますます苦しくなり、最終的には事業撤退という結果を迎えました。2013年末のことです。
このような経験をしたのは、カシオだけではありません。携帯事業を行っていた日本のトップメーカーは、どこも同じような道を辿りました。

では、なぜ日本メーカーは撤退するまでになってしまったのか。私はすごく考えました。結論として、我々に足りなかったのは、(1)クリエイティビティ(創る力)、(2)「これかもしれない」と思ったことに対してまずは挑戦する力、そして、(3)一度の失敗にくじけずやり続ける力、いわゆるGRIT、この3つだという反省に至りました。

また、ちょうどその頃、昔に比べると自然が猛威を振るうことが増えているなと、気になっていました。“Feel the Earth”をコンセプトにした「G'zOne」という携帯電話に携わっていたこともあり、自然や環境には関心があったのですが、暑さで人が亡くなるとか、大型の台風の数が増え、被害が拡大しているとか、そのようなニュースを目にすることが増えていたのです。
3人目の子どもが生まれたばかりのタイミングだったことも影響してか、これからの未来においては「自然との共生」というテーマが大きな意味をもつのではないかと考えるようになりました。

その「自然との共生」というキーワードと、自身の経験から得た“3つの不足”という反省点を合わせて考えたときに、「自然体験」を通してどちらも一緒に培うことができるのではないかと気づきました。自然は変化が大きく、自分の力ではコントロールできない。だからこそ、非認知能力を磨く場として、もってこいなのです。
では、カシオならば、「自然体験を通じた学び」をどのように提供するべきか。このアイデアが「WILD MIND GO! GO!」立ち上げにつながりました。

── これまでの反省と未来への想いが重なった結果、生まれたものだったのですね。現在のサービスに至るまでには、どのような背景があったのでしょうか?


谷治様:まず、「自然体験を通じた学び」を生むためにどのようにすべきか、という問いは、一人で考えてもあまり意味がないなと思っていました。社会と一緒に作り出したいし、どうせやるならカシオに縁のある地域の方々ともに進められたらと考えたのです。
そこで、まずは私の過去の繋がりの仲間たちや、多摩地区や羽村市、東大和市の地元の方々、また、カシオが産学連携している東京学芸大学や東京造形大学などの学生の方々に自然豊かな狭山丘陵へ集まっていただき、「子どもたちにどのような自然体験をしてもらいたいか」というテーマでフューチャーセッションを開催しました。

セッション中、さまざまなアイデアが出てきたのですが、どれも甲乙つけがたく……。そこで気づいたのが、「答えはひとつではない」ということでした。また、さらに対話を深めるなかで「自然体験は『料理』のようなものなのでは」という声が上がりました。料理には、日本料理、中華料理、イタリアン……などたくさんの種類がありますが、“好き嫌い“はあっても“良し悪し”はないじゃないですか。自然体験もそれでいいと思うのです。自然体験をとにかくたくさん揃えてあげたら、子どもたちもどれかは「美味しい」と感じるはず。そして、子どもたちだけでなく、今は自然から離れている大人にとっても「美味しい」と思える自然体験がなにかしら提供できるのではないかと思い、そんな幅広い自然体験を提供するサービス、その時に出た言葉を借りると、『アウトドア版の”料理レシピサイト”』を目指すことにしました。

そうして、「WILD MIND GO! GO!」は料理におけるレシピサイトのように、それさえあれば先生がいなくても自分たちだけで自然体験ができる、そんなHOW TO形式のサイトにしました。今では260を超える自然体験のレシピが集まっています。
さらに特徴としては、思想や概念の話は入れずに、あくまでHOW TOのみを伝えているところです。「その体験から何を得られるのか」ということは、ユーザーさんご自身に見つけてほしいと思っています。


insert_3「WILD MIND GO! GO!」では、身近でできる体験を大切にしている


その根底にあるのは、「知っている」と「やっている」は大違いで、「やっている」と「うまくできる」もまた大違いだ、という考えです。今の時代は、インターネットでなんでも情報が手に入ります。それだけで、なんとなく「できる」気になっていることは少なくないと思うのです。
だから、とにかく自分でやってみてもらう。もちろん失敗することもあると思いますが、それでも諦めずに創意工夫すれば、何度か挑戦しているうちにうまくいく。そうやって、「ネットごと」が「自分ごと」になっていくだと思います。

このようにして、自然を自分ごと化しながら、自己肯定感やクリエイティビティ、諦めない心が子どもたちに育てばよいなと思っています。

主力商品の「時計」を通して自然を感じる、カシオ様ならではのサステナビリティの在り方

── 「WILD MIND GO! GO!」は、時計などの商品に関するWebページと相互に行き来できるよう、導線が設置されていますよね。カシオ様のなかで、自社商品と社会・環境への取り組みを、どう結びつけていらっしゃいますか?


谷治様:もともと、カシオには「モノを通してコトを提供する」という価値観があります。たとえば、私が携わっていた携帯電話でも、機能面だけではなく、その先にある生活をエモーショナルに訴えかけることを大切にしていました。その発展形として、「WILD MIND GO! GO!」は「コトを提供することから始めてもいいよね」とスタートした事業ともいえますが、結局はモノにも繋がり、返ってきていると思います。

たとえば、「WILD MIND GO! GO!」のコンセプトと親和性が高いものに、「PRO TREK」という時計ブランドがあります。どちらも、「自然を感じる」ということを大切にしています。
そのため、お互いに貢献できそうだと考えはじめ、最近では、「WILD MIND GO! GO!」でイベントを開催する際にPRO TREKのチームが協力してくれたり、反対にPRO TREKのマーケティングに「WILD MIND GO! GO!」のチームが協力したりすることもあります。
さらに、対外的な発信としても、PRO TREKのWebページに自然体験のHOW TO記事を載せてもらっています。「この時計をつけて、こんな自然体験をしたら面白いよ」と伝えることで、機能面以外の魅力を感じてもらうこともできますし、一方で「水や温度変化に強い」「アウトドアに最適の機能が盛り込まれている」という、時計そのものの魅力を知ってもらうきっかけにもなると考えています。

 PRO TREK
PRO TREKページでの「WILD MIND GO! GO!」の紹介


また、「WILD MIND GO! GO!」は、カシオの「時計 サステナビリティ」というWebページにも紹介されています。
時計に使われている再生可能原料の話や環境保護団体とのコラボレーションモデルなどを紹介しているページなのですが、その中で、「カシオが提案するサステナブルな自然体験」として掲載されているのです。ほかにも、時計購入者の方向けのスマホアプリに、自然体験に関する情報を通知するような取り組みもしており、たとえば十五夜のある9月であれば、お月見から連想して「月」について紹介してみよう、などと時計チームとともにコンテンツ企画をしています。

時を刻むモノだからこそ、相性がいいというのもあるかと思いますが、このように、「時計」というカシオのメイン商品と我々のコンテンツのシナジーは続々と生まれていますし、環境と共生する時を刻み続けることは、サステナビリティそのものだとも考えます。

── 時を刻むモノのそばに自然体験があるというのは、とても素敵なシナジーですね。カシオ様の商品とともに歩む「WILD MIND GO! GO!」について、今後の展望があれば教えてください。


谷治様:時計とともに、その先にどんな体験をしてもらいたいのかというストーリーを提供していければと思います。
また、時計以外にも、「ClassPad.net」というICT学習アプリなどとも連携を始めております。さまざまな商品を通して「WILD MIND GO! GO!」をお届けし、お客様ご自身にとって「美味しい」「好き」と思えるような自然体験を積み重ねてもらうことによって、自然を“自分ごと”として捉える方が増えたら嬉しいです。

── 身近な商品を通して、自然を知り、向き合う。素敵なサステナビリティの取り組みを教えていただき、ありがとうございました。

 

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【カシオ計算機株式会社】

時計、電子辞書、電卓、電子文具、電子楽器、ハンディターミナル、電子レジスター、経営支援システム、データプロジェクター、成形部品、金型などを主要製品にもつ、電機メーカー。
「創造 貢献」を経営理念に掲げ、サステナビリティ経営に積極的に取り組む。

・公式HP:https://www.casio.com/jp/
・サステナビリティへの取り組み:https://www.casio.co.jp/csr/