各種メディアでも取り上げられることが多くなっていますが、昨今、日本企業においても「パーパス」を策定する企業が増えてきました。そして策定したパーパスを社内に浸透させていく活動の中でも、特に大切であると言われているのが「個人と会社のパーパスを接続する」ということです。

 

サイボウズ株式会社は存在意義(パーパス)として「チームワークあふれる社会を創る」を掲げ、その実現に向けて社員一人ひとりが自分は何ができるのかを考えて行動するための4つの文化(カルチャー)を設定しています。

 

本セミナーでは、サイボウズ株式会社 ソーシャルデザインラボ 渡辺清美氏をゲストに迎えて、パーパス・カルチャー浸透の取り組みや、会社のパーパスとMyパーパスを接続させた活動などについてご紹介いただくと共にパネルディスカッションを行いましたので、その様子を2回に分けてお届けいたします。

 

Part1:サイボウズ株式会社 ソーシャルデザインラボ 渡辺清美氏によるプレゼンテーション

Part2:パネルディスカッション(Part2の記事はこちら

 

【サイボウズ株式会社様 HPhttps://cybozu.co.jp/

【サイボウズ株式会社様のパーパス・カルチャー】https://cybozu.co.jp/recruit/about/philosophy/

 

まずは、サイボウズ株式会社 ソーシャルデザインラボ 渡辺清美氏による「サイボウズのパーパス・カルチャーの浸透とMyパーパスの接続」と題したプレゼンテーションの内容をご紹介します。

サイボウズ株式会社のパーパス・カルチャー

渡辺清美氏: サイボウズは1997年に愛媛県松山市で創業した企業で、現在は海外にも拠点をおきグループウェアおよびチームワーク強化メソッドの開発・販売・運用をしています。業務改善プラットフォーム「kintone」といったチームで情報共有ができるクラウドサービスを提供し、多様な個性を生かしてチームワークあふれる社会を創ることを目指しています。

 

【Part1】画像1

サイボウズ株式会社 ソーシャルデザインラボ 渡辺清美氏

 

重要事項は階層上位の人たちが密室で議論して意思決定する従来型の組織では、情報格差が権力争いを生み、現場の意見が反映されない、社会の変化に追いついていけない、といった問題が生じていました。サイボウズは、ほとんどの情報が全社で共有されてオープンに議論し、協力し合いながら役割に応じて意思決定できるインターネット型組織のあり方を実践し、ツールと共に広めています。

 

【Part1】画像2

オープンに議論し協力しあうことで情報格差のない組織を実現

 

サイボウズは、「チームワークあふれる社会を創る」というパーパス(存在意義)と「理想への共感」「多様な個性を重視」「公明正大」「自立と議論」という4つのカルチャー(文化)を企業理念とすることを20213月の定時株主総会で決議しています。

 

【Part1】画像3

サイボウズ株式会社のパーパスとカルチャー

 

「理想への共感」を実現するにあたり「理念を石碑に刻むな」という言葉もあります。メンバーも入れ替わりますし、一人ひとりも変化し続けます。そのため、共通の理想も固定ではなく変え続けていくものと位置付けています。共感で人が動くことを大切にしています。

 

理念を石碑に刻むな

変化し続けてきたサイボウズ株式会社

1997年に「情報サービスをとおして世界の豊かな社会生活の実現に貢献する」ことを掲げて創業しましたが、事業拡大に伴うハードワークや納得感がえにくい評価制度の影響もあり2005年には離職率が28%というピークを迎えました。採用・育成コストが増大していたうえに2006年にM&A戦略に失敗したこともあり、2007年に大きな転換期を迎えることになりました。

 

【Part1】画像5

社長交代の2005年に離職率28%というピークに

 

2005年に代表となった社長の青野は自信を失いかけましたが、松下幸之助さんの「本気になって真剣に志を立てよう」という言葉に出会い、本当にやりたいことで、かつ、できることを探求しました。

 

そんななか「人間は理想に向かって行動する」「強く思えば思うほどに強く行動できまる」ということに気がつき、一人ひとりの理想を重ね合わせ共通の理想をつくっていくことになりました。

 

「すごいグループウェアをつくりたい」「多くの企業を働きやすくしたい」といったメンバーの理想を重ね「世界で一番使われるグループウェアメーカーになる」という言葉が共通の理想となりました。

 

売上や利益でなく、使っている人の数で勝負することにし、子会社を売却しグループウェア事業に集中する判断に至りました。

 

【Part1】画像6

個人の理想を対話を通じて重ね合わせていく

トップ自らが率先してメンバーの意見を聞いてカルチャーを育む

経営者向けセミナーで社長の青野は、各メンバーの意見に耳を傾けて向き合うことの大切さを話しています。サイボウズではメンバーの意見を聞いて働き方の多様化にチャレンジし、働く時間帯や場所を自由に設定できる制度や、副業の自由化、他部署への体験入部などを導入してきました。

 

グループウェアのkintone上では日々、働き方だけでなく様々なテーマで活発に議論がなされています。企業理念についても気軽に話せる場があり、最近もカルチャーの一つ「自立と議論」のアップデートがなされています。

 

具体的には、「自立でなく主体性、議論でなく対話という表現が好ましいのでは?」と社長自ら問いを投げかけ、kintone上に加えて、希望者全員が参加できるCultureアップデートイベントを開催して意見を交わしました。その結果、社長が参加メンバーを代表し本部長会で「自主自律」への変更を起案しました。本部長会の内容はボードメンバー以外にも公開され、議題に対し誰もが助言できるようになっています。反対意見も含め様々な意見が集まりさらなる議論を重ねています。

 

【Part1】画像7

経営者がまずやるべきことはメンバーの意見を傾聴して向き合うこと

 

サイボウズのパーパス・カルチャーの浸透についてまとめると、「代表が真剣に考えて発信」「グループウェアやワークショップでの共有・対話」「オウンドメディア・書籍・動画での提供」「サイボウズ社内で培ったチームワークのノウハウをメソッド事業として提供」「株主総会で決議する」ことが挙げられます。

 

【Part1】画像8

パーパス・カルチャーの浸透

 

自社らしさと社会価値の一貫性がサイボウズの特徴です。社内で培った文化を、グループウェア事業を通じ多様なチームに提供し、チームワークあふれる社会の実現を目指しています。

 

【Part1】画像9

社内の文化が事業を通じて社会の文化につながっている

会社のパーパスとMyパーパスの接続

今回のテーマである会社のパーパスとMyパーパスの接続について紹介します。私自身は「一人ひとりを大切にする社会を創る!」をMyパーパスに掲げて、サイボウズのソーシャルデザインラボで非営利団体との協働やIT活用の推進、虐待防止、しんどさのある方々との当事者研究といった社会課題解決の新しいモデルを創り発信することに加え、非営利団体で子どもの権利擁護の活動をしています。

 

 

 

【Part1】画像10

サイボウズ 渡辺清美氏のMyパーパス

 

2006年に育休に入る準備をしていた際、当時は育休から復職する人が一人もいない時代で不安だったのですが、人事担当からどんな制度を望むかと聞かれて法定より長めの育休を希望した結果、産休に入る直前に育休6年の制度ができました。サイボウズ自体もワークライフバランスに配慮した会社に変革していた時期で、その後、育児に優しい企業として知られていくようになりました。

 

【Part1】画像11

サイボウズの離職率と売上高

 

4年間の育休から広報の仕事に復職すると、クラウドサービスを始めるところでテレワークもできるようになり、人も増え、働きやすい職場に変化し嬉しい驚きを感じました。また、社長も育休を取得し取材が増えるなか、働き方の変化について自分たちの言葉で発信したいと思い、『WORK SHIFT』の著者リンダ・グラットンさんと青野の対談記事をはじめワークスタイル変革のプロセスや考え方をオウンドメディアや企業ページで発信し始めました。

 

2015年に「サイボウズNPOプログラム」をスタートし、社会課題の解決に取り組むチームを支援し現在までに2,300以上の非営利団体に特別価格でサービスを提供しています。

 

非営利団体でボランティアをするなか、サイボウズでの虐待防止の特別プラン(5年間無償)を担当し16自治体に提供、非営利団体も法人化し児童相談所への訪問アドボカシー活動でkintoneを活用しながら新たな事業モデルを各地に広げています。

 

【Part1】画像12

サイボウズNPOプログラム

 

まとめとなりますが、対話で理想を重ねることで会社も社会も変えられると実感しています。ぜひ、みなさんも会社のパーパスとMyパーパスの接続に向けて対話を重ねると良いと思います。ご清聴、ありがとうございました。

 

後編では、パネルディスカッションの様子をご紹介します。