2025年11月21日(金)、バイウィル カーボンニュートラル総研が運営する「地域脱炭素推進コンソーシアム」第3回総会を実施した。設立15か月を迎えた今次総会では、2つのワーキンググループ(WG)で協議を重ねてきたモデル事業の進捗等共有を行った。また、地方創生のカギは地域の自然資本をどれだけ有効に活用できるかにかかっていることから、森林や陸上資源に比べて投資・取組みが国内では十分に進んでいないブルーエコノミー(海洋資源の持続的な利用を通じて沿岸環境を保全しながら経済発展を目指す考え方)に焦点を当てて官民の有識者を招き、講演・パネルディスカッションの後に出席会員と意見交換を行った。
「地域脱炭素推進コンソーシアム」とは
低・脱炭素化を「地域経済活性化の機会」と捉えており、地域の持続的発展に不可欠なその変化を取り込むため、新たなビジネスモデルおよび地域での取組事例の創出を目的として2024年9月に設立した。活動に賛同する地域の金融機関やテレビ局など37 社が参画していて、総会では同コンソーシアムの座長を兼任する弊社取締役CSOの伊佐より国内外のGX動向に関するプレゼンテーションを実施した。

コンセプト「低・脱炭素化の取組みを地域産業振興の起爆剤に」で実施した第3回総会 参加者約80名
今次総会で焦点を当てた、ブルーエコノミー
自然資本の価値・活用と一次産業の復興に着目し、ブルーエコノミーに主眼を置いて総会を企画した。地域の持続的発展は自然資本をどれだけ活かすことができるかにかかっており、森林や陸上資源にはヒト・モノ・カネ・情報・時間が一定程度投入されてきたものの、人類の共通財ともいえる海洋および海洋資源の利活用につながる事業投資は日本国内ではあまり定着していない。
グローバルな低炭素化の取組みが加速する近年、2021年に話題となったエネルギー・産業によるCO2排出量とブルーカーボン生態系(BCEs)のCO2吸収量を各国別に比べた研究結果において、日本は「ブルーカーボン資産の赤字国」5位と評価された。エネルギー・産業によるCO2排出量が多い日本は、自国の吸収・除去系技術や隔離潜在能力で沿岸域のBCEsから「包摂的な富(BCEsに蓄えられた炭素の価値)」を生み出し、国家レベルおよび近海環境に貢献している側にいると諸外国に認識されていたところ、領海でさえもブルーカーボン資産を活用(BCEsによる炭素隔離・貯留)できていないことが当時浮き彫りになった。そのことも影響してか、自然資本への包括的な投資および活用ならびに一次産業の復興を推進する観点から日本国内の多様な主体がアマモなどの海草藻場やコンブ・ワカメに代表される海藻藻場を中心として、沿岸環境や漁業資源を保全する活動に取り組み始めた。小規模とはいえ2022年ごろからブルーエコノミーが広がりをみせているからこそ、国内事業所の所在地や商圏が “海に面している/面していない” に関わらず、地球市民の一人として海洋資源の恩恵を受けている点において、ブルーエコノミーに取り組む意義を発信した。
全体を通じた所感
国の研究官・地方自治体・民間実務者をお招きし、ブルーエコノミーに関連した基調講演およびパネルディスカッションを以下のとおり実施した結果、出席会員による満足度評価の平均で5.0分の4.4を獲得した。
- ジャパンブルーエコノミー技術研究組合 理事長 桑江 朝比呂氏「ブルーカーボンの動向」
- 浜松市産業部カーボンニュートラル推進担当部長 鈴木 久仁厚氏「浜松市脱炭素経営支援プロジェクト2030
~官民連携による地域脱炭素~」 - 株式会社ヴェントゥーノ 社長室チーフ 中村 優希氏「ブルーカーボンプロジェクト(糸島市・石垣島)」
- パネルディスカッションのテーマ「ブルーエコノミーの可能性と乗り越えるべき壁」
BCEsを起点とした「地域脱炭素×地域経済活性化」の可能性をテーマに、日本のブルーエコノミー推進の第一人者である桑江氏よりブルークレジット創出に係る近年の動向について共有がなされた。次に、官民連携による低炭素化取組みの一例として浜名湖周辺の藻場再生プロジェクトを取り上げた鈴木氏からは、そのイベントに次世代人材(児童や学生)を巻き込み市民のコ・ベネフィットに係る意識を涵養している事例が共有された。そして中村氏からは、ドキュメンタリー番組の制作協力依頼がくるほど地域で成功している同社のブルーカーボンビジネスについて、事業化検討における関係者説得の難しさほか苦労した点や、協議の初期段階から金銭的なメリットを提示し、関係者にその価値を実感してもらう必要性を含め、率直に語ってもらった。日本国内ではブルーエコノミーに関する実証事業の予算が国・地方自治体や公益財団法人等からついたとしても、それは一時的な財源であり、基本は事業に関わる関係者が適宜経営資源と時間や労力を提供しあって、地域の課題軽減または地場事業の振興に向けて事業化を共創していくことが肝要である。

左から順に、コンソーシアム座長 伊佐、【登壇者】桑江氏、鈴木氏、中村氏
海洋を基軸とした持続可能な地域づくりを目指して
第3回総会に出席した会員は、多様な立場でブルーエコノミーとは?に触れたことで、「公私」の少なくとも後者では密接に関わっている海洋および海洋資源の持続可能な利活用につながる事業化のヒントや実践的なコツを今後の示唆として得られたのではないだろうか。同コンソーシアムの枠組みにおける地域経済循環創生WGにおいてブルーエコノミー分野のモデル事業を9月開催のWGで紹介した経緯もあり、今次総会を機に、地域の個別事業化(ブルー領域)に向けた協業の相談が早速弊社に届いた。そのことから、同コンソーシアムの活動および総会を単なる勉強会で終わらせず、地域の事業化検討や実践的なアクションに踏み出すきっかけを提供する場として今後も企画運営に取り組み、地域裨益型の(地域課題の軽減と収益性を両立させる)事例創出に向けて引き続き邁進していく。
最後に、筆者が外資海運コングロマリット在職期間にブルーエコノミーに携わった経験から得た視座を共有する。欧州地域のように日本国内でもブルーエコノミー産業を盛り上げるために必要な観点(評価軸)は3つある。
1.地域における自然資本のポテンシャル(藻場・マングローブ等)
2.地域課題(磯焼け対策、漁業衰退、観光低迷、災害リスク、雇用創出等)解決へのインパクト
3.ブルーエコノミーとしての経済的インパクト
なお、3.については、ブルークレジットの転売収益だけに依存しない、関係者が相互利益を得られる多層的な収益モデルを設計することが大事である。
<参考論文>
C. Bertram et al. (2021.7) “The blue carbon wealth of nations” Nature Climate Change, 11, pp.704-709 https://www.nature.com/articles/s41558-021-01089-4
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