世界的に脱炭素が加速する中、多くの企業がCO2削減を重要な課題と位置づけながらも、「脱炭素投資に踏み切る基準は?」といった悩みを抱えています。
それを解決するためのツールが「インターナルカーボンプライシング(以下、ICP)」ですが、急いで導入したのはよいものの、実効性を欠いた運用でうまくいっていない企業もあるのではないでしょうか。
そこで、カーボンニュートラル総研のT.MORIが、これから2回にわたってICPの設計・運用方法を解説します。前編となる今回は、ICPの基本と3つの活用レベルについてお届けします。
ICPとは?その定義と導入の背景
ICPとは、企業が排出するCO2に、社内で独自に価格を設定する仕組みのことです。
炭素税や排出量取引などでCO2に課されるコストは、やがて企業の財務リスクに繋がる可能性があります。
ICPは、現在~将来の炭素価格を適切に設定・運用することで、こうした将来的なコストを可視化して正しく管理するだけでなく、投資判断を通してリスクマネジメントすることが可能です。
多くの企業が導入している、あるいは導入を検討している背景には国際的な情報開示の潮流があり、TCFDはICPの実施を推奨しており、CDPもその質問書でICPに関する回答を要求しています。
こうした背景から日本でも導入企業は年々増加しており、導入済または2年以内に導入予定の企業は半数に迫る勢いです。
ICP導入のメリットと、陥りがちな「落とし穴」
それでは、ICPにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
ICPの導入と徹底した運用は、単なる国際イニシアチブや社内ルール対応以上の価値を企業にもたらしますが、特に以下3つの具体的メリットがあります。
①脱炭素投資の意思決定を促進②脱炭素目標達成に向けた企業ガバナンスの整備
③利益喪失リスク可視化によりリスクマネジメント強化
一方、「何を基準に価格を決めればよいか分からない(価格設定)」、「部門のKPI、あるいは全社のKPIしか設定していない(対象範囲)」、「誰が・どんなゴールのために・どのような権限で、が不明確か不在(責任主体と権限設定)」など陥りがちな落とし穴もあります。
中には、導入したのはよいものの、非現実的な価格設定をロジックに組み込んだせいで、投資判断基準が形骸化してしまったという企業もあるようです。
導入後のICPを機能させるためのポイント
これら落とし穴を避け、ICPを成功させるためには、経営環境に応じた導入目的を定め、それに即した①価格設定・②対象範囲・③責任主体を設定する必要があります。株式会社バイウィルでは、導入目的に応じてICPをレベル1~3に分類して①~③を定義しています。
レベル1とレベル2は、現場のアクションを促す上では有効ですが、視点はどうしても「短~中期的」かつ「部門最適」に留まりがちです。
一方、脱炭素は単なるコスト対応ではなく、今後の企業価値を左右する経営課題として捉える必要があり、我々は長期的かつ全社的な投資判断が可能なレベル3を推奨しています。

まとめ:ICPがもたらす競争優位性
ICPの導入は、本来的には設備投資の判断基準だけでなく、バリューチェーン再編や事業ポートフォリオの再構築にも作用すべきものです。
この点、CO2排出量や炭素価格などの非財務指標が、生産性や事業収益性などの財務指標に転換する鍵を握るのは、ICPなのかもしれません。
読者の皆さまにおかれましては、この機会にICPを単なる導入にとどまらず、適切な設計・徹底した運用方法を検討し、脱炭素時代をリードする企業への進化を検討されてはいかがでしょうか。
今回はICPについて、長期的なリスクマネジメントを可能にする「レベル3」の重要性を中心にお伝えしました。
とはいえ、「国策・規制としてのカーボンプライシングや既存の炭素市場と、どのように連動させるべきか?」という実務的な悩みは尽きないものです。次回の後編では、さらに一歩踏み込み、日本国内の最新動向(GX市場)とICPをどう連動させるべきか、より実践的な設計のヒントを解説します。
