【金融機関のためのJ-クレジット実践コラム:第2回】他行はどうしてる?金融機関自身の「カーボンニュートラル」とクレジット活用の最前線 〜本部のサステナ担当者がまず「当事者」になるために〜
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第一回コラムはこちら
【金融機関のためのJ-クレジット実践コラム:第1回】なぜ、いま「地元の大企業」が脱炭素に動き出したのか? 〜金融機関の担当者が押さえておくべき「外圧」の正体〜
はじめに:「顧客に勧める前に、自行はどうなの?」
顧客にJ-クレジットや脱炭素を勧めようとしたとき、目の前の社長から「御行は自分たちでやってるんですか?」と訊かれたら、どう答えますか?
第1回でお伝えしたとおり、大企業の脱炭素は待ったなしの局面に入っています。その情報を中小企業の社長に届ける立場——つまり皆さまご自身が、まず「当事者」になっておくことが、営業現場での説得力を根本から変えます。事実、多くの地銀・信金では、すでに「自行のカーボンニュートラル」を経営方針に組み込み、J-クレジット活用と顧客への販売開始を同時並行で進めるという戦略を取り始めています。
さらには、複数の金融機関がScope1・2の範囲でのカーボンニュートラルのタイミングを「2030年」に設定しており、当該金融機関においては特に対応は待ったなしの状況です。
まず押さえたい:金融機関のScope1・2・3とは?
企業のCO₂排出量は「Scope(スコープ)」という概念で整理されます。
- Scope1:自社の直接排出(社用車、重油ボイラーなど)
- Scope2:購入した電気・熱由来の間接排出
- Scope3:取引先・融資先・顧客の排出(金融機関にとって最も大きい)
金融機関の場合、Scope1・2は比較的小さく、自社ビルの電力削減・LED化・再エネ電力への切り替えなどで一定の対応が可能です。しかし、社用車をすべてEV化するなどの対策はコスト的に難しく、Scope1において一定程度の排出量が残る金融機関が多い印象です(数社にヒアリングしたところScope1で約1,000t-CO₂※ほど減らせない量が残る金融機関が多いようです)。
※特定の金融機関の数値ではありません
また、 Scope3のうち「Category 15:投融資先の排出量(Financed Emissions)」 が、金融機関のCO₂排出全体の9割以上を占めるケースが一般的です。2030年以降では、Scope3への対策がより重要になってきます。

Scope1を「実質ゼロ」にするには
Scope1(社用車、非常用発電機など)の削減で本命となるのは、電化です。Scope1をScope2に振り替えてしまえば、あとは再エネで対応できます。
ただし電化には設備投資が伴うため、どうしても長期スパンになります。社用車をすべてEV化する、といった判断は簡単ではありません。前述のとおり、削減しきれない排出量が一定量残るのが実情です。
そこで有効なのが、「電化が完了するまでの時間差を、クレジットで埋める」という考え方です。削減努力を止めるわけではなく、目標年次までのギャップを埋める手段としてクレジットを位置づける。この整理ができていれば、対外的にも説明のつく設計になります。
Scope2を「実質ゼロ」にするには
銀行業では、店舗・事務所の電力使用に伴うScope2が、Scope1を上回る規模になるのが一般的です。 量が大きい領域だけに、効いてくるのは単価と着手スピードです。ここでの打ち手が、全体の進み方を左右します。
本質的な手段は、自家消費型太陽光やオフサイトPPA。ただし、発電所が動き出すまでには相応の時間がかかります。一方、電力会社の再エネメニューへの切り替えや非化石証書の購入なら、比較的安価に、しかも短期間で使用電力の実質再エネ化が可能です。まずはここから、という判断には十分な合理性があります。
「証書を買うだけで、本当に排出量がゼロになるのか」——そう思われた方もいるかもしれません。答えは、Scope2の「2つの計算基準」にあります。
【2つの計算基準】
Scope2の排出量には、2通りの計算方法があります。
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- ロケーション基準:その地域の電力の、平均的な排出係数を使う
- マーケット基準:実際に契約している電力メニューの排出係数を使う
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GHGプロトコルが求めているのは、この両方の算定・報告になります。そして再エネメニューへの切り替えや非化石証書の購入で下がるのは、契約内容が反映される「マーケット基準」。カーボンニュートラルの達成状況は通常こちらで語られますが、開示の際は両方を並記するのが基本形です。
裏を返せば、ロケーション基準の数値は、証書では動きません。 ここを下げられるのは、LED化や空調温度の管理といった省エネ、そしてZEB化や自家消費型太陽光——使う電力そのものを減らす取り組みだけです。
時間のかかる本命策を進めながら、すぐできることから先に着手する、これがScope2の定石です。証書がスピードを担い、省エネと再エネ設備が数値の実質を担う。この二段構えが、Scope2対策の肝と言えます。
📍ポイント
メリハリ、意味合いをつけたCO₂削減対策を
- 土台は「削減」:省エネ・ZEB化・再エネ設備が、数値の実質を担う。証書やクレジットは、その上に重ねるもの
- Scope2は「効率とスピード」:量が大きい領域。再エネメニューへの切り替えや非化石証書など、安価かつ短期間で着手できる手段から
- Scope1は「時間軸」:本命の電化には設備投資と時間が要る。その完了までのギャップを埋める役割として、クレジットを位置づける
- クレジットの「選び方」にも考え方を:単なる「お金による解決」と見られないために。地域性を軸に地元産の森林由来クレジットを選ぶ、信頼性を軸に選定する——どちらも有効な設計です
【実例】Scope1・2ネットゼロを達成された八十二長野銀行さま(旧・八十二銀行さま)
ここまでの考え方——削減と証書の二段構え——を、実際に体現されているのが長野県の八十二長野銀行さまです。同行は2026年1月、八十二銀行と長野銀行の合併により誕生しました。以下でご紹介するのは、合併前の八十二銀行における取り組みです。
八十二銀行さまは、1999年に地方銀行として初めてISO14001認証を取得、2005年に環境会計を導入、2023年には国内銀行で初めてCDPの最高評価「Aリスト」に選定され、2024年にも「Aリスト」に選定されて国内銀行初の2年連続を達成するなど、環境分野で先進的な取り組みを続けてこられました。そして、中期経営ビジョンで掲げた「2023年度ネットゼロ」という目標を1年前倒しし、2022年度に達成されています。
※出典:八十二銀行「サステナビリティに関する取組みについて」(2024年10月25日)
https://bank.82group.jp/file.jsp?id=release/2024/pdf/news20241025.pdf
▶ ベースはあくまで「削減」
LED化や空調温度の厳格管理といった省エネ対策に加え、ZEBの最高ランク『ZEB』認証を取得した店舗を複数新築。2022年度からは、使用電力の全量を実質再生可能エネルギー化されています。
▶ Scope2は「すぐできること」から
オフサイトPPAによる再エネ発電所の稼働も進めておられますが、太陽光の設置には時間がかかる。そこで「まずはすぐにできることから着手しよう」という考えのもと、電力会社の再エネメニューへの切り替えと非化石証書の購入によって、使用電力全量の実質再エネ化を先に実現されました。
▶ Scope1は「時間軸」で判断
電化は有力な手段だが、設備投資を伴うため長期スパンになる——そこで、電化を進めながら短期的にはクレジットの購入で相殺するという判断を取られました。ここで活用されたのが、長野県県有林から創出されたJ-クレジットをはじめとする森林由来のクレジットと、海外のVCSクレジットです。県内の森林整備促進につながるクレジットを選ばれている点に、地域金融機関としての姿勢が表れています。バイウィルは、オフセット計画・設計のアドバイスから、今回は海外クレジットの調達までをご支援しました。
▶ そして「より精緻なネットゼロ」へ
達成後のご担当者さまの言葉が印象的です。クレジットを購入して終わりにするのではなく、残余排出量そのものの削減にも取り組んでいく。省エネや業務プロセスの見直しを積み重ねながら、クレジットは信頼性の高いものを選定していく——という方針を掲げておられます。さらに、自行での活用にとどまらず、長野県の森林由来のJ-クレジットをお客さまにご紹介する取り組みも進めておられます。 自らの実践を、そのまま提案力に変えておられるかたちです。
なお、八十二銀行さまが2009年から続けておられる森林保全活動「八十二の森」は、クレジット活用とは別に、職員の皆さまが環境への貢献を身近に感じる機会になっているとのことです。制度対応と、組織の環境意識の醸成。この両輪が回っていることが、同行の強さなのだと感じます。
「自行がやっている」ことが最大の説得力に
一部の地銀・信金では、「カーボンニュートラル宣言」のPRと並行して、顧客向けのJ-クレジット販売を開始する一石二鳥の戦略を取っています。「自行がやっている」ことには、次の3つの効用があります。
①営業現場での説得力
「うちもやっています。だから、御社にもお勧めできる」——単なる商品紹介とは次元の異なる説得力が生まれます。
②対外広報・ブランディング
「地域の金融機関で初のカーボンニュートラル達成」といった打ち出しは、地元紙・地銀業界紙で報道されやすく、ESG格付けの向上にもつながります。
③人材採用
サステナビリティへの取り組みは、若手人材の就職先選びで重視される項目のひとつです。地方の金融機関にとって、若手採用の差別化ポイントになり得ます。
ご相談いただければバイウィルにて、どのアプローチでも対応可能です。
ぜひ、お気軽にお声がけください。
この回のポイント
- 金融機関のScope1・2は、削減努力とクレジット・証書の組み合わせで実質ゼロにできる
- Scope2は効率とスピード、Scope1は電化までの時間差を埋める。手段を使い分けたオフセット設計と、その早期確保が必要
- 「自行がやっている」ことが、顧客への提案における何よりの説得力になる

