【3社対談】椿本チエイン×富士フイルムビジネスイノベーションジャパン×バイウィルが描く、「再生機+クレジット」が生む共創価値~ユーザー・メーカー・クレジットプロパイダの3視点で紐解くサムネイル画像

【3社対談】椿本チエイン×富士フイルムビジネスイノベーションジャパン×バイウィルが描く、「再生機+クレジット」が生む共創価値~ユーザー・メーカー・クレジットプロパイダの3視点で紐解く

株式会社バイウィル
株式会社バイウィル

目次

カーボンニュートラルの実現に向けた歩みが本格化する中で、多くの企業が「自社努力の限界」という課題に直面しています。省エネ・再エネ導入など、大規模な設備投資や事業再編以外は一通り実施した先で、次の一手をどう描くべきか。本座談会には、脱炭素を先進的に取り組む株式会社椿本チエイン様、その実践を支えるソリューションを提供した富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社様、そして、この取り組みの鍵となる「カーボンクレジット付帯型商品」のスキーム構築およびカーボンクレジット調達を支援した株式会社バイウィルの3社が集いました。

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様がビジネス展開する「再生機(回収した使用済み商品から取り出した部品を再生技術によりリユース活用し新品として製造した複合機)+カーボンクレジット」という新たなパッケージ。それを導入したのが椿本チエイン様です。いかに「合理的な選択」として受け入れ、経営目標の達成へと結びつけたのか。

「ユーザー・メーカー・クレジットプロパイダ」それぞれの立場から、商品に込められた環境価値の正体と、現場を動かした意思決定のプロセスを紐解きます。

Gemini_Generated_Image_sqz88rsqz88rsqz8左より、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社 京都支社 営業一部 メジャー営業一グループ遠山マネージャー、同社販売推進部 販売促進室 川越様、株式会社椿本チエイン パワートランスミッション事業部企画管理部 安東部長、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社 京都支社 営業一部 メジャー営業一グループ 梅田様、株式会社椿本チエイン パワートランスミッション事業部企画管理部 環境担当 井口様、株式会社バイウィル 取締役 CSO 兼 カーボンニュートラル総研 所長 伊佐

椿本チエインが挑む、実効性あるサステナビリティ経営

経営課題としての「カーボンニュートラル」とSBT認定の意義

バイウィル伊佐:本日はこのような場をいただきまして、大変ありがとうございます。株式会社バイウィルにて、取締役 CSO 兼 カーボンニュートラル総研 所長を務めております伊佐と申します。弊社は、カーボンクレジットをはじめとした環境価値の創出・売買・活用支援、及びGXコンサルティングを通じて、世の中のGX(グリーントランスフォーメーション)を推進している会社です。富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様の「再生機+カーボンクレジット」という先進的な取り組みを、企画からカーボンクレジット調達といった部分までサポートさせていただいております。

本日は、導入いただいた「再生機」の環境性能やクレジットの活用といった具体的なお話もさることながら、それ以上に「椿本チエイン様が現在のサステナビリティをどう捉え、どのようなビジョンで推進されているのか」という根底にある想いを入り口に、お話を伺えればと考えています。

まずは、椿本チエイン様が今、どのような目的で、どのような方向を目指してサステナビリティ経営を加速させているのか、その全体像をお聞かせいただけますでしょうか。

椿本チエイン安東部長:当社はチェーンや電動シリンダといった機械部品を製造・販売しているメーカーです。環境への取り組みについては、単なるCSR(社会貢献活動)の枠に留めるべきではないと考えており、2050年のカーボンニュートラル実現を見据えてグループ全体の最優先の経営課題として位置づけています。その道筋を確かなものにするため、SBTの認定取得など、国際的な枠組みに則った具体的な活動を推進しています。

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株式会社椿本チエイン パワトラ事業統括 モーションコントロール事業部 企画管理部 安東部長

椿本チエイン井口様:経営上の大きな課題のひとつは「Scope1」をいかに削減するかです。現在は「トータルカーボンニュートラルプロジェクト」を立ち上げ、熱処理工程における排出ガスを抑えるため、燃料転換などの実証テストを進めています。これは2050年カーボンニュートラルという目標達成に向け、グループ全体で議論を重ねている重要事項です。

また、Scope3についてもSBT認定取得を受け、削減に向けて動いています。まずは現状の排出量をより精緻に算出・可視化し、具体的な削減プランを再構築していきます。

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株式会社椿本チエイン モーションコントロール事業部 企画管理部 環境担当 井口様

現場の知恵:自社製品の「電動化」で実現する徹底した省エネ

椿本チエイン安東部長:また、当社の環境活動にはもう一つの大きな軸があります。それが「現場」における徹底した省エネです。当社の工場内には膨大な数の機械が稼働しています。そこで自社製品を活用し、環境負荷を直接的に下げる取り組みを行っています。

椿本チエイン井口様:省エネ設備の導入や、多機能機を活用した工程集約による設備台数削減、高効率化といった「身近な最適化」を徹底しています。

椿本チエイン安東部長:さらに一歩踏み込んだ取り組みが、自社製品を活用した「電動化」への切り替えです。工場設備で多用されるエア(空気圧)駆動の機械を、当社の電動シリンダを活用した自社製電動プレスに置き換える。これによりエネルギー効率が劇的に向上し、大きな省エネ効果を生むことができるのです。

20260626_椿本チェイン椿本チエイン様による電動シリンダに関するチラシリーフレット。
エアシリンダからの置き換えによるエネルギー効率向上を訴求。

バイウィル伊佐:なるほど。皆さんの製品が世の中に広がっていくこと自体が省エネに繋がるといえますね。

そこで伺いたいのですが、実態としては、規制対応や情報開示のために、脱炭素を義務として「仕方なく」「最低限」進めている企業が多い中で、御社における環境やサステナビリティは、本当の意味で経営の中で重要度が上がっているとお感じでしょうか?

椿本チエイン安東部長:はい、重要度は間違いなく上がっています。私たちが環境担当・責任者として役割を担っていることはもちろん、COO委員長とする「サステナビリティ委員会設置。グループ全体の活動方針や重要テーマについて議論・決定し、全社に向けて明確な目標や方針を打ち出しているため、我々事業部としても非常にすんなりと動くことができています。まさに全社を挙げてこの領域に注力しています。

オフィス領域の改革:対策が一巡した先で見つけた「次の一手」

カーボンニュートラル実現への壁と「次の一手」

バイウィル伊佐:素晴らしい姿勢ですね。省エネなどの「無駄を省く」活動はコスト削減に直結するため現場の理解を得やすいですが、「カーボンニュートラル」という大きなテーマを掲げると、途端にハードルが高くなる側面もあるかと思います。その辺りのバランスや、社内を動かす難しさについてはどのようにお感じでしょうか。

椿本チエイン安東部長:おっしゃる通り、非常に難しい課題だと実感しています。省エネについては、LED化、工場でのエア漏れ対策など、手の届く範囲の施策は一通り実施してきました。しかし、その先の「カーボンニュートラル」となると、一筋縄ではいきません。特にオフィス領域においては、LED化やエアコンの温度設定など、できる対策はすでにあらかた進めており、次の一手を見出せずにいました。

複合機の集約と「再生機+クレジット」による合理的な脱炭素

椿本チエイン安東部長:そんな中、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様からご提案をいただき、複合機の見直しに着手しました。長岡京工場は事業・組織再編を繰り返してきた経緯から、オフィスにメーカーが混在した状態で約120台もの複合機がありました。しかし、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様に稼働率を調査・精査していただいたところ、50台で十分だということが判明しました。現在は、オフィスでできる次なる脱炭素活動の柱として、この最適化とカーボンクレジットの導入を進めています。

バイウィル伊佐:なるほど。オフィス側で「今できること」を着実に積み上げていく中で、今回の「再生機+カーボンクレジット」という選択肢が浮上したわけですね。

椿本チエイン安東部長:はい。私たちの企画管理部は、事業部全体の環境対応をリードする役割も担っています。まずは自分たちが率先して新しい仕組みを導入し、その成果を見極めた上で、全社的な拡大を検討していきたいと考えています。

バイウィル伊佐:現場(工場等)の施策が一巡する一方で、オフィス側で打てる手は限られがちです。その中で、複合機の台数の最適化と環境負荷の低い再生機への切り替えを同時に進められているのは、非常に合理的ですね。

椿本チエイン安東部長:現在の複合機の多くの契約が2027年3月末までですので、そのタイミングに合わせて順次リプレイスしていく計画です。その際は、通常の新品ではなく「再生機」を提案していく方針です。

価値の再定義:中古品ではない「環境対応機」への信頼

確かな「ものづくり」の理念が繋いだ、メーカーとユーザーの絆

バイウィル伊佐:それほど真正面から環境課題に向き合われているからこそ、今回の「再生機+カーボンクレジット」の導入も、社内ではスムーズに合意形成がなされたのでしょうか。

椿本チエイン安東部長:我々が環境管理責任者を務めておりますので、「まずはやってみよう」と。性能面では、再生機ゆえに「1世代前の型でスピードが少し落ちるのではないか」という懸念もありましたが、まずは私たちが先行して導入し、実力を検証することにしました。今後は、どうしても削減しきれない部分をカーボンクレジットで補完するこの仕組みを、全社へ広げていきたいと考えています。


バイウィル伊佐:「当たり前にできることから着実に」という姿勢、非常に心強いですね。弊社が企業様をご支援させていただく時には、例えば今回の再生機に付帯するカーボンクレジットのように、環境価値を顧客企業にどう理解してもらい、選んでいただくかは常に論点となります。安東部長のように「まずは自分たちが率先して使い、価値を確かめる」というスタンスこそが、GXを加速させる鍵になると改めて感じました。

椿本チエイン安東部長:弊社では、トップが掲げる環境目標が対外的なウェブサイトに明示されているだけでなく、個々の業務目標にもしっかりと組み込まれています。半期に一度行われる「環境レビュー」の場では、事業部長へ進捗を直接報告しますが、そこでは非常に高い水準での成果が求められます。厳しい指導を仰ぎながらも、組織が一丸となって実効性の高い活動を継続しています。

バイウィル伊佐:ありがとうございます。では、今度は富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様に伺わせてください。この「再生機+カーボンクレジット」を普及させていく上で、当初「ここは一筋縄ではいかないだろう」と想定されていたこと、ハードルや懸念などはありましたか?

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン川越様:難しさという点では、「どのようなお客様が、再生機とクレジットの組み合わせに価値を見出してくれるのか」が最初のハードルでした。

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富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様の再生機ページでは、
「使用済み商品は、廃棄物ではなく、貴重な資源である」と大きく謳う。

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン川越様:正直なところ、再生機にクレジットを付帯させたとしても、一台あたりの直接的な削減効果が極端に大きいわけではありません。だからこそ、まずは「オフィス環境や複合機のあり方を見直す第一歩」として、いかにその意義を納得感のある形でお伝えできるか。そのストーリーの構築が一番の課題でした。

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富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社 販売推進部 販売促進室 川越様

バイウィル伊佐:そうですよね。ご支援させていただいた「再生機+カーボンクレジット」プロジェクトの中でお伺いして印象的だったのが「再生機は中古なのに安くないのかと言われて値引きを迫られる」という生の声でした。今回再生機を導入された椿本チエイン様としては、このような感覚はなかったですか。

椿本チエイン安東部長:現時点ではまだ私の部署で1台稼働し始めた段階ですが、製品の特性は十分に理解しています。「まずは自分たちで試してみよう」というスタートでしたので、スムーズに導入を決めることができました。ただ、今後全社へ水平展開していくフェーズになれば、コストパフォーマンスを重視する他部署からは、そうした声も出てくるかもしれません。どう説得していくかが、次のステップだと考えています。

バイウィル伊佐:新しい提案であっても「まずは実践」というスタンスには、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様への強い信頼を感じます。実際、御社と富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様は、複合機以外でも幅広く連携されているのですか?

椿本チエイン安東部長:「複合機だけのビジネス」という枠に留まらず、多方面で深くお付き合いいただいております。例えば、弊社の事業部長や、製造部門の部長や課長が三重県鈴鹿市にある工場を見学させていただき、組み立てラインの工夫を自社の現場改善の参考にしたり、若手社員の研修をお願いしたりと、多くのヒントをいただいています。

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン遠山様:弊社は、椿本チエインのトップの方々とも長年交流を重ねており、弊社の「ものづくり」に対する姿勢を参考にしていだだくなど、深い関わりがございます。そうしたプロセスを経て、私たちの活動に価値を見出してくださっているという自負があります。

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富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社 京都支社 営業一部 メジャー営業一グループ遠山マネージャー

バイウィル伊佐:なるほど。単なる製品スペックの比較に終始するのではなく、お互いが大切にされている「ものづくり」への理念を分かち合う、いわば「価値の交換」という強固な土台がもともと両社の間にあったわけですね。

理想を形にするリーダーシップと、社内合意を勝ち取るプロセス

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン遠山様:安東部長にこのお話をした際も、単なる中古機という呼び方はせず、「これは『環境負荷の低い再生機』です」と、想いを込めて提案させていただきました。

バイウィル伊佐:富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様として、再生機にカーボンクレジットを付帯させるという先進的なスキームを構築されたのは、やはり「これからは環境課題に正面から向き合う企業が確実に増えていく」という確かな読みがあったからでしょうか。

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン川越様:おっしゃる通りです。環境志向のあるお客様に、その想いに応えるソリューションをどう提供していくかという大きな流れがありました。また、社内でも上位方針として「再生機を単なるリユース品としてではなく、環境負荷の低い製品として再定義し、提案していく」という強い意志があったことも、このプロジェクトの後押しとなりました。

バイウィル伊佐:なるほど。ちなみに遠山様にお伺いしたいのですが、営業の現場からみてお客様から求められているという実感はありますか?

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン遠山様:もちろん、営業担当者個人によって、捉え方や感じ方に多少のばらつきはあるかもしれませんが、私が安東部長をはじめとする、いわゆる「ものづくり企業」の皆様とお話ししているケースでいうと、環境対応への熱量は本当に強く、切実なものだと肌で感じています。

今後の展望:環境価値を企業の「競争力」へ変えるために

購買基準の変革――「環境目線」を意思決定のスタンダードに

バイウィル伊佐:ありがとうございます。対談の締めくくりとして、椿本チエイン様にこれからの展望について一歩踏み込んだ質問をさせてください。

複合機に限らず、オフィスで使用する製品や消耗品は、その多くがエネルギーを消費するものです。最近では省エネ性能に優れた機器や、環境配慮型の消耗品など選択肢も広がっており、ペン1本をとっても製品ごとに厳密な環境負荷量は異なります。

もちろん、用途やコストパフォーマンスは不可欠な判断基準ですが、今後はそれらに加えて「環境目線での評価」を明確なプロセスとして組み込み、複数の選択肢を比較検討していくようなステージを見据えていらっしゃいますか?

椿本チエイン安東部長:正直に申し上げますと、事務用品などの細かな調達については、まだ各部門が個別に判断して購入しているのが実情です。そこまで厳密に管理の手を広げるというところまでは、まだ考えが及んでいないのが本音ですね。

ただ、将来的にはあらゆる備品に対して「カーボンフットプリントがどの程度か」「どれだけ環境負荷を下げられるのか」という視点を持ち、購買の意思決定プロセスに組み込んでいかなければならないと考えています。

正直なところ、もう「すぐにやれること」は限られてきている実感があります。LED化などはすでに進めていますが、それもいつかは限界が来ます。例えば現場であれば、できるだけエアを使わず、電力効率の良い電動機器に切り替えていく。たとえ導入コストが多少高くても、電動化を選択肢に入れています。ただし、電動化することで生産効率が落ちてしまっては本末転倒ですのでバランスを常に考えながら、慎重に判断しています。

バイウィル伊佐:ありがとうございます。生産効率を維持しながら、導入コストを越えて「環境価値」を判断基準に置くということですね。そうした「製品選びの基準の変化」を踏まえ、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様にもお伺いします。

再生機や環境負荷の少ない複合機自体は、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様以外でも製造されていますよね。環境性能そのものだけで見れば、実はそこまで極端な差は出にくい分野だと思っています。だからこそ、そうした製品自体の性能差を超えた付加価値として、「カーボンオフセット」を用意されたのでしょうか。製品の価値をさらに高めるための戦略だったのですか?

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン川越様:はい。おっしゃる通り、製品のハードウェア性能だけで明確な差別化を図ることは、非常に難しくなっているという側面がありました。そのため、「再生機」と「カーボンクレジット」をセットにしてお届けすること自体を、の「製品特長」として位置づけています。

バイウィル伊佐:自社の努力だけではどうしても減らしきれない排出量を、製品自体でオフセットできる。この仕組みは、安東部長が今回の導入を判断される際の「購買の意思決定」において、やはり大きな影響を与えたのでしょうか?

椿本チエイン安東部長:はい、影響があったといえます。と言いますのも先述のとおり、オフィスで可能な省エネ施策、特に低コストで取り組めることは、すでに一通り実施したという感覚があったからです。

当時は掲げていた目標の98%〜99%をすでに達成している状態でした。「次に何ができるか?」を模索していた中で、カーボンクレジットという選択肢は非常に合理的で有効な手段でした。やるべきことを全て実行してきたからこそ、自然な「次の一手」として受け入れられたのだと思います。

SBT認定とクレジット活用の「ジレンマ」を越えて――数値目標の先にある誠実な環境経営

バイウィル伊佐:「全て実行してきたからこその次の一手」というお話、非常に重要ですね。その背景を深掘りしたいのですが、貴社がSBTの認定を取得されたのは、いつ頃のことでしょうか?

椿本チエイン井口様:5年ほど前です。

バイウィル伊佐:早い段階から取り組まれていたのですね。多くの日本企業が動き出したのはここ数年です。国内動向から見てもかなり先進的な部類に入るかと思います。こうスピーディーに取り組まれたのには、何か理由があったのでしょうか?

椿本チエイン井口様:「環境に配慮しない企業は、もはや社会から取り残されてしまう」という危機感を、弊社の経営層が非常に敏感に感じ取ったことが、大きな原動力になったのだと思います。

椿本チエイン安東部長:そして、その危機感は、我々が提供する「製品」の進化にもそのまま現れています。例えば先ほどもお伝えした電動シリンダがその代表例です。油圧シリンダやエアシリンダが競合ですが、これらは電気代、つまりエネルギー効率が全く異なります。各種条件にもよりますが電動シリンダの電気代を「1」とすると、油圧シリンダは約「3」、エアシリンダに至っては約「10」ものコストがかかる計算になります。

こうした「お客様のCO2削減を支援する製品」を自ら作っているからこそ、我々自身の環境意識も自ずと高まり、現場に深く根付いてきました。現在は含有物質の管理も含め、より高い次元でのサステナビリティ対応を全社で追求しています。こんな背景が「先進性」に結びついているのかもしれません。

バイウィル伊佐:国際的な枠組みに対して非常に誠実に向き合っているのは、現場の製品づくりから高い環境意識が醸成されているからこそですね。その関連でぜひ深掘りしたかったのが、SBTの認定取得とカーボンクレジット活用の関係についてです。先進的な取り組みをされている椿本チエイン様は、どのようなスタンスでいらっしゃるのでしょうか。

椿本チエイン井口様:実はちょうど今、そのあたりを整理しようとしているところです。というのも、新たに第三者認証を受けるプロセスを進めており、認証機関から「このカーボンオフセットは、スコープ1〜3のどのカテゴリーに該当し、どう算定に反映されているのか」といった指摘を受ける可能性があるため、サステナビリティ戦略部と具体的な整理を始めたところです。

バイウィル伊佐:まさに今、実務上の精査に真正面から向き合っていらっしゃるのですね。そうした実務上のハードルを一つひとつ乗り越えようとされている姿勢に、貴社の本気度を感じます。

一般的に、SBT認定を受けている企業様の中には、「カーボンクレジットは使えない」と考える方が少なくありません。SBTの厳格なルールでは、あくまで「自社の排出量をどう削減するか」が問われ、オフセット(クレジット購入)は自社の削減実績としてカウントされないからです。

しかし、椿本チエイン様は違いますね。ルール上の数値のみを追うのではなく、自社努力を尽くした上で「それでも削減しきれない部分」に対しても責任を負おうとする。この真摯な姿勢が、今回の再生機とクレジットのパッケージ採用に繋がったのだと感じました。

皆様が感度高く捉えられている通り、「環境に配慮しない企業は選ばれなくなる」というのは、単なる心理的なハードルや社会貢献といった「大義名分」だけの話ではありません。今や、環境にコミットしていない製品を調達すること自体が、取引先にとってリスクとなる。つまり、純然たる「経済合理性」として選ばれなくなる世界が来ているということです。

今後、カーボンプライシングは確実に上昇していきます。価格が上がってから着手する企業は余計なコストを支払うことになります。ぜひこれからも、あらゆる調達の意思決定において、排出量や環境価値を軸に据えた検討を進めていただきたいです。自社努力を尽くした上で「どうしても削減しきれない部分」をオフセットで補う。それは、クレジット創出者(地域など)を支援し、間接的に環境貢献へと繋げることでもあります。その姿勢は、本当に素晴らしいものだと思います。

★IMG_0612 株式会社バイウィル 取締役 CSO 兼 カーボンニュートラル総研 所長 伊佐

「削減貢献量(Avoided Emission)」という新たな視点――自社製品が広まるほど社会のCO2を減らせる価値

バイウィル伊佐:その「環境価値」という視点でぜひ伺ってみたいことがあります。先ほどお話しいただいた「電動シリンダ」についてですが、その卓越した省エネ性能を「削減貢献量」として算定し、IR資料などで外部へ発信されたりはしていますか?

椿本チエイン安東部長:そうですね、非常に重要と認識していますが、外部への具体的な数値発信という段階までは至っていないのが正直なところです。

バイウィル伊佐:これは実は非常に重要な視点です。自社製品のカーボンフットプリントを下げる努力も大切ですが、それだけでは「製品が売れれば売れるほど、自社のスコープ3が増えてしまう」という理不尽な状況に陥ります。しかし、貴社のような高効率な機械製品は、使えば使うほど「お客様側の排出量」を劇的に減らしているはずです。

こうした「世の中の削減を助ける製品」の価値を正しく評価しようという動きが、今世界的に広がっています。WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)などが基準を作っている「削減貢献量(Avoided Emission)」、という考え方です。

自社の排出量とは別に、「自社製品によって世の中の排出をどれだけ減らせたか」を公的に、堂々と主張していく。貴社のシリンダこそ、まさにこの「削減貢献量」を算定し、情報開示として発信していくべき製品だと強く感じました。

製品単体の価値から「企業のサステナビリティを支える仕組み」へ――現場と経営を繋ぐGXソリューションの展望

バイウィル伊佐:この椿本チエイン様の話を伺い、この「再生機+クレジット」というパッケージが持つ真の価値が改めて浮き彫りになったと感じます。
さて、ここまでの議論を踏まえ、最後は富士フイルムビジネスイノベーション様に伺わせてください。今回の取り組みを最初の一歩として、今後この「再生機+クレジット」というモデルをどのように発展させ、お客様のサステナビリティ経営を支援していきたいとお考えでしょうか。メーカーとしての今後の構想や、広げていきたい方向性について、ぜひお聞かせください。

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン川越様:やはり我々の軸にあるのは、この「再生機」という商品そのものです。複合機という枠組みの中で、再生機が持つ環境負荷低減という価値をいかにわかりやすくお伝えし、お客様に共感していただけるかが、重要だと考えています。そこに「カーボンクレジットによるオフセット」を組み合わせることで、企業にとって重要な経営課題となっている「脱炭素」というテーマへの取り組みを後押しするご提案につなげていきたいと考えています。

私たちが大切にしているのは、複合機の入れ替えという身近な取り組みを通じて、お客様  が無理なく環境への取り組みを始められるようにすることです。特に導入や運用の負担を抑えながら、環境負荷の低い再生機とカーボンクレジットを組み合わせることで、脱炭素への取り組みをより身近なものとしてご提案したいと考えています。多くのお客様に、その価値を実感いただければと思います。

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン遠山様:営業の立場から見ると、この取り組みの価値をどのようにお客様へお伝えしていくかについては、まだ発展の余地があると感じています。現在は複合機提案の一環としてご紹介していますが、今後は、企業のサステナビリティ経営を支える取り組みの一つとして位置付け、より広い視点でご提案できる可能性があると考えています。単なる機器の導入にとどまらず、環境負荷の低減や脱炭素への取り組みを支援するソリューションとして価値をお伝えしていくことで、より多くのお客様に共感いただけるのではないかと期待しています。

今回の安東部長のように、経営層を含む環境経営の推進役の方々に対しては、機器の性能や環境性能だけをご説明するのではなく、企業価値の向上やサステナビリティ経営の推進といった、より大きな視点でのご提案が重要だと考えています。

例えば、「環境負荷低減を企業方針として推進し、それを現場の取り組みへとつなげていく」という流れを支援できる仕組みが整えば、お客様にとっても取り組みやすくなるはずです。私自身、営業の立場から、単なる機器提案にとどまらず、環境経営や脱炭素への取り組みを支える仕組みとして、その価値をより多くのお客様にお伝えしていきたいと考えています。

バイウィル伊佐:本日は、椿本チエイン様の環境へ向き合う姿勢、そして富士フイルムビジネスイノベーションジャパン様の「製品価値を再定義する」強い意志を伺うことができ、私自身も多くのポジティブな驚きと学びをいただきました。この「再生機+カーボンクレジット」というモデルが、日本のGXを加速させる確かな一歩になることを確信しています。本日は誠にありがとうございました。(2026年3月5日実施)

 

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