概要

都心部の駅立地を中心とした、SC(ショッピングセンター)事業を営む株式会社ルミネ様。今回、会社として初めて、目標とする未来を起点に今何をすべきかを考えるバックキャスティングという手法で中期経営計画を策定した。策定後は、社員向け共有会の実施や社員・パートナー向けWebページの作成を行った。

ご提供サービス

中期経営計画の策定、共有会の設計

10年後のありたい姿から逆算して作る中期経営計画。現場での施策への落とし込みやすさにも留意

─────今回、中期経営計画をバックキャスティングの手法を用いて描くことにされたと思いますが、この判断にはどういった背景や狙いがあったのでしょうか?

石見様まず背景の部分でいくと、弊社では「お客さまの思いの先をよみ、期待の先をみたす」という企業理念を掲げており、この理念を軸に行動する文化が社員に根付いています。具体的には、「目の前のお客様にもっと喜んでいただくには何をするべきか」を考え、行動するというようなフォアキャスト的な考え方が非常に得意な組織です。

一方で、「フォアキャスト的な考え方で今後も通用するのか」という声が社内からあがっていました。テクノロジーの進化をはじめ、環境変化が非常に速くなってきている中で、現状の積み上げ式ではないアプローチを考える必要性が増していたのです。そこで、フォアキャスト的な考え方ではなく、10年という長期的なスパンでありたい姿を描き、それを実現していくのだと考え方を切り替えて、2019年の夏から検討を開始しました。

総合企画本部 総合企画部 チーフ 石見康太 様

総合企画本部 総合企画部 チーフ 石見康太 様

─────そういった背景で始まったプロジェクトですが、弊社と共に進めていくことをご決断頂きました。我々にはどういった役割を期待されていたのでしょうか?

石見様大きく2点あります。1つ目は、バックキャスティングで中期経営計画を描くことが初めてで、策定のプロセスもこれまで以上に複雑だったので、自社内のリソースだけでは十分な成果をあげられないと考えました。進め方の全体像としては、10年後のありたい姿を描き、そこを起点にバックキャスティングで10年間を3段階に分けて到達基準を定め、直近の3年間について中期経営計画として具体化するという手順で考えていきました。進める中で、関わる社員もフェーズごとに入れ替わりがあるなど、非常に複雑だったと思います。

2つ目は、中計の内容を社員の行動に繋げることです。これまでの中計において、抽象的な上位概念を共有しても、具体の施策に落とし込みきれていない側面があったと思います。そこで、インナーブランディングや組織強化といった領域に強みを持つフォワード(現:バイウィル)さんであれば、社員の行動への落とし込みをより促進できるのではないかと思いました。また、過去にも組織領域でご支援をいただいており、弊社内部の状況についてもご理解いただいていたので相談もしやすかったです。

バックキャスティングによる中期経営計画策定

本プロジェクトは全体で4つのフェーズを通じて支援を行った。まず、フェーズ①では2030年のありたい姿を策定した。次に、フェーズ②では、3ステップの構築ということで、現在から2030年までの10年間を3段階に分け、それぞれ定量目標及び定性テーマを設定した。さらに、フェーズ③では、直近3年間の中期経営計画として具体化を行った。最後にフェーズ④では、社員に向けて中計の共有会を行い、社員・パートナー向けWebページを作成した。

 

”あるべき”ではなく”ありたい”で描いた10年先の事業ビジョン

─────2030年のありたい姿の策定について、どういったプロセスで進められたか、また進められる上で工夫された点を教えてください。

石見様実は、プロジェクト当初は「バックキャストで考えることは本当に必要なのか」「10年後にこう変わるとは断言できないのだから、意味がないのではないか」という声が社内でもあがり、なかなか理解・共感が得られませんでした。そこで、最初は「10年後のあるべき姿」にしていたところから、「10年後のありたい姿」に考えをシフトしました。つまり、今後10年間の社会環境上の変化や社内の変化等を予測し、ある程度は対応するものの、会社としてこうありたいという意思を軸に10年後の2030年を考えることを出発点としました。

とはいえ、どうしても抽象的な概念になってしまうことは否めないので、現場メンバーがより自分事化しやすくなるように策定プロセスに巻き込むことにしました。そのために、弊社ではあまり前例がない公募によるプロジェクトメンバーの選定を行い、5名のメンバーを選出しました。そのようにして現場メンバーを巻き込むことにより、「社員がどういう会社でありたいと思っているか」を上手く反映できたと思います。

フォワード(現:バイウィル)ありたいを軸に進めると、メンバーの意見が拡散してしまい、考えをまとめるのが大変だったのではないかと思いますが、その点はいかがでしょうか?

石見様:色々な方向性の意見が出てきて、議論にもなりましたが、既に浸透している企業理念がメンバーの考えをまとめる際に軸になりました。最終的には、理念をベースに事業を通じて10年間で成し遂げたいこと、そしてルミネとして「ありたい姿」という位置づけで「事業ビジョン2030」を策定しました。


既存のコアビジネスと新規事業のバランスをうまく取って、社員の腹落ち感を醸成する

─────次に、フェーズ②の3ステップの構築について具体的に行ったことと進め方として意識したポイントを教えてください。

石見様3ステップの構築では、フェーズ①で策定した2030年の事業ビジョンを達成するために、今後10年間を直近から3年、3年、4年と3つのステップに分けて、ステップごとに定量目標と定性テーマを設定しました。進め方として注意したポイントは、社員が中計の内容を理解・共感した上でしっかり行動に落とし込んでもらうための「腹落ち感」です具体的には、現在のコアビジネスであるSC事業と、今後伸ばしていく必要のある新規事業の成長スピードを考慮して、3ステップごとにどういったバランスで到達基準を定めるかに気を配りました。

一般的に、既存のコアビジネスと新規ビジネスがカニバってしまうことや、それによって組織内の連携が取りづらくなることはよくあると思います。ルミネの場合、ほとんどの社員がコアビジネスのSC事業に従事していて、売上比率としても9割を占めるなど収益のウェイトも大きいです。その中で、SC事業の深化と新しい事業領域の探索の両方が大事だと発信するように意識しました。例えば、SC事業に重きを置きすぎると、「バックキャスティングという割には今までと変わらない」と思われてしまいますし、新規事業に重きを置くと、SC事業に従事する多くの社員から「私たちの事業や仕事はどうなるのか」と不安視されてしまいます。なので、SC事業と新規事業の成長スピードの違いを踏まえ、両事業のバランスを意識して3ステップの内容を構築していきました。そして、3ステップの内容が固まり次第、直近3年間の中期経営計画の具体化を進めていきました。

 

現場メンバーと共に進めたアクションの具体化

─────フェーズ③の中期経営計画の具体化について、進め方として意識したポイントを教えてください。

石見様フェーズ②の3ステップの構築から続いている話ですが、各事業セグメントに関連する部署と分科会を開いて話し合いの場を持ち、共に3ステップの構築~中期経営計画の具体化までを進めました。各部署のメンバーからの理解・共感を得て実効性を高めたいと考えていたため、現状抱えている課題感など当事者の意見を反映させて、プランの解像度を高めていきました。

また、メンバーが現状の課題に囚われず、2030年の事業ビジョンからのバックキャスティングという視点を持てるよう意識をして準備を行いました。分科会の進行の際に使うフレームワークなどの考え方についてはフォワード(現:バイウィル)さんにも協力を仰ぎました。それにより、分科会当日は活発に意見交換がなされましたし、このプロセスを経たことで、各部署のメンバーの中で納得感が高まり、アクションプランの具体化に繋がったと考えています。

 

伝える相手に合わせた共有プロセスを設計。細かい改善にこだわって、理解・共感を促進する

─────中計の共有会について社員の方の納得感を高め、アクションに繋げていただくために、工夫された点を教えてください。

石見様これまでの中計の共有会との比較でお伝えしますと、前回までは全社員を一律に対象として実施していました。この場合、部署や役職横断で交流する機会になるメリットがある一方で、視座が異なるため議論がかみ合わなくなりやすいというデメリットがありました。今回は、中計の内容をしっかり行動に繋げたいという狙いもあり、グレード(職位)が上位の方ほど、自部署のメンバーに「中計と業務をどう接続するか」を伝えていただく必要がありました。そこで、同じ視座で議論ができるよう、対象者をグレードで分けて共有会を実施しました。グレードが上位の方向けには中計で掲げた全社のテーマを自部署に落とし込むためのワークを行いました。

中期経営計画共有会(実施内容)

 

フォワード(現:バイウィル)石見様が共有会の司会進行を担われたと思いますが、何か気を付けられた点はありますか?

石見様今回は新しい概念が非常に多かったので、丁寧に説明することを意識していました。共有会は複数回に分けて行ったのですが、特に序盤においてはアンケート結果や、共有会の場で直接聞こえてくる声を基に、伝わりづらいと感じた箇所は適宜修正をかけました。フォワード(現:バイウィル)さんにも共有会の場に来ていただき、改善点などアドバイスをいただけて有難かったです。

フォワード(現:バイウィル)ありがとうございます。御社社員や出店されているテナントの方々向けに、中期経営計画を紹介するためのWebページを作成されたとも伺いました。作成に当たり意識されたポイントはありますか?

石見様テナントの方々向けにも、今回発表した新しい考え方や方向性をしっかりご理解いただき、共感していただけるように意識していました。社員の場合は企業理念がかなり浸透しているため、多少言葉足らずの部分があっても頭の中で補完されやすいと思いますが、社外の方の場合、共有している部分が少ないので、より細部まで伝わりやすくなるように配慮してWebページを作成しました。

中期経営計画共有用のWebページ中期経営計画共有用のWebページ 

 

中計が前向きに受け止められたからこそ生まれた社員からの要望。実行のための環境整備は今後の課題

─────最後に、プロジェクトの成果と今後の課題についてはどのように捉えられていますか。

石見様まず成果に関しては、元々あった企業理念ではかなり抽象度が高かったですが、2030年の事業ビジョンや3ステップとして具体化されたことで「将来目指す姿が明確になった」「自分の業務との接続もしやすくなった」という声が挙がっています。特にSC事業については、これまでの延長線上ではなく、バックキャスティングで10年後に提供したい価値から逆算して考えることの必要性を感じ、前向きに取り組みたいという声も多くいただけました。

一方、課題という意味では、中計の内容を業務に落とし込み実行するためのリソースや組織状態が整っていないのではないかという意見もありました。ただ、こういった反応は、社員の皆さんが今回の中期経営計画を真摯に受け止め、実行に移そうとしているからこそ生まれたものだと思います。経営企画としてはこういった社員の声をきちんと受け止めて、より社員が行動に移しやすくなるような環境整備など引き続きサポートしていきたいと思います。

 

─────ありがとうございました。

 

(掲載されている所属、役職およびインタビュー内容などは取材当時のものです)