2015年の春、ベビーカーの高価格帯市場において、一つの驚くべき出来事が起こった。
弊社が「商品企画ワークショップ」の企画運営という形でご支援しているピジョン株式会社のベビーカーのシェア※ が2014年の3%から2015年には12.6%まで大躍進したのだ。※4万円以上の高価格帯ベビーカー群の2月度POSシェア
(2019年6月単月では30.3%まで獲得)
その大躍進を支えたのが、今春発売になった新商品「Runfee(ランフィ)」。
Runfeeは「段差をラクに乗り越えられる走行性」を訴求の中心として、2015年1月より全国で販売開始、2015年3月時点でメーカー出荷が7,000台を突破する大ヒットとなった。
コンビ社やアップリカ社の寡占状況を呈しているベビーカー市場では異例とも言える今回の大ヒットの秘密やRunfeeの開発秘話をブランド担当者にお伺いした。
-早速ですが、もともとベビー生活用品を主軸とする御社での、ベビーカー事業の立ちあがりを教えてください。
大口氏:弊社ベビーカー事業は、会社が進出できていないベビー用品領域に対するチャレンジの一つとして、2004年にスタート致しました。紆余曲折あり、一度は撤退をしたのですが、2008年に再スタートし、2009年くらいからいくつかの商品を売り出すようになりました。
弊社では哺乳びん等の主に室内で使用される小物のベビー用品を得意としていましたが、ベビーカー開発はそれと異なる部分も多く、苦労することも少なくなかったです。
-具体的にはどういったことでしょうか。
具体的には、”お客様のお困りごとは何?”を突き詰めるスタンスで、市場の“穴”を探して商品開発をしておりました。例えば哺乳びん開発を例にとると、「哺乳びんを使うときのママのストレスはなに?」「お手入れを簡単にするためには?」「洗いやすい形状とは?」といった様な考え方です。
ですが、ことベビーカーに関しては既に他社にそのような改良や機能追加はされ尽くしており、なかなか市場の穴を見つけられずにいました。また、メーカー・販売店ともに寡占状態であるため、新しいイノベーションを起こしにくいことも、後発であるピジョンにとっては厳しい状況でした。
-厳しい状況ですね。そのような中で、なぜ弊社に商品企画ワークショップのご依頼をいただくことになったのでしょうか。
町屋氏:先ほどお話したような社内と市場の状況を鑑みるに、これまで通りのやり方を続けていても、事業自体が疲弊していくことがなんとなく予想されていました。つまり、大手との価格競争やスペックチェンジ合戦に巻き込まれていくだろうことが目に見えていたのですね。
そのような状況に陥らないために、何かいい方法はないかと悩んでいた折、フォワード(現:バイウィル)様のお話をお聞きしました。フォワード(現:バイウィル)様の商品企画ワークショップは、消費者を価値観でセグメントした独自のライフスタイルセグメントを使うものでした。
そのセグメントを使うことで、顧客の深層の価値観に基づき、ニーズの半歩先を描けるのではないかと思い、商品企画ワークショップをお願い致しました。
※弊社ライフスタイルセグメント「Flower 2014」
※当ワークショップ当時は、別のライフスタイルセグメントを使用しておりました。
■弊社の典型的な「商品企画ワークショップ」は下記の2ステップで実施
- ライフスタイルセグメントに基づいたリサーチとターゲット選定
- ターゲットを起点とした商品コンセプトの策定
-商品企画ワークショップを振り返っていただく中で、良かった点・悪かった点があれば振返っていただけますでしょうか。
町屋氏:良かった点の一つ目としては、外部リソースを使うことで、プロジェクトに参加する社員の意識が高まったことが挙げられます。いい意味で甘えが排され、また要所で議論の方向性を的確に示して頂けました。
良かった点の二つ目は、ベビーカー市場において「走行性」という独自のポジションを築けたことです。消費者から実際に顕在化しているベビーカーに対するニーズだけを追うのではなく、ライフスタイルセグメントを用いて消費者の“価値観“まで一度遡って考えることで、既存の枠組みに囚われずにニーズの半歩先を描くことができたのだと思います。その結果、「Runfee」のヒットに繋がりました。
また、「Runfee」発売後に実施した調査では、ベビーカーの選択時重視点に走行性関連項目が上位に出現してきました。以前はそのようなことがなかったことを考えると、Runfeeのリリースにより、まさに市場に新しい風を吹かせることが出来たと思います。「走行性」というベネフィットが消費者から高い支持と評価を受けている証拠ですね。
渡邊氏:一方、悪かった点・難しかった点としては、ワークショップの場の設定に関してでしょうか。兼ねてより、研究開発~マーケティングの一貫性も社内で課題とされていたので、ワークショップに参加する社員を、研究開発~マーケティングまでの部署横断になるようにしたのですが、これが大変でした。
特に研究・開発寄りの人になればなるほど、コンセプトメイクの場への参加には苦手意識を持つ人も少なくなく、日程調整やモチベーション担保に気を使いました。
それでも、ワークショップの中で『ブランドを高めていくには、研究・開発~マーケティングまでブランドに関わる全ての人間が消費者や自社ブランドのことを理解し、一貫性を担保することが重要である』ことを共有した後は、参加に対して次第に積極的になり、白熱した議論をすることが出来ました。
-ありがとうございます。最後に今後に向けての課題をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。
大口氏:一番はピジョンブランドの世界観をもっと広めていくことと、ピジョンベビーカーの認知を8~9割まで高めていくことかと思います。
ブランドイメージ面においては、もともとの得意領域であった“ケア商品”的なイメージに加えて、「おでかけの楽しさ」などのイメージをどのように高めていくかがカギになってくるかと思います。
企業概要
<ピジョン株式会社>
「赤ちゃんの幸せを願い、平和で豊かな社会であってほしい。」この願いが社名に込められたピジョン株式会社は、育児・マタニティ事業を中心に保育や介護用品製造・販売も行っており、ヨーロッパやアフリカ、北中南米などにも拠点を置く。半世紀にわたる赤ちゃんの研究を基に多数の高品質商品を生み出し、業界のリーディングカンパニーとして認知されている。
- インタビューご協力者 -
ベビー大型商品マーケティンググループ マネージャー 大口氏
ベビー大型商品設計グループ マネージャー 町屋氏
ベビー大型商品マーケティンググループ 渡邊氏
(掲載されている所属、役職およびインタビュー内容などは取材当時のものです)
*この記事のサービスについて詳しく知りたい方はこちら>>ブランドコンサルティング
担当者の想い
また、案件として、マーケティング領域でも「戦略策定・浸透」のお手伝いが多い当社では珍しい「プロダクト開発」がテーマで、プロジェクトメンバーの皆様と喧々諤々議論をし、固定化した市場に風穴を開けられる商品コンセプトを、まさに「一緒に捻り出した」感覚でした。
発売後、順調にシェアを伸ばされ、今では「二強市場」がピジョン様を入れた「三強市場」になりつつあります。
プロダクトライフサイクルが回るたびに起こる課題が、これから起こったとき、常にお客様に寄り添って解決策を一緒に模索し続けられるパートナーでありたいと思います。