前回の記事では、アフターコロナ時代になぜ中長期ビジョンを描き直す必要があるのか、中長期ビジョンを描き直す上で必要な考え方である「バックキャスティング」と「逆U字モデル」についてお伝えしました。
今回は、前回お伝えした2つの考え方を基に、いかにして中長期ビジョンを言語化し、それを戦略に具体的な形で落とし込むのか、そのプロセスについてお伝えしたいと思います。
中長期ビジョンは定性的なフレーズで終わらせず、定量目標を設定する
まず初めに、皆さんは中長期ビジョンをどのようなものとして捉えているでしょうか。
おそらく多くの方が、ビジョンというと以下のようなものを想像するのではないでしょうか。
・お客様のとってのベストのパートナーになる
・○○業界にイノベーションを起こす
・△△業界のリーディングカンパニーになる など
確かにこれらもビジョンではありますが、機能するビジョンとは言い難いかもしれません。というのも、定性的な面からしかビジョンが規定されておらず、定量的な数値目標が規定されていないからです。
ビジョンの策定において、定量的な目標が設定されていないと、その後具体的な戦略に落とし込んでいくことが難しくなります。当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、できている企業はそれほど多くないというのが実情です。
中長期的な事業ビジョンを策定する際は、定性目標だけでなく定量目標も設定するということが、その後の戦略の作成に具体性を持たせる大前提となりますので、前提としてお伝えさせて頂きました。
中長期ビジョンを描き、それを戦略に落とし込む6つのSTEP
では、実際に中長期ビジョンを描き、それを戦略に落とし込むプロセスについて、お伝えしていきたいと思います。プロセスの全体像は、下記のようになりますので、STEP1から順を追って説明していきたいと思います。
■STEP1:未来予測〜起こり得る変化の整理
STEP1では、「自社業界や周辺業界」「より広いマクロ環境(PEST分析+衣食住遊学働)」「アフターコロナ(ニューノーマル)」の3つの観点から、起こりうる変化・未来を整理します。
マクロトレンドに関するオープンデータなどを参考にしながら、できる限り多くの階層・部署の人を巻き込んだ社内ワークショップを実施し、幅広くキーワード洗い出すことが重要になってきます。
■STEP2:現状分析〜自社の強み・資産の整理
STEP2では、自社が現在持つ強みや資産を洗い出し、「VRIO」の観点で評価します。市場での地位が確立されており、安定的に成長してきた企業は、「希少性」や「模倣困難性」に対する評価が甘く、成長や新規性を追求してきた企業は「組織」に対する評価が甘いことが多い印象がありますので、自社の現状を客観視し、今後も活かせる強みを明確にすることが重要になってきます。
*「VRIO」とは、「Value(経済価値)」「Rarity(希少性)」「Imitability(模倣困難性)」「Organization(組織)」の頭文字を取ったものであり、市場における競争優位性を把握する時に用いるフレームワークです。
■STEP3:事業アイディアの発散〜過去に縛られない未来思考
STEP3においては、「未来予測」「現状分析」で洗い出したキーワードの組み合わせを用いて、「誰に?」「どんな価値を?」「どんな手段で?」を明確にしながら、事業アイディアを発散していきます。
アイディアの発散時に、既存の枠組みにとらわれない(過去のパラダイムから抜け出す)ためには、考えやすいものを選ぶのではなく、決めたキーワードから強制的にアイディアを発想することが重要です。また、できる限り多くの階層・部署の人を巻き込んで、視点や思考の偏りをなくした上で、幅広くアイディアを発散することも大切です。そして、この時点では実現可能性を問わず、「こうありたい」という意思を尊重するように心掛けます。
■STEP4:事業ビジョンの言語化
STEP4では、STEP3で発散した事業アイディアの抽象度を上げて、事業ビジョンを言語化していきます。
まず、事業ビジョンを定性的に言語化する前に、事業アイディアの取捨選択を行います。これには大きく2つのパターンがあります。
- 長期的な定量目標が既にある場合
事業目標の達成が見込まれるであろう市場規模と市場収益性を担保している領域に属する事業アイディアだけを残します - 長期的な定量目標がない場合
市場規模と市場成長性を意識しながら、自分たちの意思で将来像を設定し、それに適した事業アイディアに絞り込みます
このようにして絞り込まれた事業アイディアに対して、今度はグルーピングとキーワード化を行います。「提供価値(どんな価値を)」と「提供手段(どんな手段で?)」の共通性を軸にグルーピングを行い、その内容に合わせていくつかのキーワードに抽象化します。そして、それらを要素として最終言語化します。
■STEP5:事業ビジョンの具体化
STEP5では、言語された事業ビジョンに対して、「領域(どこで)」「商品・サービス(何を)」「ビジネスモデル(どのように)」「定量目標(どのくらい)」を具体的に定義していきます。
その際、「実現可能性」「市場ポテンシャル」「強みの活用」の観点を意識しながら、各事業の具体化を行います。
■STEP6:戦略への落とし込み
STEP6では、事業ドメインごとに、「定性的なテーマ」及び「定量目標」を10年先の中長期ビジョンに向けた3年スパンで設定します。
その上で、直近3年間程度を目安に、上記の目標を達成するためのKPIや部署別の重点課題・アクションプランレベルまで落とし込みます。
アウトプットの形としては、いわゆる「中期経営計画」に落とし込むことも可能です。
以上が、中長期ビジョンを描いて、それを戦略に具体的に落とし込んでいくための全ステップになります。
簡単に総括しますと、あるべき未来の姿から逆算するという「バックキャスティング」の考え方と、個別具体的なキーワードの組み合わせから抽象度を上げて未来を発想し、その後もう一度それを具体化するという「逆U字モデル」の考え方に基づいた上で、領域・ビジネスモデル・定量目標を明確にし、定性・定量の双方から事業ビジョンを定義することで、具体的な戦略への落とし込みが可能になります。
アフターコロナ時代だからこそ必要になる、中長期ビジョンの描き方と戦略への落とし込みについて、少しでも皆さんに有意義な情報を提供できていれば幸いです。
個社ごとのご状況・ご要望に合わせて、部分的なサポートも承ります。実際に、以下のようなご要望をいただいております。
- ビジョンを描きなおす部分を相談したい
- ビジョンは明確なので、戦略に繋げるところを相談したい
- 新規事業立案に活用したい
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