昨今、企業の求心力となる「理念」の浸透を強化しようとする動きが多く見受けられます。それには下記のような背景があるのではないでしょうか。

  • 「ニューノーマル」とも呼ばれる生活様式や消費行動の変化により、事業の在り方やビジネスモデルを変革する必要に迫られる中で、改めて企業の根幹である「理念」に目を向ける企業が増えている
  • リモートワークが定着しつつあるいま、社員間のコミュニケーションや顔を合わせるリアルイベントの機会が減っており、社員の一体感や会社への帰属意識の希薄化が懸念されている

そこで、「理念」に対する社員の共感を生み出し、社員一人ひとりの意識・行動のベクトルを揃えるため、「理念浸透の仕組み」を整えていく具体的な手法について、皆様にお伝えできればと思います。

そもそも「理念」とは?

理念浸透の仕組みを整備する具体的な手法について説明する前に、「そもそも理念とはどういうものか」からお伝えしたいと思います。

理念の定義は様々ですが、弊社では「この企業は何のためにあるのか?という使命や存在理由を明文化したもの(=ミッション)」と定義しています。また、ミッションと併せてよく用いられる「ビジョン」と「バリュー」はそれぞれ下記のように定義しています。

ビジョン:ミッション実現に向けて、会社が中期的(3〜10年)に目指す姿

バリュー:何を大切にしながら、ミッション・ビジョンを達成するのか?という、社員に求められる思考や行動の判断基準

これら3つの概念「ミッション」「ビジョン」「バリュー」は、個別で捉えるのではなく、一貫性と連動性を持たせた整理が必要になります。仮にこれらの概念の中で、パーツ不足や接続不良などがあると、組織の歪みが生じてしまいます。実際、多くの企業を見ていても、「理念(ミッション)」が存在しない企業はほとんどありませんが、「ビジョン」や「バリュー」が欠けている企業は意外と多い印象があります。また、それぞれの概念の関係性が明確でなかったり、社員から見るとそれぞれがバラバラのものとして捉えられているという声もよく聞きます。そこで理念浸透を確実に進めるためには、下図のような体系を整備することが重要になります。

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このブログでは、特に「社内浸透」の左側である、「バリュー・行動指針」を始めとした理念体系を「組織の仕組み」に落とし込む方法に焦点を絞ってお伝えします。

バリューの果たす役割と策定の考え方

まず、「バリュー・行動指針」は組織においてどのような役割を果たすものでしょうか。バリューは先述したように、ミッション・ビジョンと接続したものであるべきですが、それに加えて、バリューに基づいた行動の結果、会社の成長や成果に繋がるようなものでなければなりません。

そのため、バリューの策定を行う際には、ミッションやビジョンの実現に向けて「変えないもの・守るべきもの」と「変えるもの・創り出すもの」の要素を洗い出した上で、その要素が「会社の競争優位に繋がるのか?」の検証を行い、集約された要素の言語化を行うことが重要です。

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理念浸透を進める上でのポイント

ここからは「バリュー・行動指針」を始めとした理念体系をどのように浸透させていくかについて、具体的なポイントを挙げて説明していきます。

まず、理念浸透を図る上では、障害となる“3つの壁”が存在します。1つ目の壁は、そもそも理念体系の存在を知らない、内容を理解できていないという“認知・理解の壁”です。2つ目の壁は、理念体系を認知しているが、普段特に意識しておらず、行動変化のモチベーションになっていないという“共感の壁”です。3つ目の壁は、理念体系に共感し、行動変化のモチベーションにもなっているが、具体的な業務と結びついておらず実際に行動は変わっていない“行動の壁”です。

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理念浸透を図る際には、これら“3つの壁”を超えていくことが重要になります。以下で、それぞれの壁を超えるポイントを解説します。

1. “認知・理解の壁”を超える

“認知・理解の壁”を超えるためのポイントは、「本気度の伝達」「多頻度接触」です。「本気度の伝達」とは、全社員共有会の実施や、トップの発信・コミットメントを通して、理念浸透が会社にとってどれだけ重要な取り組みであるかを伝えることです。「多頻度接触」とは、各種ツール作成(カード・ポスターなど)や各種メディアでの発信(社内報)を通して、理念体系を可視化し、とにかく目に触れる頻度を増やすことになります。

2. “共感の壁”を超える

“共感の壁”を超えるためのポイントは、「重要性と魅力の訴求」です。ムービー制作や表彰制度の設計〜運用を通じて、理念浸透が会社や自分にとってどれだけ重要で魅力的な取り組みであるかを伝えることが鍵になります。

3. “行動の壁”を超える

“行動の壁”を超えるためのポイントは、「業務との接続」「人事制度との接続」です。「業務との接続」とは、職場ワークショップの実施などを通じて、ミッション・ビジョン・バリューが個々人の業務とどのように繋がっているかの理解を促すことです。また「人事制度との接続」とは、評価制度との接続などを通じて、ミッション・ビジョン・バリューに沿った行動がきちんと評価される仕組みを整備することになります。

 

以上が、“3つの壁”を超えるためのポイントですが、これとは別に、社内コミュニケーションのチャネルを整理することも大切です。
「いつ」「どこで」社内コミュニケーションが行われているかを洗い出し、接触頻度の高低を踏まえた上で、継続的な訴求を促せるような設計を行うことが必要です。また、場合によっては、自部署だけでなく、他部署管轄のチャネルも洗い出して、理念浸透に関するコンテンツを組み込むことも有効です。

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コロナにおいて、浸透手法がどのように変わったのか?

Withコロナの時代においては、従来のオフラインだけでなく、オンラインコミュニケーションによって「組織の仕組み」を担保する必要があります。このとき重要なのは、仕方なくオンラインで代替するのではなく、オンラインの特性を活かしてより効果的な浸透活動を行うことです。

では、オンラインとオフラインではどのような違いがあるのでしょうか?まず1つ目の違いとして挙げられるのは、オンラインはオフラインと比較した時に、「空間的・時間的制約」を受けにくく、「実施コスト」も抑えやすいということです。そのため、浸透活動を高頻度で実施することが可能になります。オンラインであれば、どこでも・好きなタイミングで(ライブだと別ですが)コンテンツを見ることができます。そのため継続性を担保しやすく、浸透活動にありがちな「つくりっぱなし・やりっぱなし」を防ぎやすくなるというメリットがあります。

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ちなみに、高頻度での実施を有効に機能させるために必要なことが2つあります。それは「小単位での実施」と「コンテンツ自走の仕組み」です。「小単位での実施」に関しては、オンラインが時間・空間・コストの制約を受けにくいとはいえ、浸透施策の対象を広げすぎると実行難易度が上がってしまいます。部署や役割、拠点などが全く異なる人たちを集めると、その分持っている背景情報やニーズがバラバラになるため、伝えたいメッセージがぼやけてしまいがちです。また人数が増えれば増えるほど、時間の調整も難しくなるでしょう。そのため、部署単位・チーム単位での施策を行ったり、また個人がいつでも見られるコンテンツなどを増やすなど、「小さく×多く」を心掛けることが必要になります。

「コンテンツ自走の仕組み」に関しては、経営企画・広報・ブランド担当部署など複数部署横断でコンテンツ生成を行う仕組みや、社員からボトムアップで簡易にコンテンツが生まれる仕組みをつくることが理想です。コンテンツ作成の負担は大きいため、浸透を担当する部署のみが担うとスケジュールも遅れがちになりやすいです。複数部署でコンテンツを作成する仕組みを整えれば、より多くのコンテンツを短い時間で生み出すことができますし、他の部署にも浸透活動に対する当事者意識を持ってもらいやすくなります。



次に、オンラインとオフラインの2つ目の違いとして挙げられるのは、オンライン環境はオフライン環境と比較したときに、コミュニケーション(受け手からの発信)のハードルを下げてくれるという点です。オンラインであれば、講師が自分の目の前で話しているような臨場感を感じやすいです。またオフラインだと消極的になりがちな質問や感想も、チャットや投票といった機能を利用することで活性化させやすいです。そのため、「双方向性」を担保したコミュニケーションが可能になり、浸透活動にありがちな「やらされ感・受け身の姿勢」になることを防ぐことができます。

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まとめると、オンラインの特性を活かすには下記2点を意識することが重要です。

  1. 「空間的・時間的制約」を受けにくく「実施コスト」を抑えやすいため「高頻度」での展開が可能
  2. コミュニケーションのハードルが下がるため「双方向性」を担保したコミュニケーションが可能

 

変化の激しい今だからこそ強化したい「理念浸透」の進め方、というテーマで皆様にお伝えしたかったことは以上になります。「バリュー・行動指針」を始めとした理念体系を浸透させていくためのポイントは、浸透の3つの壁の存在を認識し、それを乗り越えることでした。

  1. 認知・理解の壁:そもそも理念体系の存在を知らない、内容を理解できていない
  2. 共感の壁:理念体系を認知しているが、普段特に意識しておらず、行動変化のモチベーションになっていないという
  3. 行動の壁:理念体系に共感し、行動変化のモチベーションにもなっているが、具体的な業務と結びついておらず実際に行動は変わっていない

いかがだったでしょうか。

 

さて、最後にコロナ禍においてオンライン上で行動指針の浸透活動をご支援させていただきました事例を簡単に紹介いたします。

東亜建設工業という総合建設会社様ですが、新しい行動指針を策定され、その浸透活動に向けた「共有ミーティング」をオンライン上で行いました。実は、オンラインによる全社規模のイベントは初めてでいらっしゃったのですが、約1,600名もの社員の方々を巻き込み全12回で開催するという非常にチャレンジングなお取組みをされています。

下記リンクからご覧いただけますので、ご興味ある方はお目通しいただけると幸いです。
https://www.forward-inc.co.jp/works/toa-const_2

 

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