バイウィル 代表取締役CSO 兼 「バイウィル カーボンニュートラル総研」所長の伊佐です。

私たちは、日本に最適化された脱炭素のセオリーを構築し、提言することで、日本のカーボンニュートラル実現に貢献することを目指しています。

カーボンニュートラルの実現に向けて、多くの関係者を巻き込んだ具体的なアクションを推進していくためには、「先進諸外国の脱炭素の手法を取り入れること」ももちろん重要ですが、産業構造や環境の異なる国に倣うだけではなく、「日本に適した脱炭素への道筋を見つけること」もまた必要であると考えているためです。

本ブログでは、「再生可能エネルギーの導入目標」を切り口に、「日本に最適な脱炭素推進の在り方」についての見解を述べてまいります。

COP28で合意された「化石燃料からの脱却」

2023年11月30日から12月13日までアラブ首長国連邦(UAE)のドバイでCOP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議)が開かれました。
 
多くの議論がなされ、各国から立場、状況、意図を踏まえた様々な意見が出されましたが、その中でも最大の成果は、史上初めて「2050年までにネット・ゼロを達成するために、公正かつ秩序だった方法で、エネルギー・システムにおいて化石燃料から脱却していく。この重要な10年にその行動を加速させる」という内容が明記されたことでしょう。
 
COP28での合意内容のポイントを簡単にまとめると、下記のようになります。
  1. 2050年までに「脱化石燃料」を実現させる
  2. 重要なターニングポイントである2030年(頃)までの10年間で、その具体的アクションを加速する
  3. その結果として、気温上昇を1.5度以下に抑えるという目標を達成するために必要な削減水準は「2019年比でGHG排出量60%削減」(※)
    (※)2023年4月に発表されたIPCC第6次評価報告書(AR6)で示された内容。この削減水準が明記されていることが重要。

大陸国とは異なる特性をもつ日本が、国の総力を挙げて脱炭素アクションを加速させるために

COP28では、上記の合意に伴って、「世界全体の再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍にする」という目標が示されましたが、私は、ここに日本にとっての「大きなハードル」があるのではないかと感じています。
 
日本のエネルギーミックスに占める再生可能エネルギーの比率は、いまだ2割程度に過ぎず、そのうちの4割は水力発電です。
 
日本では、東日本大震災直後に導入された日本版FITにおいて「高価格での買い取り」を行うなど、10年以上にわたって、再生可能エネルギーの導入が可能な限り推進されてきましたが、再生可能エネルギーの比率は1割強の伸びに留まっているのです。
 
つまり、「再エネ容量を2030年までに3倍にする」という目標を達成するには、FIT導入以降の発電量に対して2倍の再生可能エネルギーを、その7割ほどの期間で導入しなくてはならない、ということになります。
 
おそらく、日本は、これまでと同様に、導入しやすい太陽光発電や洋上風力を急拡大させることを目指すのではないかと思います。
しかし、太陽光発電の大量導入はエネルギーの安定性を脅かします。
また、洋上風力についても、浅瀬が少なく、台風が巨大化し、大地震すら想定される日本沿岸で、大量導入を図ることには大きな懸念を覚えます。
 
当然ですが、再生可能エネルギーの発電容量を高めていくこと自体は非常に重要です。
しかし、再生可能エネルギー資源が豊富な大陸国と同じ目標を、同じスキームで追いかけることは、日本に大きなリスクと財政負担をもたらす可能性があるように感じます。
 
ここからの5年、10年で日本が見据えるべきは、「日本のエネルギーミックス、日本の産業構造、日本の再生可能エネルギー資源の特性に合わせた、日本にとって最適な脱炭素目標とその達成セオリー」なのではないでしょうか。
 
日本の再生可能エネルギー資源は大陸国ほど豊かではありません。
また、産業構造としても、製造業や流通業などの多排出産業の比率が高く、中堅中小企業の数も非常に多いという特徴があります。
 
いわゆる大企業やその主要サプライヤーの「自助努力による削減活動」を期待するだけではなく、それと並行して、中堅中小企業、さらには個人に至るまで、「国の総力を挙げた脱炭素アクション」を促進しなければ、COP28で定められた目標を達成することは、難しいのではないでしょうか。
 
そして、「国の総力を挙げた脱炭素アクション」の鍵を握るひとつの要素は、「カーボンクレジットの活用」と、それによる経済価値と環境価値の循環を促進させることにあるのではないかと考えています。
 
確かに、再生可能エネルギー開発の促進、設備投資によるエネルギー効率の飛躍的な向上など、いわゆる「自助努力による削減活動」を先行させ、「その後でなければクレジット活用によるオフセットをすべきではない」とする論調は根強くありますし、「カーボンクレジットに依存すると、排出量削減アクションが加速されないのではないか」という懸念も理解できます。
 
しかし、現在の日本のエネルギーミックスや産業構造をもとに考えると、「2050年までの脱化石燃料実現」を目指すためには、大企業やその主要サプライヤーのアクションだけでは限界があり、「国の総力を挙げたアクション」は必ず必要になるでしょう。
 
そのために日本は、「中堅中小企業や個人に至るまで、国の総力を挙げた脱炭素アクションの加速を実現するような、経済価値と環境価値循環のメカニズム」を作るべきであり、それに資するようなカーボンマーケットルールの整備することが大切だと考えています。