カーボンクレジット市場が、東証だけではなく東京都で始まったのは3月のこと。
オープンして約2か月あまり、どういった活用がされているのでしょうか?
中小企業でもカーボンクレジットの取引をしやすくすることを目的とされた「東京都カーボンクレジットマーケット」について、バイウィル カーボンニュートラル総研の森 英哲が考察します。
そもそも、東京都カーボンクレジットマーケットとは?
2025年3月25日、「東京都カーボンクレジットマーケット」がオープンしました。
開始から1か月半経ったものの、売買はまだ成立しておらず(2025年5月16日時点)、開設の目的である「中小企業によるカーボンクレジット取引の活発化」には繋がらないのでは、という意見もあります。
この点、当該マーケットの開設は、それ単体で中小企業の脱炭素を加速させるのは難しいものの、実現可能性を向上させるポジティブな取り組みだと考えています。
中小企業が気軽にカーボンクレジットを購入でき、口座を持たない企業でも将来へ備えて気軽に保有できるようにすることを目的にオープンしました。
取扱商品はJ-クレジットや海外のボランタリークレジットで、サイト上のクレジット情報は非常に充実しています。
また、クレジットの口座開設は不要で登録料や管理料等も無料、クレジットをトークン化して取引することができ※、購入後はオフセットや二次販売も可能です。
※一部の取扱いクレジットについては、オフセット証明書を発行して交付
日本国内における取引市場の動向
日本ではカーボンクレジットの流通量自体が海外市場よりも少なく、取引にあたっても、J-クレジットの政府入札を除くと相対取引が主流なことから、最近まで取引市場が十分に普及していませんでした。
しかしながら、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、2026年度からGX-ETSが本格稼働することも踏まえ、最近は国内におけるクレジットのニーズ拡大を見据えて取引市場の設立が活発化しています。
クレジットの取引参加者は、流動性の高さや付随価値の反映など、両立が難しいニーズを持っており、単一の市場でこれらをかなえるのは困難です。そうした中で、本件含めて特徴の異なる複数の取引所が立ち上がるのは非常に有意義だと考えています。
下表では、弊社で利用させていただく機会が多い2つの市場との比較をまとめています。
中小企業の脱炭素機運が高まれば、必要不可欠な存在に
それでは、東京都カーボンクレジットマーケットの開設で、中小企業の脱炭素アクションは劇的に進んでいくのでしょうか。
「中小企業の脱炭素加速」の本質は、中小企業が脱炭素に取り組むメリットと、その実現可能性、両者の追求にあると思います。
この点、東京都カーボンクレジットマーケットの開設は、クレジットの認知や取引量の向上に資する取り組みで、実現可能性の向上に繋がります。
一方、脱炭素やカーボンクレジット取引へのメリットを十分に感じられていない中小企業も相応にあり、そうした実態が開設1か月半で売買未成立の状況に繋がっているのではないでしょうか。
今後は、サプライチェーン全体でCO2削減に取り組む大企業からの要請や、環境に対する取り組みの自社ブランド化など、CO2削減に向けた目的やメリットも生まれて中小企業の脱炭素機運も高まるはずです。
そうした状況になったとき、手軽に・安全に取引が開始でき、二次販売も可能な東京都カーボンクレジットマーケットは中小企業、ひいては日本におけるクレジット取引活発化のエンジンになるかもしれません。