サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基準に準拠した先行開示事例が登場し始めました。いち早く、情報開示にSSBJ基準を取り入れる動きは、加速するものと思われますが、改訂に向けたプロセスが進められているGHGプロトコルは、どのように取り入れられていくのでしょうか。
本稿では、GHGプロトコルのスコープ2排出量に関する今後の開示の方向性を、改訂の議論のなかでも注目されるアワリーマッチングを起点に考察します。
現状のGHGプロトコルの課題
ISSB基準では、GHG排出量の開示にあたり、GHGプロトコルのコーポレート基準に準拠することが求められています。SSBJ基準もこの方針を継承しており、日本企業がグローバル投資家から評価を受けるためには、GHGプロトコルに沿った測定が不可欠です。他方、参照することが求められている現行のGHGプロトコルのスコープ2ガイダンスには、次のような課題が指摘されています。
- 1年間の総発電量と総消費量を相殺するため時間的整合性に欠け、夜間に消費した電力を昼間の太陽光証書で「ゼロ」にできてしまう
- 需要と供給のリアルタイムな一致を促すインセンティブが働かない
次は、こうした課題の指摘されているGHGプロトコル改訂の動向に触れます。
GHGプロトコル スコープ2ガイダンス改訂の進捗
2027年末を目途とし、スコープ2ガイダンスの改訂に向けたプロセスが進捗しています。2025年10月から行われたパブリックコンサルテーションでは、年単位での算定(アニュアルマッチング)は、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の発電時間帯と需要時間帯が合致しておらず、入手可能ななかで最も短い時間間隔とするのが望ましいとの考え方が示されています。この対応として、マーケット基準では、1時間同時同量(アワリーマッチング)、供給可能性(デリバラビリティ)が推奨、又は必須となる可能性が生じています。
アワリーマッチングのもたらすもの
現状のスコープ2ガイダンスでは、需要と供給のリアルタイムな一致を促すインセンティブが働きにくいことを説明しましたが、アワリーマッチングの導入は変化を与え得るのでしょうか。パブリックコンサルテーションでは、時間単位の価格シグナルは、電力網の完全な脱炭素化に大規模に必要となるエネルギー技術に対する財政的インセンティブを生み出す可能性があるとしており、エネルギー貯蔵、クリーンエネルギー、デマンドレスポンス(DR)がこの例として挙げられています。
ここで注目したいのは、エネルギー貯蔵としての系統用蓄電池です。太陽光に併設される蓄電池については、太陽光が発電できない時間帯を補完することがイメージしやすいですが、独立して設置される系統用蓄電池についても再エネ電源により充電したことが証明できるルールのもとで役割が明確化され、アワリーマッチングでの活用が期待されます。
この実効性を確保する上では、充電元として確保している再エネ電源が、電力需給バランスに伴う出力制御や、地域の送電容量不足に起因する系統混雑によって、供給制限を受ける可能性に留意することが必要になります。
特に太陽光発電が集中するエリアでは、再エネが余剰となる時間帯ほど送電制約も顕在化しやすく、特定の電源のみに依存した調達にはリスクが伴います。アワリーマッチング下で蓄電池が役割を全うするためには、多角的な調達手段をあらかじめ備えておくことが不可欠といえます。
基準に基づく開示をエネルギー調達戦略の再構築に
SSBJ基準に基づき、今後も情報開示を進める企業は増加していくことでしょう。他方、このSSBJ基準においては、法域の当局又は企業が上場する取引所が、温室効果ガス排出を測定する上で異なる方法を用いることを要求している場合、当該方法を用いることができることにも留意が必要です。
具体的にはスコープ1、スコープ2排出量の測定において、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づく算定値の使用が許容されており、GHGプロトコルとは異なり、同法のSHK制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)ではアワリーマッチングを求める議論には至っていません。
他方、先行してSSBJ基準に基づき開示を行い始めている企業があるように、GHGプロトコル改訂における将来的な厳格化を先取りし、時間単位のデータ収集基盤を構築する動きが予見されます。
単なる計算の精緻化を目的とするのでなく、蓄電池の導入やデマンドレスポンスといった、実効性を担保できるようエネルギー調達戦略そのものを再構築する契機となる可能性もあり、産業構造の変化を占うためにも、GHGプロトコル改訂を注視していく必要があるのではないでしょうか。
