2025年8月29日、「カーボンニュートラルと地域活性の両立へ~プライム上場・三機工業が実践するJ-クレジット活用」と題した弊社主催セミナーが開催されました。ゲストに、三機工業株式会社(以下、三機工業様)サステナビリティ推進部長である高木禎史氏を迎え、J-クレジット導入に至るプロセスや、どのように社内で合意形成していったかなど、具体的に紹介していただきました。

さらにパネルディスカッションでは、参加者からのリアルな質問に率直に答えていただき、より実践に役立つセミナーとなりました。本記事では、このセミナーの重要なポイントを整理してレポートします。

目次

 はじめに。なぜ今、J-クレジットが求められるのか? 

1部では弊社執行役員 サステナビリティ事業本部長の齋藤から、J-クレジットの市場動向をはじめ、導入を検討する際に必要となる前提知識について解説しました。

 CO2排出量削減の義務化、2026年4月に迫る。対策は急務! 

2026年にGX-ETSの第2フェーズが開始、年10万トン以上のCO2を直接排出している企業(300400社)に対して、目標排出量の削減が義務化されます。そして政府は企業ごとに排出枠を割り当て、排出量が目標を超過する場合は対策が必要になります。具体的には、同制度の参加企業から排出枠を超えた余剰分を購入するか、もしくはJ-クレジットを調達するかの2つです。

こう解説すると不足分のJ-クレジットを購入して解決するのだから、大きな問題ではないと思われるかもしれません。しかし、齋藤は「そう容易に調達できない可能性が高い」と強調します。当社のクレジット需要量予測では、今後J-クレジットの価格が高騰し、入手困難になる未来がすぐそこに迫っていると分析するからです。

 1年で23倍に高騰!J-クレジット価格高騰と入手困難のリスク 

5,000事業を対象にした環境省の調査では、排出量1トンのCO2を削減するための設備費用は16,451円でした。ただし、これは初期導入時の費用。その後も同様の効果を求めるなら、より高度な設備を導入しなければ効果は年々減少するといわれています。


その点、再エネ(電力・バイオマス・熱)・省エネ系のJ-クレジットの市場価格は、現在5,0006,000円程度と設備導入した場合に比べ、かなり安価です。ただ20247月と比べると約23倍の価格です。約1年程度でこれほど高騰したのは、2030年に向けて企業の購買活動が活発化しているからと考えられます。今後、価格高騰リスクはさらに高まり、2030年には2万円程度にまで達するという分析もあります。

上昇傾向にある再エネ・省エネ系のJ-クレジットの市場価格(セミナーで利用したスライドより)

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今後、CO2削減目標はより厳しくなると想定されます。また罰則も設けられます。そうなると、排出枠を他社から入手するのは困難になるでしょう。なぜなら、「余った排出枠を、来年度の自社のために残す」というバンキング制度が認められているため、排出枠の取引そのものが少なくなると考えられるためです。

すなわち、今後、J-クレジットの「価格高騰」と「入手困難」という2つのリスクが想定されるのです。

森林クレジットなら、お金だけではなく地域貢献という役割も果たす

一方、再エネ・省エネ系のJ-クレジットと比較し、森林クレジットは現状、東証市場においても売買があまり盛んではなく、相対取引が中心の商品です。

相対取引価格は10,000円~15,000円で安定しており、「脱炭素」だけでなく「生物多様性」さらに「地域創成」に貢献できるという高い付加価値が特徴です。さらに、森林経営や林業は、事業の継続性等の課題に直面しているという実情から、森林クレジットの購入はこれらの社会課題解決につながる点からも注目されています。

そこで、バイウィルでは森林クレジットを長期的に購入し、地域支援をしながら、自社の脱炭素活動にも役立つというスキームを推奨しています。

株式会社バイウィルが推奨する森林クレジット活用スキーム(セミナーで利用したスライドより)

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実際に森林クレジットを活用することで、創出元の活動を支援する事例は、今回登壇いただいた三機工業様以外にも近年増えています。

弊社プレスリリースより:秋田県由利本荘市、三菱食品、バイウィルが J-クレジットを活用したカーボンニュートラルに関する 連携協定を締結

「カーボンニュートラルは『攻めの経営』の手段」と語る三機工業株式会社

三機工業様はカーボンニュートラル実現のために地域林業支援という形で、北海道陸別町とバイウィルの三者連携協定を締結しました。

弊社プレスリリースより:三機工業、陸別町、バイウィルが森林J-クレジットに関する連携協定を締結

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ポイントは、森林クレジット購入について8年間という長期契約を選択したことです。ここからは三機工業株式会社サステナビリティ推進部長である高木禎史氏が語った森林クレジットの選定理由やその背景などについてご紹介します。

 事業活動を通じた脱炭素社会への貢献は、経営理念と合致 

三機工業様は総合エンジニアリング会社です。創業100周年のコーポレートメッセージとして「人に快適を。地球に最適を」を掲げ、まさに脱炭素社会への貢献を重要課題の1つに掲げています。

高木氏は「当社は事業としてエネルギーを使う設備を扱っているため、脱炭素社会への貢献は重要課題であり、常に何か活動をしなければという強い想いがある」と話します。森林J-クレジットの購入は、社会情勢の変化や他社の動きに関係なく、カーボンニュートラル宣言を実現するためにも重要な選択肢だったのです。

 三機工業株式会社Webサイト経営理念ページよりhttps://www.sanki.co.jp/corporate/philosophy/) 

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「エンジニアリングをつうじて快適環境を創造し、広く社会の発展に貢献する」という経営理念をもち、2022年にはカーボンニュートラル宣言を公表。積極的に脱炭素活動に取り組んでいます。

 積極的に脱炭素に取り組む、独自の「SANKI YOUエコ貢献ポイント制度」

 三機工業様の温室効果ガス排出量は、スコープ1(直接的排出量)とスコープ2(間接的排出量)が全体の1%未満で、80%以上がスコープ3(原材料仕入れ・販売後の排出量)のカテゴリ11(販売した製品の使用)でした。高木氏はスコープ3カテゴリ11を「エネルギー使用設備のエンジニアリングを生業とする私たちにとって、もっとも注力すべき削減ポイントだと捉えました」と話します。  

 このような現状からスコープ3カテゴリ11の削減施策として実施しているのが、 「SANKI YOUエコ貢献ポイント制度」です。まず三機工業様がお客様に省エネ設備導入の提案を行い、採用された場合にその省エネ設備によるCO2削減量に応じ
て、植樹・育樹などの環境保全活動を支援する制度です。 

 三機工業株式会社WebサイトSANKI YOUエコ貢献ポイントページより
https://www.sanki.co.jp/sustainability/sanki-you-eco-point/

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お客様の省エネと三機工業様の環境保全活動の両方から、社会貢献できる制度です。

もともと積極的に行ってきたこの独自の取り組みが、森林クレジットの購入により自然環境の保全にも役立つという点で非常に親和性があり、森林クレジット導入の後押しにもなったのです。

 義務ではなく自発的かつ前向きに。8年間の長期契約で「攻め」の戦略

三機工業様の事例で、特徴的なのは、「義務だから」ではなく、自発的かつ前向きに脱炭素に取り組まれている姿勢です。実際、参加者からの質問で「カーボンニュートラルは守りの経営戦略か?それとも攻めか?」という質問に、高木氏は「攻め」だと即答されました。

理由は前述のとおり、カーボンニュートラル自体が三機工業様にとって経営理念の根幹につながっているからです。ぶれることのない姿勢が、社内での合意形成や活動のスピード感にもつながっていると考えられます。

また三機工業様は、今回の森林クレジットの購入に関して8年間という長期契約を選択。これは三機工業様と陸別町様側の両方に大きなメリットがあります。三機工業様にとっては単価を固定できることで将来的な価格高騰に対するリスクヘッジになり、陸別町様にとっては長期に渡る安定収入が確保できるというメリットです。関係者にとってウィンウィンになる攻めの戦略であることは間違いないでしょう。

 社内合意を勝ち取る、3つの説得材料 

三機工業様では、J-クレジット導入に関して、社内のサステナビリティ委員会を活用し、さまざまな議論を行いました。そこでは、同じ状況で多くの企業の担当者が直面するような反対意見も多数出たそうです。どのように乗り越えられたのか、重要なポイントを3点に整理してご紹介します。

 ①購入費用:「価格高騰」「入手困難」のリスクヘッジで納得 

カーボンオフセットは、会社の収益に直結しないため“コスト”と見なされるケースがあります。コストと見なすと「最小限の負担に」という反対意見にもなりえます。高木氏は対策として、価格高騰リスクと入手困難リスクについて詳細な資料をつくり、とにかく丁寧に説明したといいます。

「購入を決断するのが難しいのと同様に、逆に“購入するな”という意見の明確な理由を述べるのも実は難しい。だからこそリスクについて丁寧に語り、納得してもらうことがもっとも効果的でした。実際に三機工業様の社内でも2つのリスクの理解と共に反対意見は収束しました。

 ②購入意義:「お金の解決」ではなく「本質的な貢献」 

「お金で解決しようとしているのではないか」という、レピュテーションリスクもあります。この点については、森林クレジットの選択が重要でした。再エネ・省エネ系のクレジットの購入は金銭解決との印象はあるかもしれませんが、実際にCO2を吸収する森林クレジットの購入をするのであれば、脱炭素に対する本質的な貢献につながるという考えからです。

三機工業様が当初、さまざまなJ-クレジットについて調べた結果、「どうしても自社の取り組みで削減できない部分はカーボンオフセットを選ぶが、その際には“CO2を吸収する”という手段を選ぶ」という軸を明確にした上で進めたことが選択の軸になりました。

 ③外部環境:2026GX-ETSの本格導入が購入を後押し 

「今、クレジット購入が必要なのか?」「2030年に購入してもよいのではないか?」という議論もありました。しかし、2026年のGX-ETS本格導入が政策として決定していることも説得材料の一つとなりました。

一方で、高木氏は「カーボンニュートラル宣言を公表してから、いずれカーボンオフセットに取り組むことは決めていました。万一、政策の中断や方向転換があっても、地域貢献のためという私たち会社の目指す方向に変更はないので、時期を待つという選択肢もありませんでした」と、経営理念やビジョンが重要であることも付け加えました。

 成功のカギは「パートナー選び」 

日本国内におけるカーボンニュートラルの取り組みは、まだまだ発展途上にあります。だからこそ、この分野に知見や実績のあるパートナーや、理念を同じくできるパートナーを選ぶことが、カギとなります。

 調達先ではなく、継続的な協力関係を維持できる地域として 

連携する地域を選ぶ条件の1つとして、三機工業様の従業員が通える地域という条件がありました。なぜなら単に森林クレジットの購入だけでなく、地域に足を運び、イベント企画などボランティア活動など支援活動を継続的にしたいという想いからです。

 長く付き合うパートナーだから、「顔の見える」関係性を重視

前述のとおり“市場から調達する”だけではなく、長期的な連携が可能な地域を求めました。信頼関係を築くためも“お互いの顔が見える”関係性を重視しました。

 森林クレジット創出の豊富な実績と、幅広い自治体ネットワーク 

「適切な森林管理を行い、森林クレジットを創出している地域を選出する」パートナーとして、バイウィルを選んでいただきました。選定理由として、「森林クレジットの創出に関して豊富な実績があること。さらに全国の自治体にネットワークがあったので、私たちの希望を叶えてもらえると期待しました」と高木氏は語ります。

 検討開始から購入まで約1年。購入先選びに時間をかける

カーボンオフセットについて具体的に社内で議論を開始して数ヵ月後に、バイウィルへご相談。その後、陸別町様と三者協定を結ぶまでかかった期間は約89ヵ月ほどでした。どの地域を選ぶかは長期的な関係性に影響すると考え、決して妥協せず、じっくり時間をかけました。

 まとめ/実践に向けた6つのヒント。最短距離で導入するには 

最後に、三機工業様の事例をもとに、あらためてカーボンオフセットを成功に導く6つの実践のヒントとして整理しました。「明確な理念」「戦略的な活用」「信頼できるパートナー」という3つの視点でご紹介しますので、ぜひお役立てください。

視点1:明確な理念 

  • “何のため”にJ-クレジットを導入するのかを定義する
    経営理念や会社のビジョンに合致しているかなど、プロジェクトの冒頭で目的を明確にする。プロジェクト進行後、判断に迷う場面で、ぶれない軸となり、社内の合意をとるためにも非常に重要です。

  • 他社に流されることなく、自社の事業と結びつける
    国の政策の方向転換や中断など外部環境の変化があると、プロジェクトの中断や進行の鈍化など影響を受けやすくなります。その際も、目的を外部に求めるのではなく自社の事業の一環として社内合意があれば、他社の動向に影響されず、プロジェクトを確実に推進できます。

 

視点2:戦略的な活用

  • 長期契約による価格や調達リスクのヘッジ
    長期契約により、一定額の単価交渉ができ、さらに契約期間中の調達を確保することができます。2030年に向けてJ-クレジット市場の変動を考慮した場合、長期契約は非常に重要なリスクヘッジとなります。

  • 脱炭素への貢献を新たな企業価値として発信する
    森林クレジット購入によるカーボンオフセットは、CO2の吸収という、より本質的な脱炭素活動です。コストではなく、新たな企業価値の創出であると捉え、積極的に社内外へ発信しましょう。

 視点3:信頼できるパートナー 

  • 煩雑な手続きや知識を専門家が代行し、社内のリソースを最適化する
    森林クレジットを購入する地域やプロジェクトの選択や購入手続きなどは、専門知識と経験、広いネットワークが必要になります。独力で専門外の分野に手を出し時間を費やすよりも、信頼できるパートナーに任せることで、全体の進行を大幅に効率化できます。
  • 自社の理念に合った地域やプロジェクトを探す
    長期契約により良好な関係を築くためにも、三機工業様にとっての陸別町様のように、お互いに理念やビジョンを共感できることが重要。妥協せず時間をかけるべき部分です。

 

株式会社バイウィルでは、「GXを『やるべきこと』から『やりたくなること』へ」を掲げ、事業活動に眠る「環境価値」を発掘し収益化する仕組みを構築し、コストや義務として捉えられがちな脱炭素の取り組みを、誰もが利益を得られる「やりたいこと」へと転換していきます。

ご興味をもたれた方は、下記よりお気軽にお問い合わせください。

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