【セミナーレポート】GX-ETS Phase2 を切り抜ける鍵 ~事業社向けマニュアル展開を受けて~
目次
「GX-ETS(排出量取引制度)は、単なる環境保全[陽伊2.1]のための制度である」――もし貴社がそんな認識をお持ちだとしたら、極めて危険です。なぜならGX-ETSの本質とは、「企業の将来のコスト構造を根底から書き換える、ドラスティックな経済・金融インフラ」だからです。
2026年度、いよいよ本格始動した「GX-ETSフェーズ2」。この歴史的転換期を前に開催された本セミナーには、プライム上場企業を中心とした製造業・金融・エネルギーなど、脱炭素の最前線を走る総勢160名を超える実務リーダー・経営層が集結しました。
申込者からの事前アンケートを整理すると、次の3つの課題があることがわかりました。
-
実務・算定のハードル:制度の複雑さにより、実務レベルでの具体的な対応に苦慮している。
-
経済性・市場への不安:不透明なマーケット情報が、脱炭素投資への判断を鈍らせている。
-
組織・サプライチェーンの巻き込み:対応が一部部署に限定されており、全社や取引先を巻き込んだ動きに繋がっていない。
本セミナーでは、これら課題を踏まえ、短期・中長期で進めるべき「対応の鍵」を具体的に提示しました。当レポートでは、このセミナー中のポイントおよび質疑応答の内容についてお伝えします。
セミナー概要
-
名称:GX-ETS Phase2 を切り抜ける鍵 ~事業社向けマニュアル展開を受けて~
-
講師:伊佐 陽介(株式会社バイウィル 取締役CSO 兼 カーボンニュートラル総研所長)
-
日程:2026年4月22日(水)17:00~18:00
-
参加費:無料
-
会場:Zoomウェビナー
-
セミナーのプログラム
- 始まりのご挨拶・会社紹介(17:00~17:10)
- セミナー本編
- GX-ETS Phase2 概要とポイントの再確認(17:10~17:30)
①制度の位置づけ、全体像
②市場を動かすドライバー - 公開されたマニュアルの読み解き(17:30~17:45)
①対応に於ける注意点
②具体的な対応業務を踏まえた短期・中期・長期のポイント
- GX-ETS Phase2 概要とポイントの再確認(17:10~17:30)
- GX-ETS を上手く乗り切るための鍵 (17:45~18:00)
- 質疑応答(18:00~18:10)
セミナーの詳細情報はこちら
セミナーサマリ
GX-ETSは“環境制度”ではなく“将来のコスト構造を書き換える制度”
「GX-ETS(排出量取引制度)は、環境活動の一関門である」もし貴社がそのような認識を持っているのであれば、今すぐ改めることを推奨します。
2026年度に本格始動したGX-ETSの本質とは、環境対策の綺麗ごとではなく、企業の将来の利益、そしてコスト構造を根底から書き換える「ドラスティックな経済・金融インフラ」に他なりません。一般的な制度説明(論文調の講義録)を遥かに超えた、バイウィル独自の「3つの戦略的視点と将来シナリオ」から、目を背けられない真実を明かします。
GX-ETSの本質はNDC達成ではなく「20兆円の償還設計システム」である
多くの実務担当者がGX-ETSを「国が定めた削減目標(NDC)をクリアするための制度」と捉えていますが、それは表面上の名目に過ぎません。本制度の真の目的は、国が脱炭素の先行投資として発行した「20兆円規模のGX経済移行債」を2050年度までに企業から確実に回収・償還(返済)することにあります。

2033年度(フェーズ3)から本格化する「有償オークション」や「化石燃料賦課金」は、この20兆円を企業から強制回収するために完全に補完関係として設計されています。「フェーズ2は試行期だからまだ大丈夫」と先送りする企業は、国が設計した巨大な回収トラップの直撃を受け、逃げ場のない巨額の炭素コストを背負うことになります。
市場の歪みを見抜く「バンキングによる上限張り付き」の構造分析
将来的に炭素価格(上限価格)が年率約6%のペースで上昇していくことが確実であるため、超過削減を達成した企業は「排出枠を市場に売らず、自社の将来のリスク防衛のために手元にキープ(バンキング)する」という強烈な防衛心理が働きます。
この結果、市場の売り札(流動性)は完全に枯渇します。需要と供給のバランスが崩壊するため、市場の取引価格は常に「国が設定した上限価格(ペナルティ直前の最高値)」のすぐ近くに張り付き続けるという、買い手にとって極めて過酷な市場構造(歪み)が論理的に予見されています。
「環境価値付きガス」に潜む、実務上の致命的な落とし穴
現場の担当者が最も注意すべきポイントは、「CO2フリー都市ガス10%制限」です。
ガス会社から高いお金を払って環境価値付きのガスメニュー(CO2フリーガス)を購入しても、GX-ETSのマニュアル(p.106)上、実排出量は価値を差し引く前の「基礎排出係数」で算定しなければならず、さらにその環境価値による控除は「自社の実排出量の最大10%まで」という厳格な足切りルールが存在します。10%を超える分は、どれだけガス代を払っていても一切カウントされず、すべて死金(無駄なコスト)になります。「価値付きガスを買えばScope1は安心」という安易な外部依存スキームは、この制度では完全に封じられています。
2035年、炭素価格は「1トン=2万〜4万円」へ暴騰する
前述した「20兆円の償還強制力」と「市場の流動性枯渇(上限張り付き)」が掛け合わさることで、バイウィルが弾き出した将来価格シナリオは劇的なものとなります。
現在、トンあたり数百円〜数千円で取引されている炭素の価値は、2035年時点には論理的に「1トンあたり2万〜4万円」という超高水準へ加速度的に暴騰する可能性が極めて高いと言えます。
この衝撃的な未来から逆算し、「やらされGX」を「稼ぐGX(財務メリット)」へ転換するために、社内炭素価格(ICP)を今すぐ設定し、現在の設備投資のROIを書き換える経営戦略が不可欠です。
【総括】2035年を見据えた“攻めの脱炭素戦略”へ
GX-ETSは環境制度ではなく、将来のコスト構造を書き換える制度です。その本質は、国の「20兆円規模の国債償還設計」にあります。
将来の価格高騰を見据えた企業の囲い込み(バンキング)により市場の流動性は枯渇し、価格が上限に張り付くことで、2035年には「1トン=2万〜4万円」へ暴騰するシナリオが現実味を帯びています。
こうした過酷な未来を前に、10%の足切りルールがある「CO2フリーガス」などの安易な外部依存スキームはすべて死金と化します。目先の「守りの算定」を捨て、環境投資を明確な財務価値へと統合する、攻めの脱炭素戦略への転換を進めていきましょう。
質疑応答セクション
セミナー後半の10分間は、参加者から匿名ツールでリアルタイムに寄せられた切実な悩みに、講師の伊佐がその場で直接回答しました。現場のリアルな対話の一部をご紹介します。
Q:「Scope 1を電化(Scope 2化)して、価格の安い非化石証書で相殺する『コストハック』のような手法は有効ですか?」
A(伊佐):「理論上は考えられます。しかし、過去にボイラーを第三者保有にして熱利用料化するスキームが流行った際、即座にリース契約での締め出しルールが作られたように、こうした抜け道(ハッキング)を防ぐためのルール改正はセットで検討が始まっていると見るべきです。現時点で、これを「抜け道(ハッキング)として推進するのはお勧めしません。本質的なコスパを見極める必要があります。」
Q:「Phase3における有償オークションの費用を負担するのは発電事業者だと思いますが、その全額が電力料金に転嫁されるとしたら、需要家が意識すべき価格はkWh当たりでどれぐらいになるのでしょうか。資料にあるような2~4万円/トンではないように思うのですが…」
A(伊佐):「非常に鋭いご質問です。結論から言うと、発電事業者が負担するオークション費用は電力料金(kWh単価)にそのまま上乗せされるため、需要家が電気代を通じて間接的に支払うカーボンプライシングになります。有償割当率100%のケースこそが需要家にとっての真の炭素価格インパクトであり、資料で提示した2〜4万円/トンというシナリオは、電気料金の上乗せ分も含めた『市場全体の炭素の価値』から直接的に算出したものでなく、一定の有償割当率を仮定してトン単価として算定したものです。よって、有償割当率を仮定する前の総額が、企業の総負担リスクを指していると捉えた方がよいでしょう。決して他人事ではありません。」
特に反響の大きかったポイント
当日のチャット欄や終了後のアンケートで、参加者の皆様が「最も驚いた、気づきになった」と明かしたポイントは以下の4つに集中しました。
-
GX-ETSの本質は、NDC(環境目標)ではなく「20兆円の償還システム」であること
-
将来の価格高騰を見据えた企業の囲い込み(バンキング)により、市場価格は「上限張り付き」になる可能性が極めて高いこと
-
CO2フリーガスに依存している企業は、10%の足切りルールで投資が死金になること
-
2035年には炭素価格が「1トン=2万〜4万円」に暴騰する未来が論理的に予見できること
参加者アンケート結果
セミナー終了後のアンケートでは、約90名の方々から回答をいただきました。
満足度
セミナー内容についての満足度を伺う質問には、回答者の9割以上の方から「満足」との非常に高い評価をいただきました。多くの方に内容の濃さを実感していただけた、非常に満足度の高いセミナーとなりました。
特に印象的だった内容
本セミナーの中で、特に印象的だった内容を伺ったところ、下記の通りの結果となりました。

「GX-ETS Phase2マニュアルから見えるポイントと注意点」が全体の約6割(55件)を占め、最も高いスコアを記録しました。公開されたばかりの複雑なルールをどう解釈し、実務に落とし込むかという点に多くの担当者が強い関心を持っていることが分かります。
フリーアンサーとして、以下のご感想もいただきました。
「単なる制度の表面的な説明ではなく、『なぜそのルールになり、今後どう動くのか』という裏側のロジックまで深く理解でき、目から鱗でした。」
「目先のフェーズ2への短期対応だけで安心していました。中長期での莫大なコストリスクと、今すぐ投資計画を実装すべき理由が整理でき、社内を動かすロジックが手に入りました。
次回への期待テーマ
自由記述欄に次回セミナーへの期待テーマを伺いました。その一部を抜粋してご紹介します。
-
「GHGプロトコルSCOPE2改定と日本の制度設計での関連性と影響などについて詳しく知りたい。」
-
「非化石証書の需給・価格動向を追っていきたい。
-
「第三者認証のプロセスを順当にクリアする企業と、足踏み(やり直し)してしまう企業の本質的な違いを知りたい。」
セミナー申込者属性
本セミナーにお申込みいただいた方の属性データについて、参考情報として共有いたします。
業種
製造業の企業様が全体の約3割を占め、次いで卸売・小売、金融、エネルギー関連の企業様から多くのお申込みをいただきました。
|
業種 |
構成比 |
主な部署の例 |
| 主な部署の例 |
30% |
環境管理部、技術開発部、サステナビリティ推進部、生産技術部 |
|
卸売、小売 |
15% |
経営企画部、サステナビリティ推進室、営業本部、事業開発部 |
|
金融、保険 |
8% |
ESG投資・推進部、サステナビリティ推進室、経営企画部、営業部 |
|
エネルギー開発 |
7% |
新エネルギー事業部、環境戦略部、技術本部、経営企画部 |
|
コンサル・専門サービス |
7% |
サステナビリティコンサルティング部、環境ソリューション部、企画開発部 |
|
建設 |
6% |
サステナビリティ推進部、安全環境部、技術管理部、経営企画部 |
|
サービス |
6% |
経営企画部、サステナビリティ推進室、総務部、事業推進部 |
|
情報通信・メディア |
5% |
サステナビリティ推進部、経営企画部、事業開発部、広報部 |
|
その他団体(公的機関等) |
2% |
企画総務部、環境推進課、事務局 |
|
運輸、郵便 |
2% |
環境対策部、安全環境管理部、経営企画部 |
|
電気・ガス・熱供給、水道 |
1% |
環境エネルギー部、サステナビリティ推進部、技術部 |
部署
サステナビリティや脱炭素(GX)に直結する専門部署のほか、事業・営業部門の方々からも高い関心をいただいています。
|
部署 |
構成比 |
主な部署名の例 |
|
環境・サステナ・GX推進 |
30% |
サステナビリティ推進部/室、環境推進部、脱炭素戦略課、GX推進本部 |
|
事業・営業・開発・支店 |
27% |
営業本部、エネルギー事業部、ソリューション部、各支店・営業所 |
|
経営企画・総務・管理 |
16% |
経営企画部、経営戦略室、総務部、管理本部、人事部、広報部 |
|
技術・製造・生産・研究 |
5% |
生産技術部、製造部、研究開発センター、設備管理課 |
|
その他・不明 |
22% |
事務局、顧問、未記入 |
役職
課長・部長以上の実質的な意思決定層が全体の約3割を占めており、専門的な研究員や技術職の方々からも多くのお申し込みをいただきました。
|
役職 |
構成比 |
主な役職・該当例 |
|
部長・室長クラス |
15% |
部長、室長、所長、本部長、支店長 |
|
課長・マネジャークラス |
15% |
課長、マネージャー、グループ長、チーム長 |
|
次長・リーダー・主任級 |
15% |
次長、リーダー、主任、係長、主査、代理 |
|
経営層(役員・代表等) |
6% |
取締役、役員、代表、理事、代表理事 |
|
担当者・役職なし |
3% |
担当者、一般、役職なし |
|
その他(専門職・研究員等) |
25% |
研究員、顧問、主幹、調査役、教授、記者など |
今後開催されるセミナーのご案内
今後も、以下をテーマにしたセミナーを随時開催予定です。
- Scope1/2/3とGX-ETSの関係整理
- ICP(社内炭素価格)の実践導入
- GX投資と企業価値向上
- J-クレジット/JCMの戦略活用
最新のセミナー情報や詳細・お申し込みは、以下のページにて順次公開いたします。
ぜひチェックしていただけますと幸いです。
