BtoBビジネスを行っている企業にとって、Withコロナ時代のもっとも大きな変化と言われているのが「マーケティング・営業活動のデジタルシフト」ではないでしょうか。
そのような中で大切なことは、改めて「自社ブランドの価値は何か?」を明確にし、顧客から選ばれ続けるブランドを創ることです。来るWithコロナ時代に取り組むべき「BtoBブランディング」の手法をお伝えします。
なぜいまBtoB企業にブランディングが必要なのか?
COVID-19の影響により、3密回避やリモートワークが進んだことで、BtoBビジネスにおけるオンライン接点でのコミュニケーションが機能しにくくなっています。例えば、展示会やセミナーといったオフラインでのリード獲得の難化や、電話不通によるアポイント取得の難化などが挙げられます。そのため多くの企業では、オンライン広告の出稿やSNSマーケティング、オンライン営業ツールの導入など、BtoBマーケティング・セールス活動のデジタル化への対応を迫られています。
中でも、BtoBマーケティングのデジタルシフトが進展すると、営業担当者と接触する前に“決着がついてしまう”流れが加速することが予想されます。従来、BtoBビジネスにおいて購買担当者は営業決定プロセスの約6割を営業担当との接触前に済ませていると言われていました。しかし、今後は意思決定プロセスの8割以上を営業担当との接触前に済ませてしまう可能性もあります。
また、多くの企業がBtoBマーケティングのデジタル化を進めるため、オンライン上で似たような情報が溢れるようになり、他社との差別化や自社サービスの認知拡大が困難になります。したがって、各企業は改めて「自社ブランドの価値は何か?」を明確にし、適切に顧客の期待を高め、顧客から選ばれるブランドを創る必要があります。
多くの会社が抱いている「BtoBブランディング」に対する誤解と新たに持つべき認識とは?
Withコロナ時代において、BtoBビジネスにおけるブランディングの重要性は非常に高まっています。しかし、多くの企業やビジネスパーソンの中には「BtoBブランディング」の必要性を軽視している、あるいはBtoBビジネスでブランディングは困難であると認識している人は少なくありません。ここでは、特に「BtoBブランディング」が持たれやすい3つの誤解とそれぞれどのように認識を改めていただくべきなのか、我々の考えをお伝えいたします。
1つ目は、BtoBビジネスでは価格や取引条件による合理的判断のみで購買が決められるため、ブランディングは必要ない、あるいはブランディングは困難であるという誤解です。これに関しては、そもそも比較検討の土俵に立つこと及び意思決定における差別化要素という2つの意味で、ブランドがより必要になると認識すべきでしょう。特に、今後デジタルシフトが進むと比較検討の俎上に上がることがさらに困難になります。
2つ目は、BtoBビジネスにおいては顧客数が限定されているため、ブランディング活動の投資対効果が合わないという誤解です。ブランドコミュニケーションにお金を使うなら、販促予算を出すべきだという声が非常に多いです。これに関しては、ブランディングは広告だという認識ではなく、セールス活動に繋がる投資対効果の高いブランディングを行なうべきだという認識に改める必要があります。
3つ目は、購買の意思決定に与える影響は営業パーソンが中心であり、結局は営業が築く人間関係が重要なのだから、ブランディングは必要ないという誤解です。これに関しては、アフターコロナ時代でデジタルシフトが加速し対面営業の影響力が相対的に低下したり、対面営業に至れるシーンも減る中で、ブランドによる底上げは必要という認識を持つことが大事です。
以上のように、企業は、BtoBブランディングに対する様々な誤解を取り払って、アフターコロナ時代の変化に対応すべく、新たな認識を持つことが必要不可欠です。
ブランディングと営業・販促のあるべき関係性とは?
先ほどは、BtoBブランディングに対する誤解について言及しましたが、BtoBビジネスを行う企業で見られる問題として、もう一つ、「営業・販促強化に偏り過ぎて、顧客資源が枯渇してしまう」という状況があります。これは、特に営業力の強い企業さまにみられることの多い問題です。
具体的には、短期的な営業・販促のみに注力し過ぎると、優良な見込み顧客を獲得し尽くす段階で、潜在ニーズのある顧客が育っていない状態(顧客資源が枯れた状態)に陥るということです。
では、顧客資源の枯渇は一体何が問題なのでしょうか。それは、事業の効率を低下させる悪循環を引き起こしてしまうからです。
顧客資源の枯渇、つまりブランド力不足は、顧客コストの上昇を招き、それは結果として、顧客とのミスマッチやリピート率低下を生じさせます。そして、それがさらなるブランド力の低下に繋がってしまうというわけです。
したがって、企業としては、営業・販促という“収穫”を継続的に高めていくために、ブランディングという“土壌育成”を並行して行い、成長サイクルを回し続けていくことが必要になります。
BtoBブランディングの具体的な手法とは?
では、ここからは具体的なBtoBブランディングの手法をご紹介していきたいと思います。
まず、ブランドはどのように創られるのでしょうか。その答えは、全ての顧客接点における体験の一貫性によって、ブランドは創られます。ブランドの提供価値が明確に定まらず、各接点で異なった方向性のメッセージを伝えてしまうと、ブランドに対する期待が積み重なることはありません。したがって、まずブランドの提供価値を明確に定めることが重要になります。
次に、ブランドの提供価値はどのように定めるのでしょうか。前提として、ブランドの提供価値は、「コアバリュー(ブランド価値を一言で言い表したもの)」「ベネフィット(顧客が得られる具体的な便益)」「エビデンス(ベネフィットをもたらす根拠・事実)」「リソース(エビデンスの裏付けとなる社内資産や仕組み)」という4つの概念から構成されています。したがって、これらの概念を構造的に規定することで、明確なブランド価値定義が可能になります。

そして、ブランド提供価値の策定にあたっては、主に2つのアプローチがあります。
1つ目は、現在視点でのボトムアップアプローチです。このアプローチは、自社の現在の資産や強みを基点に、「リソース」⇒「エビデンス」⇒「ベネフィット」とボトムアップ型で考えていく手法です。
弊社の実感としては、多くの企業がこの手法を採用しています。しかしながら、環境変化が激しい昨今においては、現在視点のこの手法では、他社と差別化できる魅力的なブランドを作ることができるかについて疑問が残ります。※例外は、他社が絶対に模倣できないリソースを有している企業様ですが、その数は決して多くないでしょう。
そこで、弊社では、2つ目の手法である未来視点でのトップダウンアプローチを推奨しています。このアプローチでは、市場機会の大きい領域を特定し、「どのような価値を提供していくべきか?」を発想の基点に、「ベネフィット」⇒「エビデンス」⇒「リソース」とトップダウン型で考えていきます。
環境変化を念頭に置きながら、自社として提供したい価値を基点に、ブランド提供価値を作り上げるため、ボトムアップアプローチと比較して、他社と差別化できる魅力的なブランドを作り上げることに繋がります。
また、アフターコロナ時代においては、「オンライン上でのコンテンツ化がしやすいか」といった観点も加味しながら、ブランド提供価値の策定を進めるとより有効でしょう。
ここまで、ブランド提供価値の策定方法について紹介してきました。
理論的には、ここまで紹介した手法で魅力的なブランドを作り上げることは可能ですが、とはいえ、BtoBビジネス独特の難しさがあるのも事実です。以下で、これについて触れていきたいと思います。
BtoBビジネスで提供価値を明確化する上で気を付けるべきポイント
BtoBビジネスには、「概念や言葉が複雑で難しい」「スペックや性能を価値に転換しにくい」「表層的には他社との違いが分かりにくい」といった理由で、自社の提供価値を表現しにくいという難点があります。
そのため、企業は、自社の提供価値をストレートに伝えるのではなく、BtoCビジネス以上に「コンテンツ」と「表現」の2つの観点で工夫し、伝わりやすい表現方法を取ることが必要になってきます。
「コンテンツ」の工夫については、「価値を裏付ける機能や性能などのエビデンス(事実)」「エビデンスを産み出す社内体制や資産などのリソース(資源)」「提供価値を疑似体験できるケース(事例)」の3点を意識することが重要です。
「表現」の工夫については、以下3点に注意すべきでしょう。
1つ目の「見える化」では、伝わりにくい提供価値を名称やロゴなどによって分かりやすくします。この手法は、エンドユーザーに対する付加価値を高めやすい点で、特に生産材メーカーやBtoBtoC業態で有効です。インテルの例だと、「インテルが入っているPC=高品質・高性能」というイメージを醸成する販促活動をエンドユーザー向けに大々的に展開しています。それにより、発注元のPCメーカーからの値下げ圧力にも屈しないブランド力を手にしています。
2つ目の「数値化」では、曖昧性が高い価値を、「シェア〇〇%」「初期対応平均〇〇分」「導入前比較〇〇倍」といった指標を用いて、可視化します。
3つ目の「ストーリー化」では、開発プロセスのストーリー化や顧客体験のストーリー化を通じて、無機質に受け取られがちなブランド提供価値に対する興味喚起や受け入れやすさを担保します。最近であれば、SansanのCMで「名刺管理が一元化されていれば、機会損失を防げたのに…」という営業現場のリアルな体験を訴求しているものを見た方も多いのではないでしょうか。
マーケティングとセールスの対立を乗り越え、施策の一貫性を担保するには?
多くの企業様からよくあるご相談として、マーケティングとセールスの対立があります。マーケティング側としては、「リードを取っているのだから、もっとセールスに売って欲しい」、セールス側としては、「もっと質の高いリードを取ってきて欲しい」というように、双方に対する感情がぶつかり合う状況です。これは、マーケティングとセールスで異なる時間軸・指標を目標にしている限り、ある意味仕方がない現象と言えます。
では、いかにして対立を解消し、一貫性を保った活動を行なっていくのか。弊社では、そのためにブランドロードマップの活用を推奨しています。
ブランドロードマップとは、ブランドが目指す姿を実現していくための道筋を描いたもので、大きい(遠い)目標を達成していくために、いつまでに、どんな状態になっていれば良いのかの中間地点を明確にし、軌道修正を図る上で機能します。「大きな目標」〜「KPI」〜「部署別活動テーマ」を接続し、日々の各部署の活動がコンセプト実現に繋がるように描きます。
つまり、従来は異なる目標(指標)に向かってバラバラに動きがちだったマーケティング、セールスの機能を、ブランドという共通の軸を定めることによって相互連携させていくことが可能になります。
また、それぞれの活動がデジタル化することで、SFAツールやMAツールなどを用いたKPI管理も共通認識を持ちやすくなるため、そういった意味では連携を高めていくチャンスでもあります。
以上が、皆様にお伝えしたかったことになります。いかがだったでしょうか。
皆様にとって、有意義な情報を提供できていれば幸いです。