【金融機関のためのJ-クレジット実践コラム:第4回】「うちは関係ない」という中小企業の社長に響く、J-クレジット3つの切り口~「脱炭素」ではなく「実利」で話す~サムネイル画像

【金融機関のためのJ-クレジット実践コラム:第4回】「うちは関係ない」という中小企業の社長に響く、J-クレジット3つの切り口~「脱炭素」ではなく「実利」で話す~

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目次

前回は、J-クレジットを一言で言い切る「回答の型」をお伝えしました。今回は、その先の実践編です。いざお客さま——とりわけ中小企業の経営者——にJ-クレジットを提案するとき、どの切り口で話せば「自分ごと」として響くのか。実際の企業事例を交えながらお伝えします。


前回コラムはこちら【金融機関のためのJ-クレジット実践コラム:第3回】そもそも「J-クレジット」とは何か?"怪しい"を一瞬で払拭する一言回答~ひと言で納得させる「決定打」を用意する~

はじめに:「脱炭素」という言葉が社長に刺さらない理由 

「社長、J-クレジットを活用してCO₂を削減しませんか……」
ここまで言った瞬間に、
「うちは中小企業だから、そういう大企業向けの話は関係ないよ」と言われた経験はありませんか?

中小企業の経営者が日々直面し、本当に関心を持っているのは「売上」「人材採用」「取引先との関係維持」「現場の安全」など、事業に直結するリアルな課題です。だからこそ、J-クレジットを提案する際は、「地球環境のため」という文脈だけでなく、経営課題を解決する「実利」の文脈で話すことが極めて重要になります。

今回は、中小企業に響く「3つの切り口」を、岡山県で通信インフラ工事を手がける 株式会社備福通信さまのリアルな導入事例を交えながら解説します。

 

切り口①:採用と職場環境 ——「若い人が来てくれる、人を大切にする会社」になる

今の就活生や若手人材は、就職先のSDGsや環境への取り組みを私たちが想像する以上に真剣に見ています。J-クレジットを活用してカーボンニュートラルに取り組んでいる事実は、採用媒体や自社Webサイトにおいて強力なアピールポイントになります。 

📌 現場で使える!提案トーク例

「社長、最近の学生は企業の環境姿勢を本当によく見ているんです。御社がJ-クレジットを購入して『地元の森を守っています』と発信するだけでも、応募してくる学生の質や見られ方が確実に変わってきます。比較的少ない投資で、採用面の効果が期待できる『人事戦略』の一つなんですよ。」

【実例:株式会社備福通信さまの場合】

この「採用効果」が絵に描いた餅ではないことを証明しているのが、まさに備福通信さまです。
 同社の河原社長は、厳しい採用競争のなかで環境経営に舵を切りました。

 「地元の工業高校では、卒業生40名ほどの学科に全国から1,200社もの求人が集まります。そのなかで選んでもらうには、環境対応や働きやすい職場づくりを本気で発信しなければ、そもそも見向きもされません」(河原社長)

実際、3年前に転職で入社された社員の方は、
「環境経営に真剣に取り組んでいる会社なら、体制も整っていて安心して働けると感じました。オフィスもきれいで、『環境や人を大切にする会社なんだ』と実感できたことが決め手になりました」
と語っています。

環境への取り組みが、そのまま人材を惹きつける力になっているのです。

 

切り口②:取引先対応 ——「サプライチェーンの波」に先回りする

大企業の脱炭素化は、いまや自社の排出(Scope1・2)にとどまらず、取引先を含むサプライチェーン全体(Scope3)へと広がっています。

これは中小企業にとって、「いつか必ず自社にも削減要請が来る」という現実的なビジネスリスクです。要請を受けてから慌てて対応するのでは遅く、先回りして準備しておくことが、大手取引先から選ばれ続けるための防衛策になります。

📌 現場で使える!提案トーク例

「御社のお取引先には、大手や上場企業も多いですよね。そうした企業はいま、下請けや協力会社にもCO₂削減の協力を求め始めています。要請が来てから動くと後手に回りますが、今のうちにクレジット等で備えておけば、『すでに対応済みの優良な協力会社』として、他社に一歩先んじることができますよ。」

【実例:株式会社備福通信さまの場合】

同社が環境経営を加速させた最大の推進力も、まさにこの「先回り」でした。
プライム上場企業をはじめとする大手取引先が多い同社。河原社長の胸中にあったのは、危機感でした

「直接の強制はなくとも、取引先がこれだけ本気で取り組んでいる以上、いずれ必ず協力会社にも対応が求められる。要求されてからでは遅すぎる」

そう判断し、いち早く先手を打ちました。

結果として、大手取引先の役員や社長が自ら見学に訪れ、「中小企業でもこれほど先進的にやっているのか」と高く評価されるようになったといいます。

 

切り口③:入札・公共事業 —— 確実な「加点」を取りにいく

 国や自治体の入札・プロポーザルでは、環境への取り組みが「加点評価」される案件が急増しています。建設業・製造業・サービス業など、公共調達の受注を目指す企業にとって、カーボンニュートラルへの取り組み実績は競争力に直結します

📌 現場で使える!提案トーク例

「最近、入札の要件で環境項目が加点される案件が増えていますよね。ISO認証をゼロから取るとなると時間もコストも膨大ですが、J-クレジットの活用なら、比較的短期間で確実な『取り組み実績』をつくれます。受注機会を1つも逃さないための備えとして、検討する価値は十分にありますよ。」

そして、もう一つ:経営者の心を動かす「地域への還元」

3つの実利(採用・取引先・入札)に加えて、特に「森林由来のJ-クレジット」には、経営者の心を動かすもう一つの力があります。それが「地域貢献」という大義名分です。

地元の森林クレジットを購入することは、単なるCO₂の帳尻合わせではありません。「御社の購入代金が、そのまま地元の山を守り、災害を防ぐ活動資金として還元されます」という事実は、ただのコスト負担を「地域への恩返し」のストーリーに変えます。

【実例:株式会社備福通信さまの場合】

備福通信さまが8年間という長期契約で購入を決断されたのは、創業者ゆかりの地である広島県・東城町の森林から生まれたJ-クレジットでした。

河原社長にとって東城町は、祖父や母たちが生まれ育った大切なルーツ。

「中国銀行から東城町森林組合のクレジットを紹介された瞬間、『自分のルーツがある東城町産なら、ぜひ購入したい』と即断しました」

と語ります。

3つの切り口が凝縮されている株式会社備福通信さまの実例

備福通信さまの取り組みは、まさに「採用」「取引先対応」「地域貢献」のすべてが結実した理想的な好循環のモデルです。

注目すべきは、社長が最初から「地球環境のためにカーボンニュートラルを達成するぞ」と意気込んでいたわけではない点。

自社でできる削減努力を徹底したうえで、「これ以上の過度な節電は、猛暑下で働く現場作業員の命と安全に関わる」と判断しているところです。これは、どうしても減らせない残余分をJ-クレジットで埋め合わせるという、現場を守るための極めて現実的な経営判断でした。(※これはまさに第2回でお伝えした「まず削減、足りない分をクレジットで」というクレジット活用の定石です)

そして、この「地域に貢献したい購入者(備福通信さま)」と「山を守りたい創出者(東城町森林組合さま)」を、県境を越えてつないだのが、地域金融機関である中国銀行さまです。 お客さまの経営課題に寄り添い、地域のなかで資金と環境価値を循環させる。これこそが、地域金融機関の皆さまだからこそ果たせる重要な役割です。

▼ この素晴らしい共創事例の詳細は、以下の取材記事でご覧いただけます
https://www.bywill.co.jp/works/2026-09-07

 

この回のポイント

  • 「脱炭素」という言葉ではなく、採用・取引先対応・入札加点という「実利」に翻訳して提案する。
  • 中小企業にとって大手からのサプライチェーン要請は「いつか来る現実」。先回りが最大の企業防衛(競争力)になる。
  • 森林由来クレジットは、単なるオフセットを超えた「地域貢献・恩返し」という大義名分を経営者に提供できる。
  • 備福通信さまの事例は、採用・取引先対応・地域貢献がひとつに結実した好例。そして、創出と購入をつないだのは、まさに地域金融機関である中国銀行さまだった。

 

 

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執筆者:m-saito
京セラグループのコンサルティング会社、リンクアンドモチベーショングループを経て株式会社フォワード(現:バイウィル)に参画。企業のブランドコンサルティング・風土改革コンサルティングに従事。 クレジット創出事業立ち上げ後、同事業を担うパートナーサクセス部長就任。プライム上場企業や地方中堅・中小企業、森林組合や林業会社など約2,000事業者にJ-クレジット創出・活用方法を紹介(内、森林案件50%)。金融機関や自治体でのセミナー・勉強会講師も務める。2026年4月より現職、執行役員兼カーボンニュートラル促進本部長。
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