【金融機関のためのJ-クレジット実践コラム:第7回】本社が県外の大手企業、その地域拠点こそGXで狙える!——融資の外から始める、J-クレジットを入り口にした関係構築術
目次
前回(第6回)は、J-クレジットを「自社の経営ポリシー・スタンスを社内外にわかりやすく表現するツール」と捉えなおし、中小企業への紹介アプローチを「課題アプローチ」と「願望アプローチ」の2軸で整理しました。今回は対象を大きく変え、本社が県外にある大手企業の地域拠点(工場・営業支店)への提案を取り上げます。
【金融機関のためのJ-クレジット実践コラム:第6回】中小企業への紹介アプローチ総集編と「森林クレジット」の効用詳細〜「脱炭素」ではなく「経営スタンスの表現」として届けるために〜
はじめに:「本社のメインバンクは他行だから」——そこで諦めていませんか?
管轄エリア内に、本社が東京や大阪など別の都市にある大手企業の工場・支店がある——というご担当者は多いのではないでしょうか。
「本社のメインバンクは他行だし、資金も本社で一括管理しているから、地元の工場や支店に営業をかけても取引にはつながらない」
——そう考えて、営業の対象から外してしまってはいないでしょうか。
実はこうした地域拠点こそ、J-クレジットを切り口にすることで、これまでにない関係性を築ける有望なターゲットです。
本社が県外にある大手企業の地域拠点にJ-クレジットを提案する、2つの狙い
● 狙い①:融資以外の切り口で、今まで以上の関係性を構築できる
● 狙い②:J-クレジットの大口需要を獲得できる
【背景】
本社が県外にある大手企業の場合、融資は本社のメインバンクが担っているケースが多く見られます。そのため、地域の工場・支店にいくら営業をかけても、融資という土俵の上では入り込む余地がないことも少なくありません。
しかし、そこに「地元から創出されたJ-クレジット」という、地域の金融機関ならではの提案材料を持ち込むことで、融資とは全く別の切り口から、新たな接点をつくることができます。
さらに、中小企業と比較して大手企業の場合は、「CO₂排出量を削減したい」という明確かつ、切実なニーズを抱えているケースが多く見られます。取引先や投資家からの要請、グループ全体で掲げる削減目標、一定規模以上の排出事業者に参加が求められるGX-ETS(排出量取引制度)への対応など、明確に数値目標を背負っているためです。
そのため、購入するクレジットの量も中小企業と比べて大口になる傾向があり、地域のクレジット創出者(自治体・森林組合・森林所有者など)にとっても大きな収益機会となります。
つまり、本社が別エリアにある大手企業の地域拠点は、「融資では入り込めない相手」でありながら、「地元創出クレジットをまとまった量で購入してくれる可能性が高い相手」でもあるのです。
💡 金融機関にとっての提案メリット
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融資取引がなくても、地元創出クレジットの紹介という切り口で新たな接点を作れる
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「地域資源を活用した提案ができる金融機関」として、メインバンクにはない独自のポジションを築ける
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1件あたりの取引規模が大きい可能性があり、地域への経済効果として目に見える実績を残しやすい
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大口の需要を地元の創出者(自治体・森林組合・森林所有者など)につなぐことで、地域全体の経済循環に貢献できる
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一度接点ができれば、預金・為替・本業支援など他の取引へ広がる可能性も生まれ、他行との差別化材料になる
📌 現場で使える!提案トーク例
「〇〇工場様は、資金面では本社様が中心となって別の金融機関様とお取引されていると伺っております。ただ、脱炭素の取り組みという点では、地域を担当する私どもだからこそご紹介できる話がございます。実は地元の△△地域で、新しく森林由来のJ-クレジットが創出されることになりまして……。御社ほどの規模になりますと、CO₂削減の目標値も大きいかと存じます。地元で創出されたクレジットであれば、まとまった量のご相談も可能ですし、地域貢献のストーリーとして対外的にもアピールしやすくなるかと思います。」
具体的な事例:山陰合同銀行の紹介から生まれた、プロテリアル×奥出雲町の森林クレジット長期契約
【背景】
この2つの狙いが実際に結実した好例が、株式会社プロテリアル(旧日立金属、本社:東京都江東区)の安来工場(島根県安来市)と、島根県奥出雲町による森林J-クレジットの取り組みです。
2026年6月、奥出雲町で創出された森林由来のJ-クレジットをバイウィルがプロテリアルへ販売することを含む連携協定が、プロテリアル・奥出雲町・バイウィルの三者で締結されました。
(バイウィル【プレスリリース】バイウィル、島根県奥出雲町の森林J-クレジットを 株式会社プロテリアルへ販売、連携協定式を開催:https://www.bywill.co.jp/news/2606-06-15)
きっかけは、山陰合同銀行様からのご紹介です。奥出雲町とプロテリアルには、実はもともと深い関係性がありました。プロテリアルのものづくりのルーツは日本古来の「たたら製鉄」にあり、安来工場はたたら製鉄を源流とする特殊鋼「ヤスキハガネ」を生み出してきた拠点です。そして奥出雲町は、たたら製鉄が今なお息づく唯一の地域。かつてのたたら製鉄は大量の木炭、つまり森林資源に支えられており、両者は「森と鉄」を通じて古くからつながっていたのです。
一方、プロテリアルグループは2030年度にCO₂排出量を2015年度比38%削減する目標を掲げており、安来工場でも省エネ・設備転換を進めています。
ただ、自助努力だけでは削減しきれない部分をどう補うかが課題となっていました。そこに山陰合同銀行様から「奥出雲町が森林J-クレジットを創出している」とご紹介があり、まさに絶妙なタイミングで話が重なったといいます。安来工場ではちょうど、長年続けてきた寄付型の森林保全を、社員自らが現地で汗を流す「実践型」へ切り替えようと、奥出雲町と相談を進めていたところでした。
こうして、J-クレジットの長期調達と実践型の森林保全活動を組み合わせた取り組みへと発展していったのです。さらに注目したいのは、この話が工場側から本社へと提案され、最終的に社長決裁(取締役会)を経て全社案件になった点です。地域拠点への一本の紹介が、本社の意思決定まで動かしうることを示しています。
【プロテリアルが期待する、森林クレジット購入の3つの効果】
1. 取引先へのアピール:サプライチェーン全体でCO₂負荷低減が求められる中、環境に配慮した素材を供給する姿勢を示せることは、顧客エンゲージメントの観点から大きな意味を持つ
2. 採用面でのブランディング:環境・社会貢献への取り組みに関心の高い若い世代の学生・求職者に対して、入社意欲を後押しする材料になる
3. 制度対応と地域貢献の両立:GX-ETSをはじめとする排出量取引制度への対応手段を確保しつつ、自社のルーツである奥出雲町への恩返しという“非財務価値”を高められ、投資家や取引先からのESG評価の向上にもつながる
📌 現場で使える!提案トーク例
「〇〇様(工場・環境ご担当者様)、実は貴社のものづくりのルーツにゆかりの深い△△地域で、森林由来のJ-クレジットが創出されています。単なるCO₂オフセットとしてだけでなく、貴社の歴史とつながりのある地域への恩返しというストーリーとしても展開いただけるのではないかと思い、ご紹介させていただきました。ご希望があれば、現地での森林保全活動への参加なども組み合わせたご提案も可能です。」
この回のポイント
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- 本社が別エリアにある大手企業の地域拠点は、「融資では入り込めない相手」だからこそ、地元創出クレジットという切り口で新たな関係を築ける
- 大手企業は削減ニーズが明確で購入量も大口になりやすく、地域の創出者にも金融機関にも大きなメリットをもたらす
- 山陰合同銀行の紹介から生まれたプロテリアル×奥出雲町の事例は、「取引先のルーツ」と「調達タイミング」を捉えた紹介がいかに響くかを示す好例
- 融資の有無にかかわらず、地域ならではの情報を「適切なタイミング」で届けることこそ、地域金融機関にしかできない価値提供である

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